オオカミは社会性が強く群れを構成する個体の間で厳密な序列関係を持っています。そのため、オオカミから家畜化された犬が人と生活するようになっても、人との間に序列関係を築くと考えられたことから、犬をしつける際には、飼い主が犬よりも上位の存在になって、犬を従わせることが重要であると信じられてきました。
また、犬の問題行動が生じる原因に関しても、犬が人を下に見て支配しようとする、いわゆる支配性理論が原因であると考えられるようになり、その修正や予防としてのしつけを行う際にも、飼い主は力や体罰によって犬を制圧し、犬よりも上位に立つことが求められてきました。
力で支配しようとすれば、関係性が悪化するだけ
しかし、実は「人と犬の関係=上下関係」という考え方には科学的な根拠はなく、犬の研究が進んでいなかった当時の専門家が、オオカミとの類似性を当てはめた方が人と犬の関係を説明する際に都合が良かっただけなのです。
現在では、犬の特性や問題行動に関する研究が進展したことで、家畜化された犬は人に対して序列関係を求めず、問題行動が生じる原因として支配性理論は関係がないことや(Bradshaw et al, 2009)、力や体罰によって犬を制圧するしつけ方や行動修正法は、問題の改善どころか更に悪化し、犬の福祉が損なわれる(Yin, 2007; Herron et al., 2009)などといった様々な研究結果が報告され、従来の「人と犬の関係=上下関係」という考えた方が見直されるようになりました。
しかし実際には、新たな人と犬の関係についての情報が十分には伝わっておらず、「人と犬の関係=上下関係」という旧来の既成概念に囚われている飼い主もまだ多くいるため、犬が言うことを聞いてくれないのは自分が下に見られているからと嘆いたり、上位に立つために力や体罰によって犬を制圧しようとして、互いの関係性を悪化させてしまう飼い主も少なくありません。
人と犬の関わりは、上下関係というより親子関係
犬は家畜化によって、成犬になっても子犬の時の特徴が残ったまま成長します(幼形成熟)。成犬になっても子犬のような人懐こい行動は、飼い主の犬を世話したいという養育心を誘発させるため、人と犬の関わりというのは、上下関係というよりも親子関係と表現したほうが適切なのではないでしょうか?
「子育て」と「犬育て」は非常に共通する部分も多く、家族の一員として犬を迎え入れる飼い主の気持ちを察すれば、人と犬の関係は「親子関係」に近いと広く周知させていくべきだと思います。