10/4に発売された『マンガでわかる犬のきもち』。
発売早々に重版が決定し、現在も大ヒット中のこの本を作ったのは、今泉忠明氏(監修)、影山直美氏(マンガ)、富田園子氏(編集・原稿)。10月某日、この三者に集まってもらい、この本について語ってもらった。
<お話をうかがった方々>
今泉忠明氏
哺乳動物学者。日本動物科学研究所所長。犬に関する著書・監修書多数。最近のヒット作は『ざんねんないきもの事典』。以前の愛犬はシェットランド・シープドッグ。
影山直美氏
イラストレーター。柴犬好き。愛犬との日々を題材にした作品が人気。『うちのコ 柴犬』シリーズなど著書多数。『柴犬さんのツボ』最新刊が11/1に発売予定。
▶影山直美ホームページ
富田園子氏
編集者・ライター。日本動物科学研究所会員。PetLIVES猫のライターとして活躍中だが、今回は犬の本に挑戦。以前の愛犬はパグ。
▶富田園子ホームページ
柴犬マンガ界の巨匠・影山直美氏でも知らなかったネタがいっぱい!
富田園子さん(以下、富田):作ってて一番印象に残ってるのは、「犬はウンチするとき南北を向く」なんですよね。
今泉忠明先生(以下、今泉):ああ、あれね。
影山直美さん(以下、影山):あれを知ってから、愛犬のテツとこまを散歩させるとき、必ずチェックするようにしていて。確かにテツは、南北を向いてウンチしてることが多かったんです。
富田:え~、すごい! 妹分のこまちゃんは・・・?
影山:こまは、向く方角めちゃくちゃでした(笑)。
富田:これ、本当に気になるデータですよね。犬はウンチのとき南北を向く傾向があるけど、それが何のためなのかさっぱりわからないというのが(笑)。まだ解明されてない謎という感じで、すごく印象に残ってます。
今泉:牛や鹿が草を食べたり休憩するときも、南北を向くことが多いんだよ。無意識のうちに地球の磁場に合わせているらしい。さらに、飼育されている個体よりも野生の個体のほうがその傾向が強いらしい。
富田:ということは、テツくんのほうがこまちゃんより野性の勘が優れているのかも・・・!?
今泉:あるかもしれない(笑)。
富田:これを調べるために、この研究者が70匹の犬から7,475回の行動の詳細を2年間記録したっていうのも、感服と言うか(笑)。
影山:このネタもそうだし、他にも知らなかった事実がいっぱいあって、自分がマンガを描いていて何ですが、読んでてとっても面白かったです。
飼い主との再会をあれほど喜ぶのはなぜ?
影山:飼い主が不在をして、その後犬と再会したときどれだけ喜ぶかという実験結果も面白かったです。30分の不在より、4時間の不在の後のほうが、喜び方が大きいという話。買い物から帰った後の犬たちの様子を見ていると実感です。
富田:旅行から帰った後なんかは?
影山:それが、宿泊して帰ると、犬は冷たいんです。そっけないというか。
今泉:すねちゃったんじゃない?
影山:どうやらそのようです。
富田:「ひとりぼっちにして!」という感じですかね(笑)。
飼い主の不在という話では、ダーウィンの実験もすごいですよね。愛犬の記憶力を試すために、5年以上もわざと会わないなんて。5年も会わなくても愛犬はダーウィンのことをちゃんと覚えていて、犬の記憶力ってすごい、という結果でしたが、私だったら5年も会わないなんて考えられない。
影山:さすがダーウィンというべきか(苦笑)。
今泉:情が移るとできない実験もあるよねえ。
日本犬の性格は、猟の仕方に由来?
影山:私は柴犬を飼っているので、日本犬の性格の話も興味深かったです。
富田:日本犬が飼い主だけに忠実なのは、日本の猟の仕方に由来がある、という話ですね。
影山:柴犬って飼い主以外には懐かないことも多いのですが、それがマンツーマンの猟に由来があるというのは、なるほど納得でした。
富田:日本犬は頑固だったり、しつけにコツが必要な子も多いけど、最近はブームもあって、かわいいだけで飼い始めて後悔しちゃう人も多いようですね。
影山:そうみたいですね。私も、特にいまのテツの若い頃は、しつけに苦労しました。最初のゴンがおっとりしていただけに、テツのやんちゃぶりに振り回されましたね。
富田:同じ柴犬でも、やっぱり性格はそれぞれですもんね。
影山:そういう意味では、この「犬にも楽観的なタイプと悲観的なタイプがいる」という話も面白かったです。
富田:「悲観的」というとマイナスなイメージがありますが、言い方を変えれば「慎重」で、盲導犬などに向いているという話ですね。
影山:そうそう。適材適所という感じがしてよかったです。
犬のしつけの極意って?
富田:やっぱり犬はしつけが大変じゃないですか。しつけの極意って何ですかねえ??
今泉:散歩することですよ。延々と散歩するの。
影山・富田:散歩??
