ある日突然、飼い主が病気に!? 愛犬を守るために「備えよ、常に」

突然ですが、1907 年イギリスで始まった健やかな子どもを育成する世界的な運動・ボーイスカウト活動をご存知でしょうか。そのスカウトたちのモットーは「備えよ、常に(Be prepared. )」であります。うちの娘も小学生のときからスカウト活動に参加していますが、まさに今回はこの言葉がぴったりな私の体験談を書いてみたいと思います。

私、昨秋からずっと座骨神経痛で困っておりました。左臀部からかかとまで、左足がビリビリ痛くて、犬の散歩にも支障がでてきました。近所の整形外科でレントゲンを撮り「目立つ所見はないけれど、たぶん椎間板ヘルニアでしょう」と言われ、痛み止めの薬を処方され、物理療法(電気治療)、牽引装置による腰の牽引、理学療法士による運動療法に励みました。しかし、いっこうによくならない。2か月経っても改善しないどころか、日に日に悪くなる。いま思えば「たぶんヘルニア」というふんわりした診断のまま、通っていたのが失敗でした。早くセカンド・オピニオンを聞きにいけばよかった(後の祭り)。

ようやく脊椎の専門病院を予約して12月にMRIとCTを撮ったら、あっさり病名が判明しました。「黄色靱帯骨化症」。プロ野球・楽天の星野仙一元監督と同じ、難病指定される珍しい病気です。

闘病記-1年末、入院しました(涙)。犬なしの入院生活は耐えがたいので、ワイマラナーちゃんを同伴

ただ病名がはっきりしたのは嬉しかったのですが、しかし、自分が難病になってしまった、というのはやはりショックでした。最悪、一生、車椅子になるらしい。そんな馬鹿な。信じられない。数日間は呆然としていました。

でも、凹んでばかりもいられない、犬の散歩に行きたいから、なんとしても絶対治したいと頭を切り換えて、この病気について調べまくりました(これはライター癖とも言う)。幸い、犬友達経由でいいお医者さんを紹介してもらえて、年内に手術することができました。持つべきものは犬友達です(笑)。

闘病記-2手術直前。先代のワイマラナーとコーギーの写真を見て、負けないぞ、と心に誓う

でも…手術が成功したら、すぐに普通に歩けるようになるのかな、と思っていたけど、考えが甘かった(涙)。脊椎椎弓間にできた骨化した異物を摘出しても、今まで圧迫され続けていた中枢神経のダメージが残っていて、術前のビリリ系の激痛は減ったものの、ズドーーーーン、ジワワワァというひどい疼痛は残ったまま。痛みのジャンルは変わったけれど、十分痛い。しかもこの痛みは、一生残る可能性があるとのこと(オーマイガッ!)。いまは、複数の痛み止めと漢方の生薬(疼痛管理、便秘・冷え対策)を毎日煮出して飲んでいます。

私が退院して帰宅したら、もうクーパーが悲鳴にも似た歓喜の声で迎えてくれて、急いでサッカーボールを貢いでくれました。ああ、なんて犬って可愛いんだ

 

もし家族がいなかったら、犬たちはどうなってしまうんだろう?

…とまあ、12月、1月は犬の散歩はおろか、寝たきりになっていた私ですが、このたびベッドに横たわりながら、(脳みそは元気ハツラツなので)いろいろ思考をめぐらしておりました。

闘病記-5退院はしたものの、家庭でも絶対安静。胸まであるオーダーメードのコルセットが痛々しい私。たまにベッドから起きると、クーパーが私にべったりです

最も切実だったのは「ああ、私にはいまオットと高校生の娘がいて、毎日2頭の散歩に行ってくれるし、ごはんも与えてくれるけれど、もし手伝ってくれない家族だったり、私が1人暮らしだったら、犬はどうなってしまうんだろう」という思いです。そして「こういう状態になったとき、人は犬を捨てるのではないか」と。いや、いかなることがあっても、犬を捨てるなんて、あってはならぬこと。でも、止まらない痛み、将来的な不安、経済的な心配、日々の散歩の問題など、そうした困難がのしかかってきて絶望する気持ちはよくわかります。

とくに最近では高齢者の飼い主が入院したため、あるいは、死亡したため飼育放棄される犬がすごく増えていると聞きます。親族が引き取らないなんてあんまりじゃないか、とも思うけど、いろいろな事情があるのでしょう。とにかく、病気で犬の世話がこの先できなくなる、という事件は意外と他人事ではないんだと、身をもって感じました。

