「市販のキャットフードだけだとなんだか味気ない」「手作りに興味はあるけれど栄養バランスが心配」「猫が喜んで食べて健康になれるごはんが知りたい」……。
そんな飼い主の猫の食事に関するお悩みに応えてくれそうな1冊が、2020年11月に発売された『獣医師が考案した 長生き猫ごはん』(世界文化社)。著者で獣医師の林美彩先生に、猫の手作りごはんのメリットや成功させるコツについてお話を伺いました。
chicoどうぶつ診療所所長 林美彩先生
獣医師。代替療法・西洋医学両方の動物病院に勤務し、その後サプリメント会社での相談応対に従事。西洋医学と代替療法を取り入れた治療、病気にならない体作り、家庭でできるケアを広めるため、2018年3月に往診専門動物病院「chicoどうぶつ診療所」(東京)を開院。著書に『獣医師が考案した長生き犬ごはん』(世界文化社)もある。
新鮮な栄養素を取り込むことで、体の細胞が喜ぶ
林先生が手作り食を始めたのは、獣医大学の学生だった頃。当時、自身がドッグフード特有のニオイが苦手だったこともあり、愛犬のために手作りごはんを独学で勉強して、本格的に取り組むようになったといいます。
「食事は健康な体を作るために大切なもの。手作りごはんは“新鮮な栄養素”を直接摂ることができるので、体の細胞の喜び方が違います。そのコに合わせたオーダーメイドですし、自分で選んだ食材を与えるので安心・安全です」
現在、「山葵(わさび)ちゃん/4歳」、「雲丹(うに)ちゃん/8カ月」と、3カ月前に保護した「茗荷(みょうが)ちゃん」こと「ヌシちゃん/推定6歳」の3匹の猫と、犬の「空(くう)ちゃん」と暮らす林先生。2019年に『獣医師が考案した長生き犬ごはん』を出版すると、「猫にも手作りしたいけどやり方がわからない」「猫ごはんの本も出してほしい!」というたくさんの要望が寄せられ、今回「猫ごはん」の出版に至りました。
Hop・Step・Jump方式で段階を踏んで少しずつ慣らす
とはいえ、猫はもともと食欲にムラがあったり、食の好みやこだわりが強かったりするので、猫の食事は犬のように一筋縄ではいかない部分もあります。
「ごはんを出すと犬はバクバク食べてくれますが、猫は『これですか?しかたないな』みたいな顔で食べますよね。私もうちの猫たちで身をもって体験しているので、猫の飼い主さんの食事の苦労はよくわかります!」
この本では、「猫の手作りごはん」イコール「難しい」というハードルを下げるためのいくつかの工夫が紹介されています。まず、林先生が提案するのは、「Hop・Step・Jump方式」。いつものフードに肉や魚、みじん切りにした野菜などを少しずつ加えて様子を見ながら、段階を踏んで徐々に手作りごはんに慣らしていく方法です。
「ドライフードをメインに食べていた猫が手作りごはんに戸惑うのも無理はありません。1週間で慣れてしまうコもいれば、半年かかるコもいますから、焦ったりあきらめたりせずに様子を見ながら続けていただきたいですね。『せっかく作ったのになんで食べてくれないの!』という飼い主さんのイライラが猫に伝わるとますます食べてくれなくなるので、『食べてくれたらありがとう』というくらいの気持ちで気長に取り組むことが大切です」
また、人肌くらいに温めることも食べさせるコツの一つ。27℃と37℃の食事では37℃のほうがよく食べたという研究報告もあり、温めると香りが立つので猫の嗅覚が刺激されて嗜好性が高まるそうです。
旬の食材を取り入れた、体にやさしくてシンプルな猫ごはんレシピ
手作りごはんの基本レシピは、食材を猫が食べやすい大きさにカットして、味付けなしで茹でるだけなのでとてもシンプル。私たちが食べているのと同じ肉や魚、野菜などを使っているので、ページをめくると人が食べてもおいしそうな猫ごはんが次々登場します。
