犬だって、いちばんの頼りは視覚情報。正しい知識をもって、愛犬の目を大切に(白内障、緑内障等の目の病気)[獣医師コラム]

犬にも、人と同様、さまざまな目の病気があります。病気について正しい知識をもって、早期発見・早期治療で、愛犬の目を守ってあげましょう。

 

嗅覚に優れた犬でも、失明は大きなストレスに

「犬は嗅覚が優れているから、目を失っても人間ほど困らない」と言われますが、行動学の専門家によれば、犬だっていちばん頼りにしているのは視覚情報で、それを失くすと性格が変わるほどとか。
確かに失明した直後の犬はとてもナーバスで、少し触れただけで悲鳴をあげることもあります。多くは半年~1年くらいで元に戻りますが、犬にとってはとても長い期間です。それほど、失明は大きなストレスなのでしょう。愛犬の目、大切にしてあげてください。

 

難しい手術は眼科専門病院で

目は構造上、他の部位と違って特殊なので、目の中の手術は専門病院でないと受けられません。一般病院でできるのは、瞼をとじること、一部のレーザー治療、眼球摘出など。ですから、うちの病院でも、目に関しては専門病院を紹介することが多いです。専門病院で診てもらったほうが、治療の選択肢も広がります。

 

犬によく見られる目の病気

【白内障】
★好発犬種:トイ・プードル、シー・ズーなど
目が白く濁ってくるので、初期の段階でも比較的発見しやすいです。今までクリアに見えていたものが、くもりガラスを通して見るような視界になってきます。光は網膜(神経細胞)で感じとりますが、くもりが強くなると網膜への刺激が減少。網膜は刺激が少ないと死滅していくため、進行すれば失明に至ることもあります。

進行はゆっくりですが、食い止めるには手術しかありません。手術に抵抗がある場合は、点眼薬やサプリメントで進行を遅らせていくことになりますが、効果はあまり期待できません。手術も、網膜がまだ機能している初期段階であることが条件です。白内障を病気ではなく「老化」と捉える向きもあり、老化と考えるなら、無処置も一つの選択といえるでしょう。

【緑内障】
★好発犬種:シー・ズー、柴犬など
眼圧が異常に高まることで視野や視力に障害をきたし、最終的に失明に至ることもある病気で、若齢でもかかります。
初期には、点眼薬と内服薬で眼圧と痛みをコントロールしていきますが、症状が進むと眼圧の関係で眼球が突き出てきます。レーザー治療をしても効果が得られないときは、犬を痛みから解放するために、眼球摘出を選ぶケースも少なくありません。外見保持のために義眼を入れることもあります。

【進行性網膜萎縮】
★好発犬種:ラブラドール・レトリーバー、トイ・プードル、ニチュア・ダックスフントなど
遺伝性疾患で、多くは両目に発症します。無症状で進行し、視力だけが落ちていくため、気づいたときには失明しているケースがほとんど。まれに瞳孔などの動きから早めに気づくこともありますが、現時点では治療法がなく、進行を遅らせる効果があるとされるサプリメントを摂るぐらいしかできません。

【角膜炎】
角膜(黒目の表面を覆う膜)に炎症を起こす病気の総称です。砂やホコリで角膜を傷つけたり、ケンカによる外傷、細菌やウイルス感染のほか、涙の量が少なすぎて発症することもあります。

【瞳孔の異常】
瞳孔が過度に開く散瞳、閉じる縮瞳など、診察のときには、必ず瞳孔の状態もチェックします。基本左右対称なので、片方の瞳孔の大きさが違う場合は、何かの病気の可能性があります。瞳孔の異常には、目の病気からくるものと、神経系の障害が症状として目に現れているケースがあります。

【鼻涙管閉塞】
★好発犬種:トイ・プードルなど
目と鼻をつないでいる鼻涙管が詰まり、涙があふれてくるもので、両目・片目ともに起こります。顔の構造によるものなのか、トイ・プードルなどでよく見られます。また、結膜炎などによる腫れが原因で詰まることもあり、その場合は点眼薬の使用で治りますが、一度詰まると慢性化しやすくなります。
鼻涙管閉塞になるとつねに涙が皮膚に付着し、菌が繁殖して炎症を起こしたり、涙やけを起こしやすくなります。涙を止める点眼薬はないので、こまめに拭いてあげるしかありません。鼻涙管を広げる処置を定期的に受けている犬もいますが、早ければ数週間で詰まってきてしまうため、一時的な改善法でしかありません。

【ドライアイ】
★好発犬種:シー・ズー、コッカー・スパニエルなど
本来、涙で目の汚れを洗い流していますが、ドライアイの場合、涙が少ないため汚れが目の表面に吸着してしまい、結膜炎や角膜炎を起こしやすくなります。ドライアイ用の点眼薬もありますが、完治は難しく、治療はほどほどの維持をめざすことになります。

【チェリーアイ】
瞬膜の裏側にある分泌腺が赤く腫れあがって、飛び出してくる病気。押し込んでもまた出てくることがが多いため、手術して奥に縫い込む処置をします。

【外傷】
こすった、ぶつけた、刺さった、喧嘩で噛まれた、瞼を切った…などの外傷もよくあります。猫とのケンカでは、角膜が猫の爪で深く傷つけられ、角膜潰瘍や角膜穿孔を起こして失明することもあります。

 

犬にとっても、視覚はとても大切な機能。愛犬の目、大切にしてあげてくださいね。

 

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箱崎加奈子

獣医師、トリマー、ドッグトレーナー、アニマルクリニックまりも 院長 麻布大学獣医学部卒。 気軽に立ち寄れるペットオーナーのためのコミュニティスペースを目指し、「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」を東京都世田谷区、杉並区に開業。病気はもちろん、予防を含めた日常の健康管理、ケア、トリミング、預かり、しつけなどを行う。2020年よりピリカメディカルグループの運営会社 株式会社notに参画。現在、ピリカメディカルグループ総院長を務める。 ▶アニマルクリニックまりも ▶女性獣医師ネットワーク

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