闘病記-6You Tube で世界最大のドッグショー、イギリスのクラフト展「Cruft 2015」を発見。ガンドッグ・グループ戦をキャーキャーと堪能した。寝たきりだから、幸か不幸か時間はたっぷりあるぞ

つい「自分は大丈夫♪」って思いがちなんだけど(私もまさにそうでした)、いやいや「昨日は人の身、今日は我が身」。また先月は知人が乳がんになり、入院治療をすることになりました…30代後半という若さなのに…心配。いずれにせよ、いつ、誰が、大きな病気になるかはわからないんです。交通事故や転倒事故で動けなくなることだってあります。

 

元気なときから、病気になったときのシミュレーションを

そこで、飼い主にできることはなんだろう、と考えました。そういうシミュレーションは大事ですね。まずは、犬猫を飼う前の話ですが、いたずらに頭数を増やしてはいけないなぁとしみじみ思います(うちは犬2、猫1)。非常時に友人に頼むにしろ有料で預けるにしろ、頭数が多いと人選や経済的に難しくなります。

闘病記-8術後1か月、杖をついて、メルの散歩に行ってみました。歩けました! 犬との散歩は最高のリハビリです

そして飼養中の実践編としては、元気なときから、人間の病気シミュレーションをしておくことかなと思います。自分が療養中に世話が頼めるよう、普段から家族会議で話題にしておくとか、たまには分担でやってもらう練習をしておくとか。犬のごはんの量や種類もわからないと困りますものね。最悪、私が死んだときのクーパーの身の振り方を、冗談まじりでもいいから(内心、本気)、後見人を選んでおくとベター(クーパーはドイツの獣医の友達のところに行くことになっている!)

闘病記-7-2ママが毎日いるのは嬉しいけれど、運動量が足りなくて、メルは退屈そう。すまないっ。ちなみに、メルは娘の犬なので、メルの後見人は私です。

また、いつもお世話になっているドッグトレーナーやペットシッター、動物病院に、病気になったときに預けることができるかどうか打診をしておくのも、真面目な飼い主ならやっておくべきことなのかも。でも短期の入院や療養ならともかく、それが何週間、何ヶ月にも及ぶと、お金がかかりますし、犬もケージ内でしか預かってもらえないのなら、愛犬までストレスで病気になってしまうかもしれません。お金で解決できないこともありそうです。

 

同じ犬種を飼う者同士の助け合いが心強い!

やはり私がいいなぁと思うのは、同じ犬種を飼っている友達と家族ぐるみで仲良くしておくこと。基本中の基本という気もしますが、でもほんとに大事なことだと思います。おうちが近所なら日々の散歩を頼んだり、遠ければお泊まり保育を頼める人間関係があれば理想的。「困ったときはお互いで助け合おう!」と、元気なときから笑い話のように、でもほんとは本気で話し合っておく。同じ犬種、あるいは同じジャンル(ラブラドールとゴールデン、フレンチブルとボストン・テリアなど)であれば、飼育上気をつけることや、散歩中の力レベルなどが似ているので預けても安心、というのもあります。

とにかくファンシャー同士の助け合いの密約(笑)、これ、みなさん、健康なときからぜひやってほしいなぁ。自分の犬を守るため、そして友達の犬も守るためにも。大事なことではないでしょうか。

闘病記-9-2おまけ。まめちゃんもストレスなのでしょうか、私の入院中から皮膚に異常が出始めました。目の上が禿げて、掻いて、少し血がでてる。そこでネットで見たカップラーメン・カラーを作ってみた。たしかにこれ、掻けないし、体も舐めないし、いいです

私が24時間寝たきり病人になって、いちばん嬉しそうなのはまめちゃんかも。ずっと私のベッドにいます

病気になったときは、飼い主自身も十分辛いものですが、でもやはり、いかなるときも自分の犬に迷惑をかけないようにする、ってことは大事。犬は、自分のひとりで生きてはいかれないから。だから「いつまでもあると思うな、若さと元気」「いつもあると思うな、健康と健脚(散歩に行ける足)」と肝に銘じ、ボーイスカウトよろしく「備えよ、常に!」でいきましょう。

 

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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