飼い主と食材を共有できる「おすそ分けレシピ」もあり、たとえば、人用には鶏もも肉と水菜、ニンジンなどを使った「水炊き鍋」、そこから肉と少量の野菜を取り分けて細かく刻んで猫用にすれば、食材の無駄も出ません。
「食材選びは『旬』を意識しましょう。旬のものは栄養価が高いし、暑い夏は体を冷やし、寒い冬は体を温めてくれるなど、その時期の体のケアにも使えるものが多いので、積極的に取り入れてください」
猫に大人気のペースト状おやつを、鶏ささみや市販のウエットフードで作るレシピも紹介されているので、いきなり手作りごはんは自信がないという人はおやつやスープから試してみるのもよさそうです。
愛猫の好物を見つけてあげよう
みなさんはうちのコの「好物」を知っていますか?いつも同じキャットフードだとなかなか気づけないものですが、手作りごはんは「うちのコの好きなもの」を見つけられることもメリット。好きなものを3〜4個知っておけば、食欲が落ちている時も好きな食材なら食べてくれることもあります。
猫は完全肉食動物ですが、手作り猫ごはんには肉や魚などのタンパク質を中心に野菜やきのこ、豆類、ご飯などを少量加えるのが基本です。
「手作りごはんを試した飼い主さんは『猫って野菜も食べるんですね!』と驚くようですが、実はドライフードの原材料にも野菜は入っているんですよ。新鮮な野菜からは抗酸化作用のあるビタミンなどを取り込めますし、食物繊維は便通がよくなってデトックス効果もあるので、バランスよく取り入れることも重要です」
この本では、旬や栄養素がわかる写真入りの便利な食材表が掲載されていてとても便利です。
難しく考えすぎず、栄養バランスは1週間単位で調整する
日頃、「総合栄養食」のドライフードを与えていると、手作りごはんでは栄養バランスの偏りが気になる人が多いのではないでしょうか。
「確かに総合栄養食のドライフードは栄養価はしっかり計算されていますが、炭水化物が多めになりがち。一方、手作りは猫に必要な良質なタンパク質が肉や魚から直接摂れます。1日の食事で栄養バランスを厳密に整えようとしたらとても大変ですが、5日~1週間くらいでバランスが取れていれば、極端に栄養が偏ることはあません。サプリメントで栄養を補ったり、ドライフードと併用したり、週1回だけ取り入れるということでもよいと思います」
林先生自身も完全手作りごはん派ということではなく、犬の「空ちゃん」の1日1食分を手作りとして、猫達の分はそこから肉や魚を多めに取り分けて、ドライフードと混ぜて与えることも多いそうです。
「ペットフードにも手作りごはんにもメリット・デメリットがあるので、私は作れる時はちゃんと作りますが、できない時はペットフードとも併用します。大切なのは無理のない範囲で長く続けること。続けていくことで効果が実感できます」
なるほど!こういうゆるめのスタンスならば、手作りごはんのハードルもぐっと下がりますね。
うれしい!楽しい!幸せ!と感じることが愛猫の長生きにつながる
本書では手作り猫ごはんの体験記も紹介されていますが、林先生によると手作りごはんを取り入れることで、猫の表情が豊かになるのだとか。
「1日の大半を寝て過ごす猫にとって食事は大きな楽しみですが、変化のある手作りごはんは食べる楽しみが増えるので、猫が活気づいていきいきしているという感想もよく耳にします。飼い主に対して要求をしっかりするようになって絆も深まり、喜びの感情を多く表してくれるようになったという飼い主さんもいます。作るひと手間や猫が喜んでくれるかなという、ごはんにこめられた愛情は猫にも伝わりますから、ごはんを通じてお互いがうれしい・楽しい・幸せと感じることは生命力をわき上がらせ、長生きにつながっていくはずです」
猫の毎日を豊かで楽しいものするためにも、手作りごはんをぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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