虫歯以外にも口内の病気はたくさんあります。ここでは、猫の歯の構造や病気について、猫の歯のスペシャリストである藤田先生に教えていただきます。
藤田桂一先生(フジタ動物病院院長)
獣医師・獣医学博士。
フジタ動物病院院長。日本獣医畜産大学大学院獣医学研究科修士課程修了。1988年、埼玉県上尾市にフジタ動物病院を開院。日本小動物歯科研究会長をはじめ、多くの学会、研究会の委員や評議員として活躍。動物の歯のスペシャリスト。
抱っこしている猫ちゃんは、病院の人気猫・いくらちゃん(3歳・オス)。
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人はすり鉢、猫はハサミ!?
ご存じのように、猫の歯は鋭くとがった形をしています。人の歯は平たい形をしていて、形の差は明らかですね。
また、上の写真を見るとわかるように、猫は上下の歯が互い違いにギザギザの形に合わさるようになっています。これを「ハサミ状咬合」といいます。肉食である猫は、獲物の肉を切り裂くのに適した噛み合わせになっているのです。ちなみに人は、上下の奥歯で食べ物をすりつぶすような噛み合わせになっています。これを「すり鉢状咬合」といいます。
虫歯がないって本当?猫の歯のフシギ
意外なことですが、猫には虫歯はありません。そのワケは口内のpH(ペーハー)にあります。
人の口内は、pH6.5~7.0で、弱酸性。一方猫の口内は、pH8.0~9.0で、アルカリ性。虫歯をつくる虫歯菌は、酸性の環境でないと繁殖しにくいため、猫には虫歯がないのです。
また、歯の形も関係しています。平たい形をしている人の歯は、くぼみの部分に菌がたまりやすいですが、とがった猫の歯には菌がたまるところが少なく、繁殖しにくいのです。猫の虫歯は今まで、一件も報告はありません。これは人との大きな違いですね。
でも安心するのは早い!3歳以上の猫の8割は歯周病
じゃあ猫の歯は安心ね・・・と思うことは、残念ながらできません。 虫歯以外にも、口内の病気はたくさんあります。その代表的なものが「歯周病」。なんと、3歳以上の猫の8割は、この歯周病にかかっているといわれます。
歯周病の原因となるのは「歯垢」中の細菌で、歯を取り巻く歯周組織に炎症を起こします。歯垢が歯石化すると、ますます歯垢がつきやすくなり、悪循環を起こします。
ではまず、歯石ができるまでの過程を見ていきましょう。
<歯垢が歯石化するまでの過程>
歯石ができるまでの期間は、人より猫のほうが短い!
上の表の通り、歯垢を放っておくと歯石ができてしまいます。この期間が、人は約3週間といわれています。
一方、猫は約1週間。猫のほうが歯石化するまでの期間が短いのです。
つまり、1週間歯のケアをせずに放っておくと、歯石ができてしまうということ。しかも厄介なことに、歯石になってしまうと、もはや歯みがきでは取れず、取り除くには動物病院での処置が必要になります。
歯周病って、そんなに怖いの?
人にも多い歯周病ですが、その実態はあまり知られていないかもしれません。
ここで、歯周病について正しい知識をもっておきましょう。
上の写真は、重度の歯周病の猫の口内です。
猫は痛くて痛くてたまらない状態で、食事もできません。軽度であれば、歯垢・歯石を取り除く治療で回復できますが、ここまで重度になると歯を抜くしかありません。
歯の治療には全身麻酔が必要になります。
また、歯周病は以下のような病気も引き起こします。
●外歯瘻(がいしろう)・内歯瘻(ないしろう)
歯周病菌が骨まで溶かすことによって起こる病気。あごの骨にトンネルのように穴が開き、炎症を起こします。目の下などの皮膚に穴が開く場合を外歯瘻(下の写真)、歯茎に穴が開くなど口内で起こった場合を内歯瘻といいます。
●口鼻瘻管(こうびろうかん))
上の外歯瘻などと仕組みは同じで、口と鼻の間の骨に穴が開くことによって、口と鼻の間が貫通してしまう病気。鼻から唾液や食べ物が出たり、出血が見られたりします。
●歯肉口内炎(しにくこうないえん)
●全身性の疾患
歯周病によって口内に細菌がたまっていると、それが血流に乗って全身にまわり心臓や腎臓、肝臓などの疾患を起こす原因にもなりかねません。口は体の入り口なので、そこが汚れていると、全身に影響を及ぼすのです。
3歳以上の猫の8割は歯周病…
「じゃあ、どうやってケアしたらいいの?」後編では、藤田先生が歯みがき&簡単ケアの指南を。詳しくはコチラ>
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