「食が太い」のは直りません。愛犬の体重コントロールは、飼い主さんの強い意志と満腹感を与える食事の工夫で

愛犬のムラ食いも困るけれど、食欲が旺盛すぎるのも困りもの。欲しがるだけあげていれば、あっという間に健康の大敵・肥満になってしまいます。飼い主さんの強い意志と、愛犬があまり我慢せずに済む食事の与え方で、体重コントロールをめざしましょう。

 

まずは飼い主さんの意識を変えることから

食が太い、食い意地が張っているというのは直りません。レトリーバー、ビーグル、ダックス、テリアなどの犬種に多いですね。食べ過ぎへの対策は、飼い主さんが意識を変えること。よくあるのが、「うちのコはこれしか食べないから」と言い張って、大福やら牛肉やら人間の食べ物をあげるケース。他の物だって食べるはずなのに、犬が喜ぶ姿を見たくて与え続ける。食の太いコは、あげたらあげただけ食べて太っていきます。肥満はすべての病気の引き金になるだけではなく、麻酔のリスクも高まったり、足腰にも負担がかかり、いいことは一つもありません。飼い主さんが頑張って体重をコントロールしていくしかないのです。

「好きなものをあげないとストレスがたまる」と飼い主さんは言いますが、味のついた人間の食べ物を与えると寿命を縮めかねないので、そのコの命の心配もしてあげてほしいのです。家族がテーブルで食事をしていると欲しがってかわいそうだと言う人もいますが、家族が協力して「あげない」と決めれば、犬も学習していずれ諦めます。

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犬に我慢させずに食事量を守るには

食事を欲しがるだけ与えていると健康管理が行き届かなくなるため、飼い主さんには、犬に健康上の問題がなければ、要求されても規定量しか与えないように指導しています。まずは飼い主さんが意思を強くすることです。犬が諦めずに吠えたり、テーブルによじ登ったり、隙を見て人の食事を狙ったりする行動をやめさせるには、家族の食事中はクレートに入れたり、別の部屋で待機させてください。

また規定の食事量では満足できないコには、カロリーが低くカサを増せるフード、硬めで噛むのに時間がかかるフードを与えると満足感が出やすく、フードへの要求を緩和することができます。

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早食いで困るという相談も多いです。フードを咀嚼せずに飲み込むのは犬本来の行動ですが、早食いすぎて吐いてしまうこともあります。食道拡張症などの病気ではなく、早食いが原因で吐く場合は、早食い防止用の凹凸のある特殊な食器を使用するといいでしょう。食欲旺盛なコにも、この食器を使って時間をかけて食事をさせるようにすれば、カサ増しと同様、満腹感を与えやすいかもしれません。

 

食べ物への執着とおもちゃへの執着は別物

食い意地が張っていると、何でも口にして誤飲事故につながりやすいと思われがちですが、食べ物への執着とおもちゃへの執着は別物です。執着の強いコは、口にした物を回収する「ちょうだい」のトレーニングが必須。最初は、執着が少なく飲み込めないサイズのおもちゃから始め、確実に「ちょうだい・放す」ができるようになったら、少しずつ執着の強いおもちゃへとハードルを上げていきます。“おやつ”との交換を習慣化しておけば、とっさの時に助かります。

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しっかり訓練が入っていれば、持って逃げても冷静にコマンドを出せば従ってくれますが、訓練が不十分だと、飼い主さんが指示を出しても、かえって犬を追い詰めパニックになって飲み込んでしまいます。とっさの時に出せるか出せないかで生死が決まることもあるので、子犬から飼う人には、「交換」のトレーニングをすることをおすすめしています。

 

過食の背景には、何か満たされないものがあるのかも

うちの病院に来るキャバリアで、異物誤飲で頻繁に吐かせたり、開腹手術を3回も受けているコがいます。食べるのは布系の靴下とタオル。「これ以上手術はできないので家で管理することが必要。カウンセリングを受けて、問題にしっかり向き合いましょう」とお伝えするのですが、飼い主さんは「うちのコは食いしん坊だから」と悪びれる様子もありません。行動パターンをみれば、明らかに食いしん坊が原因ではなく、常同障害(継続的なストレスや不安が原因で、無意味な行動を反復する)。しかし、いくら説明しても理解してもらえません。

食が太い-4※写真はイメージです

盗み食いをする場合でも、探せば食べ物が取れてしまう環境も問題ですが、単に食い意地が張っているのではなく、何かが満たされていない可能性があります。散歩が足りていない、飼い主さんとのコミュニケーションが不足している、留守番が多い、ケージに拘束されている時間が長いなど、満たされていない何かが背景にあるのかも。そうした生活全般を見てあげないと、過食に対する、的確なアドバイスはできません。

 

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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