前編で、猫の歯周病の恐ろしさについては十分知ることができました。歯周病を防ぐには歯のケアが欠かせないということですが、どんな方法でケアしたらいいのでしょうか?猫の歯のスペシャリストである藤田先生にレクチャーしていただきました。
藤田桂一先生(フジタ動物病院院長)
獣医師・獣医学博士。
フジタ動物病院院長。日本獣医畜産大学大学院獣医学研究科修士課程修了。1988年、埼玉県上尾市にフジタ動物病院を開院。日本小動物歯科研究会長をはじめ、多くの学会、研究会の委員や評議員として活躍。動物の歯のスペシャリスト。
抱っこしている猫ちゃんは、病院の人気猫・いくらちゃん(3歳・オス)。
▶フジタ動物病院ホームページ
歯周病になりやすい場所はどこ?
もっとも歯周病になりやすいのは、赤で囲んだ上の奥歯(臼歯といいます)。臼歯はほかの歯より歯垢が付着しやすいためです。
また、下の写真のように、上の臼歯のそばには唾液を分泌する唾液腺があります。唾液中の成分(カルシウムやリン)が歯垢に付着して歯石の原因となるため、上の臼歯は歯周病になりやすいのです。
そのため、歯のケアは上の臼歯を中心に全体を行うとよいでしょう。
歯垢を取るには、やっぱり歯磨き!
歯垢は、歯の根元や歯周ポケット(歯と歯肉の境目の溝)にたまります。犬より小さい猫の歯の歯垢を取るためには、人の指では大きすぎます。犬ではよく行う、ガーゼを指に巻いて歯をこする方法も、猫には指が大きすぎてあまり効果がありません。
猫の歯磨き用として市販されている歯ブラシを使いましょう。人用の歯ブラシでも、歯間歯ブラシや乳児用歯ブラシなど、小さなものならOKです。
コツは、歯と歯肉の間に45°の角度で歯ブラシをあてること!
歯の根元や歯周ポケットにたまる歯垢を取るには、歯と歯肉の境目に45°の角度で歯ブラシをあてるのがコツ。まっすぐ垂直にあててみがくと、表面の汚れは落とせますが、歯周ポケットの汚れは完全には落とせません。
歯ブラシは、あらかじめ水にぬらすこと。乾いたままだと歯肉を傷つけてしまいます。猫用歯みがきペーストをつけるとさらに効果があります。
歯ブラシは左右に小刻みに動かします。大きくガシガシ動かすのは✖。細かなところの汚れがあまり落とせません。
▲上の歯をみがくには、大きく口を開けさせる必要はありません。口の中に歯ブラシの先を入れてしまえば、口は閉じたままでもみがけます。猫の歯垢は約1週間で歯石に変わります。そのため、最低1週間に一度は歯磨きが必要。できれば毎日みがいてあげましょう。
※ただし、すでに歯周病など歯の病気になっている猫は、歯磨きすると痛いのでできません。まずは動物病院で歯の治療をしてから歯磨きを始めましょう。
ハードルが高い…と思った方へ、歯みがきに慣らすコツ
このように歯磨きができれば理想ですが、子猫でないかぎり、突然歯磨きを始めても嫌がる子がほとんど。無理やり押さえつけて行うのは、「歯みがき=嫌なこと」のイメージがついて逆効果です。徐々に慣らしていきましょう。
STEP(1) 口に触ることに慣れさせる
歯ブラシを口の中に入れられることに慣らすために、口の中を触られることに慣れさせましょう。猫がリラックスした状態で、頬の外から指でモミモミ。嫌がらなくなったら、口の中に人差し指を入れて歯や歯肉を触ってみましょう。
ブラッシングなどでリラックスさせつつ行うのもおすすめです。
STEP(2) 歯みがきペーストを指で塗るだけ
口の中を触られることに慣れたら、猫用歯みがきペーストを指に取り、猫の歯に塗ってみましょう。猫用歯みがきペーストの多くは、猫にとっておいしい味がします。ペーストを塗るだけでも、ある程度の歯石予防効果があります。
STEP(3) 綿棒で歯みがき
STEP(1)、(2)が大丈夫そうなら、歯ブラシより細くてハードルが低い「綿棒みがき」に挑戦。やり方は歯ブラシでのみがき方と同じです。
綿棒を猫の歯の模型にあてているところ。歯と歯肉の間をこすります。
STEP(1)(2)(3)がクリアできたら、歯ブラシでの歯みがきに進みましょう。
最初のうちは猫が好きな缶詰の汁を歯ブラシにつけて行うのもおすすめ。好きな味に引かれて歯ブラシを受け入れてくれやすくなります。
藤田先生によると、猫ちゃんはどうしても手遅れになってから診療に訪れるケースが多いとのこと。飼い主さん、日頃から気をつけてあげてくださいね!
歯磨きに「よいイメージ」をもたせることが、最大のコツ!
猫に歯磨きに慣れてもらうためには、歯磨きに「よいイメージ」をもってもらうことが一番大切です。「無理やり押さえつける」「いうこときくように大声を出す」などはタブー。歯磨きに悪いイメージがついて、警戒するようになってしまいます。
あくまで優しく声をかけながら、決してあせらずに少しずつ慣らしていきましょう。
▲ブラッシングでリラックスさせながら、行うのもコツ。
「よいイメージ」をもたせるために、終わった後におやつをあげるのもよい方法
歯磨きをしたあと、また、歯磨きに慣らす過程(上のSTEP1~3など)を行ったあとに、猫の好きなおやつをあげるのも効果的です。
頬をモミモミしたら→おやつ、ちょっと歯を触れたら→おやつ、というふうに、繰り返すことで「歯磨きをしたらいいことがある!」と覚えてもらえます。歯石予防効果のあるオーラルケア用のおやつもあるので、探してみましょう。
「せっかく歯のケアをしたのにおやつをあげたら、また食べカスがついて歯磨きが無駄になるのでは?」と思ったあなた。心配ご無用です!
食べ物を食べると唾液がたくさん出ます。唾液には自浄作用や抗炎症作用があるため、口内をきれいにしたり、歯肉の炎症が抑えられるなどよいことばかり。唾液が歯石の原因になるのは、歯のケアをせずに歯垢を放っておいた場合の話。出たばかりの新しい唾液にはよい効果がたくさんあるのです。
お口を触られるのが苦手な猫ちゃんは、デンタルおやつなどを使って、できることから少しずつ
オーラルケアの大切さはわかっても、お口に触られるのが苦手な猫ちゃんに、いきなり歯磨きはできません。
まずは歯を触ることから始め、徐々に慣らしていきましょう。よいイメージをもってもらいながら慣らしていくためには、飼い主さんが気長に焦らず取り組むことと、ごほうびを上手に使うことがコツ。
歯石予防効果のあるフードやおやつで猫ちゃんの関心を引きながら、今日から少しずつ始めてみましょう!
猫ちゃんが喜んでできることから始めましょう!いくらちゃん、お疲れさまでした!
<関連記事>
▶ 猫は虫歯がないって本当?歯周病は?専門医に学ぶ猫のオーラルケア(病気編)
なぜ猫は虫歯はないのに、歯周病は多いのでしょう?歯の専門医に伺いました。歯周病などの症例の画像も。必見です!
詳しくはコチラ