保護犬を迎える心得や接し方。野犬・野良犬・元飼い犬ではどう違う?

新たな飼い主さんを待つ犬は「保護犬」と呼ばれています。生い立ちによって野犬、野良犬、元飼い犬に分かれ、さらに問題行動や虐待の傷を抱えていることも少なくありません。
慣れやすい犬から警戒心が非常に強い犬までさまざまで、「幸せにしてあげたい」という気持ちだけでは対応できなくなる場合もあります。「保護犬」とひとまとめにされることでわかりづらくなっている犬たちの生い立ちを知ることも大切です。
今回は多くの犬を保護・譲渡してきた北村紋義(ポチパパ)さんにお話をうかがいました。

<お話を伺った方>
北村紋義さん(ポチパパ)
大阪府富田林市で犬のシェルター「保護犬達の楽園」を運営。ドッグメンタリストとして問題行動の改善も行う。一般社団法人Animal Rescue Nursing代表。YouTubeで「ポチパパ ちゃんねる【保護犬達の楽園】」を開設し、保護した犬たちの暮らしぶりやしつけのアドバイスを配信している。
YouTube:ポチパパ ちゃんねる【保護犬達の楽園】

譲渡前に保護犬の過去を確認することが大切

問題行動犬や大型犬を中心に保護活動を行う北村紋義(ポチパパ)さんは、保護犬を迎えた飼い主さんから相談されることが多く、オンラインミーティングも開催しています。保護犬と暮らす飼い主さんの現状はどのようなものなのでしょうか。

北村紋義さん(ポチパパ)
北村さんは10年ほど前に保健所から愛犬のポチを迎えたことをきっかけに、保護活動を始めた。

「保護犬を迎える方が増えているのはうれしいのですが、中にはベテランの飼い主さんでも扱いが難しい犬もいます。特に数年前から増えている野犬については、1日に十数件を超える相談があった時期も。保護犬を迎えた3割くらいの方は持て余しているのではないでしょうか。犬の過去や扱い方について確認してから譲渡してもらったほうが、その後の生活が安定しやすいと思います」(北村さん)

保護犬を生い立ちごとに大きく分けると、野山に住んでいた「野犬」、民家の近くに住んでいた「野良犬」、人に飼われていた「元飼い犬」。生い立ちによって性格が異なり、人への慣れやすさや譲渡後の暮らしやすさにも違いがあります。北村さんの経験をもとにそれぞれの特徴を紹介します。

「野犬」は警戒心が強く、信頼を得るには飼い主の努力が必要

野犬は日本犬以上に野生的な犬です。飼い主の努力と時間をかけて犬の信頼を得られれば、飼い主のことを自分の母親のように慕ってくれます。そばから離れないほど懐くのが野犬の魅力。ただし生まれもった警戒心や恐怖心の強さをなくすことはできず、飼い主さんがイメージする家庭犬にはなれないかもしれません。

「保護犬達の楽園」で暮らす元野犬
山奥で暮らしていた野犬は人を見たことがないので、家庭に慣れるまでかなり時間がかかる。

北村さんは、超大型犬や“咬み犬”を飼ってきたベテランの飼い主さんから相談されたこともあります。「いつもケージの奥で固まっていて、家族が見ていない間に食事や排泄をしている。1年経っても変わらなくてどうすればいいのか」と困り果てていたとか。野犬の譲渡が増えるにつれて、このような悩みを抱える飼い主さんも増えているそうです。

野犬の生い立ち
人間社会から離れた山野に住んでいる。昔からある程度の集団になって暮らしていた。野良犬や元飼い犬が集まって繁殖したケースもあると考えられる。保健所が捕獲して収容することもある。飼い主がいない犬は殺処分されるケースが多く、それを防ぐため動物保護団体によって保護・譲渡されることが増えている。