今泉:普段の行動エリアから出て、延々と散歩するの。そうすると、知らない町のなかで犬は不安になる。頼れるのは飼い主しかいなくなる。それで信頼関係を築くんです。
富田:へえー。そんな方法が…。
影山:そういえば以前、散歩中にノーリードの犬がテツに絡んできそうになったことがあったんですよ。私そのとき、大声で飼い主を怒鳴って阻止したんですが、その後テツを見たら、なんだか尊敬のまなざしで私を見上げていて・・・(笑)。
富田:「母ちゃん、すげえ!」って思ったんですね(笑)。
賢い犬だからこそ得られるデータがいっぱい
影山:この本、最初は面白ネタが多いんですが、後半は泣かせるネタが増えますよね。
富田:私も作ってて、「犬ってどうしてこんなに人が好きなんだろう」と、きゅんとしました。そのデータが、賢くて従順な犬だからこそ取れるデータというのも、猫にはない特徴というか。
例えば「犬が最も喜びを感じるのは飼い主さんのニオイ」というデータにしても、脳がスキャンできるMRIの中に犬を入れて、いろんなニオイを染み込ませたガーゼを鼻に当てて、そのときの脳の反応を見る、という実験から得られたものなんですが、MRIの中で犬はじっとしてなきゃいけなくて、その様子が見られる写真を見て、「なんて犬は賢いんだ!」と感心。
実験では同居している犬よりも飼い主のニオイに強く反応しているという結果が得られて、「なんでお前、同族より人のこと好きでいてくれるんだよ~」と胸きゅんでした。
影山:なんで犬は、こんなに人が好きなんでしょうね? 犬が人間の最良の友となりえた理由は何なんでしょう?
今泉:最初は、やはり食事です。人のそばにいると食事にありつけたから。損得を計算したわけです。あとは選択繁殖。人懐こい犬を選んで繁殖してきた結果、人が大好きな犬にどんどんなっていったと。
富田:凶暴な犬は飼育が難しいですからね。この本でも語ってますが、大型犬には気が優しい犬が多いのも、大型が凶暴だったら大きな事故につながるからですもんね。
飼い主のピンチも嗅ぎ取る犬の嗅覚
影山:犬が人間の表情や空気を読み取れるというのも納得でした。私が真剣に仕事をしているときは、テツたちも静かにしてるんです。私の真剣さをちゃんと感じているんですよね。
富田:真剣さといえば、飼い主の仮病では犬は助けないという話も私は面白かったです。飼い主が車にひかれそうになったり、溺れそうになっていると助ける犬の話はたくさんあるのに、実験で飼い主が仮病を使って倒れても、犬は誰も助けなかったという(笑)。
今泉:本当にピンチのときに出る、ある種のニオイを犬が感知しているという説ね。
富田:実験の映像があるんですが、仮病で倒れている飼い主をよそに犬は遊びまわったり、飼い主の上に乗って寝ていたりしておかしくて(笑)。
影山さんが真剣に仕事をしているときも、何かのニオイを出しているのかも?
影山:ええ?(笑)
犬に死の概念はない
影山:このページに「犬に死の概念はない」とありますが…。
今泉:そうです。動物に死の概念はありません。人でも、死の概念が生まれたのはネアンデルタール人からといわれています。
影山:ゴンが亡くなったときに、そばにいたテツはどう考えていたのかな、と思って。
今泉:「死」というものはわかりませんが、呼吸音がしなくなるし、生前とは体臭も変わりますから、「前と違う」というのはわかると思います。
別のペットが亡くなった子の体を前足でつついたりする話を聞きますが、それは「おい、どうしたの?」って言ってるわけです。
影山:ゴンは自宅で、私の腕の中で息を引き取ったんですが、不思議なのはテツはそのとき私たちに背中を向けて座っていて、こちらを見なかったんです。その後も、少なくとも私の見ている前では、ゴンのほうを見なかったんですよね。
今泉:たとえ見なくても、音やニオイで「前と違う」というのはわかっているんじゃないかな。
富田:影山さんたちに背中を向けて座っていたのは、ふたりを守ろうとする気持ちだったのかも?
犬は自分が死ぬときも、死の概念がないから人のようには恐怖を感じないのでは、と思えるのは、飼い主さんにとっては救いですね。
一方、飼い主の死も理解できないから、忠犬ハチ公のように飼い主をずっと待つ犬がいる、というのは切ないですね。飼い主の遺体が乗った霊柩車を何キロも走って追いかけたり、飼い主が眠る墓の前で待つ犬の話なんかもあって、書きながら泣きそうでした。
影山:飼い主は、犬より早く死んじゃいけませんね。責任重大。
富田:本当に。犬にとっては、自分の死より、飼い主さんとの別れのほうが辛いことなんだと、この本を作ってよくわかりました。
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<取材場所> いぬねこcafeるうあ
町田市にある、里親募集型カフェ。
保護犬・保護猫のよりどころ。カフェのほか、トリミングサロンやペットホテルも行っています。
▶ホームページ:http://inunekolua.com/