野犬の性格
警戒心と恐怖心が非常に強い。生まれてから人を含めて人間社会にあるものを見たことがない犬が大半なので、あらゆるものを怖がり、家庭に慣れるまでに時間がかかる。首輪やリードをつけることさえ最初は難しい。怖いときに逃げ回る犬のほうが慣れやすく、腰を抜かしたように固まる犬は慣れにくい。生後半年未満(できる限り早い時期)のほうが家庭犬として迎えやすい。

野犬への接し方の注意
犬が慣れるまで待つことが重要。室内で首輪とリードに慣らす練習を行う。「かわいそうだから愛情をたくさんかけたい」とかまいすぎると、犬は追い詰められて恐怖を感じ、身を守るためにかむことも。野犬の扱いに慣れた専門家に相談したほうがよい。

「野良犬」は人間社会で暮らしていたので人に慣れやすい

野良犬は住宅街に近い河原などに暮らしている犬です。野犬と違って人間社会にいたので、家庭に迎えれば3年程度で飼い犬と変わらない家庭犬になれることが多いものの、人に危害を加えられた経験がある犬は敵意や恐怖をもっています。犬の過去を確認することが大切です。

「保護犬達の楽園」で暮らす犬たち
人間社会の片隅で暮らしているのが野良犬。人には慣れているが、首輪とリードは苦手。

ニュースなどでは野犬と野良犬をひとまとめにしていますが、北村さんは区別しています。「人間社会を知らない野犬と知っている野良犬では、人に対する行動がまったく違うからです」とその後の暮らしやすさも考えて、生い立ちごとに分けています。

野良犬の生い立ち
食べ物のあるところに集まり、住宅街に近い雨風をしのげるところで繁殖した犬。元飼い犬が混ざっていることが多い。野犬と混同されやすいが、人目につくところにいるのが大きな違い。保健所に収容された場合は殺処分されやすいが、保護・譲渡されることもある。

野良犬の性格
警戒心はやや強いが、人間社会の中で暮らしていたので人、環境、自動車などに慣れている。人に触られた経験がない犬が多いため、最初は距離をおく犬が多い。人に危害を加えられた経験がある犬は敵意をもって威嚇するが、攻撃のためにかむことは少ない。

野良犬への接し方の注意
野犬と同じく、犬が慣れるまで待つこと。食事をしっかり与え、空腹を満たすと落ち着いてくる。人間社会に住んでいたので人と意思の疎通をはかりやすい。首輪とリードに慣らす練習を行い、脱走させないように注意する。

「元飼い犬」は家庭犬に戻れるが、問題行動には注意

元飼い犬は、無責任な飼い主(ブリーダーを含む)によって飼育放棄された犬です。人に世話をされたり室内で過ごしたりした経験があれば、迎えてからも比較的早く家庭に溶け込めます。良い関係を結ぶことができれば再び家庭犬として暮らせます。ただし誤った接し方をしてしまうと、問題行動に発展することも少なくありません。野犬や野良犬は身を守るために攻撃することがありますが、元飼い犬のかみつきは主張や要求であるケースも。

「保護犬達の楽園」のプードル
飼い主の誤った接し方によって問題行動が起き、飼育放棄される元飼い犬もいる。

現在保健所では飼い主による持ち込みを拒否できますが、人に危害を加える可能性がある犬は引き取っています。そのため「かみつくから飼えない」と嘘をついて持ち込む人も。このような犬は譲渡の対象になりにくく、動物保護団体が引き出すのも大変。北村さんは「どうしても飼えなくなったら、最後の責任で新たな飼い主を探してください」と訴えています。

元飼い犬の生い立ち
病気、脱走、問題行動などの理由により、飼い主に放棄された犬。廃業したブリーダーに放棄された犬も含まれる。1頭で放浪していることが多く、保健所、動物保護団体、一般家庭で保護されることもよくある。また、飼い主が保健所に持ち込むこともある。保護されずに野良犬の集団に合流することもある。

元飼い犬の性格
生まれてからずっと人間社会に住んでいて人の身近にいた分、虐待や問題行動など、犬によってさまざまな背景がある。生い立ちによって性格が異なり、攻撃性が非常に強い犬もいれば、穏やかでフレンドリーな犬もいる。飼い主や環境が変われば落ち着くこともあるため、適切な家庭とのマッチングが重要。

元飼い犬への接し方の注意
人の手で世話をされた経験があるため意思の疎通ははかりやすい。首輪とリードにも慣れている犬が多いので、自宅に入る前に近所を一緒に散歩してから、犬に自分の足で家へ入らせたほうが落ち着きやすい。飼育放棄された原因が問題行動だった場合、それが再燃しないように専門家に相談したほうが安心でしょう。

保護犬を迎えるときの注意

「初めて保護犬を迎える飼い主さんは、譲渡後も相談にのってくれる動物保護団体から迎えたほうが安心でしょう。2週間前後のトライアル期間では、十分なマッチングの確認ができない可能性もあります。特に野犬の場合、トライアル期間内にケージから出てこなかったり散歩ができなかったりするケースが多いからです」

地域によっては保護犬の譲渡を促進するために、保健所から犬を引き出してすぐ飼い主さんに渡していることもあります。生い立ちや性格、接し方の注意が把握できないままでは、新たな家庭に入っても再び保護犬になってしまうかもしれません。

「保護犬達の楽園」の犬たち
北村さんは面倒見のよい愛犬を“相棒犬”と呼び、施設に来た犬たちと会わせて交流のきっかけにしている。

保護犬との生活には最初のアプローチも重要です。ついかまいたくなってしまうと思いますが、野犬、野良犬、元飼い犬のいずれの保護犬も、最初はかまわないのが鉄則。犬のほうから寄ってくるのをひたすら待ってください。無視していれば野犬でさえ、やがて人に寄ってくるのです」

寄ってきたときにも、いきなり手を伸ばしてさわるのはNG。目を合わせたり犬の正面に立ったりすると威圧感を与えてしまうので、目をそらしたまま隣にしゃがみ、犬の肩のあたりをさわることから始めるのがふれあいの第一歩です。

「保護犬達の楽園」の犬と北村紋義さん(ポチパパ)さん
最初にさわるときは、手のひらよりも握りこぶし(手の甲)のほうが受け入れやすい犬が多いとか。

「保護犬が家庭犬になるために必要なものは『かわいそう』という憐れみではなく、愛情と根気です。生い立ちはあくまでも犬への接し方を確認するための情報にすぎません。過去を断ち切って今の犬を見てほしい。『幸せにしてあげる』のではなく、『一緒に幸せになる』という気持ちで未来を考えてください」

北村さんが保護活動を始めるきっかけになった愛犬や問題犬たちのエピソードをまとめた著書『どんな咬み犬でもしあわせになれる』(KADOKAWA)が出版されました。犬と幸せに暮らすためのアドバイスも解説されています。これから犬を迎える方、愛犬と暮らしている方、犬が好きなすべての方に手に取ってほしい一冊です。

どんな咬み犬でもしあわせになれる 愛と涙の“ワル犬”再生物語

プレゼントの応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。

金子志織

編集&ライター、愛玩動物飼養管理士1級、防災士、ヒトと動物の関係学会会員、いけばな草月流師範 前職はレコード会社でミュージシャンのファンクラブ運営を担当。そのときに思い立って甲斐犬を迎える。初めての子犬の世話に奮闘するうちに動物への興味が湧き、ペット雑誌や書籍を発行する出版社に転職。その後、フリーランスのライター・編集者として独立。飼い主さんと動物たちの暮らしに役立つしつけや防災の記事から、犬のウンチングスタイルなど雑学の記事まで作成。現在も犬と猫を中心に、ペット関連のさまざまな雑誌、書籍、We…

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