保護犬たちの同窓会「HOMECOMING PARK」開催レポート「ボクたち今、こんなに幸せにやってます!」

「homecoming」とは「帰宅、帰省、帰郷」。またアメリカでは「高校や大学の同窓会」という意味でも使われます。その言葉をもじった「HOMECOMING PARK」(ホームカミングパーク)は、動物保護団体から巣立った卒業犬たちをお迎えする里帰りイベント。

当日はお天気もよくて寒くもなく暑くもなく(犬に適温!)、そして何より犬を愛する人々の笑顔いっぱいの、朗らかで、平和でとってもよい会でした~♪そのもようをレポートします。

「犬は、自分を哀れとは思わない」

11月24日(土)、城南島海浜公園(東京都大田区)で開かれたHOMECOMING PARK。主催はホームカミングパーク実行委員会、共催は城南島海浜公園(東京都港湾局の管理)、ネスレ日本(株)<ネスレピュリナ ペットケア>、一般社団法人 Do One Good。協力は、NPO法人アニマルレフュージ関西(東京アーク)、Dog Shelter。そのため東京アークとDog Shelterを卒業した犬たちが多く参加していました。今から卒業予定(ただいま一時預かりさんのところにいる)犬たちも来ています。また保護犬じゃない犬だってウェルカムです。

HOME COMINGPARKイベント看板とチワワ

「犬が好きなら、みんなおいでよ。今は犬を飼えない人も歓迎だよ」。そんな大らかでピースフルなムードがイベント全体を心地よく包んでいました。そもそも保護犬も、卒業犬も、買った犬も、みんな犬は犬。「犬は(保護犬でも)自分を哀れとは思わない」と言ってくれた参加者がいました。まさにそうです。そんなレッテルを貼っているのはニンゲンだけ。どの犬だって、前を向いて今日を生きています。

「もるつオーケストラ」の生ライブ♪ 愛犬(卒業犬)の黒い犬のリードを持ちながら歌う姿も微笑ましい

 

社会貢献、コミュニティーづくり、マナー啓発、健康促進!

開会のご挨拶。左から、岡本ジュリーさん(ARK理事)、中野真智子さん(東京ARKスタッフ)、深見泰世さん(Dog Shelter共同代表)、高橋一聡さん(Do One Good代表)

このイベントの目的は4つあります。

●社会貢献(殺処分ゼロ)
保護犬を迎え入れた家族がその楽しさを共有し、保護犬と暮らすことに前向きな人を増やす。保護犬は「汚い」や「可哀想」ではないことを広く知ってもらう。

●保護団体を起点にしたコミュニティーをつくる
動物保護団体は、譲渡後も心強い存在であることを知ってもらう。卒業犬とその家族同士の繋がりをつくり、互いを支えあう仲間を増やす。

●飼い主のマナー啓発
子ども、大人、ペットを飼っている人、いない人などの、相互理解を深める。複数の保護団体とその卒業犬を集めて、多様な価値観に触れる機会をつくる。

●健康促進
軽い運動をしたり、健康に役立つ知識などを共有し、犬も人も健康で、いつまでも笑顔あふれる社会を目指す。

当日はまさにこの目的が、見事に達成されていたと感じました。

おたまの上にピンポン球を乗せて犬と一緒に走るリレーゲームやピュリナのフードが当たるビンゴ大会などがありました

 

過去を乗り越え、幸せをつかんだ犬たち

では実際に、参加者の声を聞いてみましょう。


【宮城県から電車とバスを乗り継いでやってきた、睦月さん(オス・2歳)】

大きめポメラニアンの睦月さん。飼い主さんは、東日本大震災を機に保護犬に関心を持ったそう。実家には福島から来た日本犬ミックスを迎えている。

ポメラニアンのくせに、でっかすぎるのと、目がぐじゅぐじゅしている(今は完治)から、売り物にならないと繁殖業者(ペットショップに子犬を卸す業者)が放棄したコです。同級生がDog Shelterでボランティアをしていたご縁で、生後3ヶ月くらいでうちに来ました。

先代も保護犬のダックスでしたが、老犬だったこともあり1年で看取ることに。それもあって友人が今度は若いコを紹介してくれたようです。でも子犬も可愛いんですが、子犬だから普通に大変でした(笑)。その点シニアの保護犬は落ち着いているから、来てすぐ(当時8歳)から可愛くて可愛くてしょうがなかった。ほんとシニアも可愛いですよ。

保護犬は、今までの境遇などによって、何が大変かは違うので一概には言えません。うちのは繁殖業者遺棄だったせいか、ダックスも睦月も2頭とも異常な食欲があり、食糞もあり、最初はびっくりしました。

またダックスは、繁殖用に使われリタイアする(=遺棄される)まで外の世界を知らず、リードにつないで散歩に行くことも知らなかった。そのせいか平和そうにのんびり歩いていても、急に振り切って走り出すなど突拍子もない行動をしました。今まで飼っていた犬と同じ感覚で油断していたら脱走させてしまいます。あと男性が怖くて、夫にはなつかなかったです。そういうトラウマがあるコもいます。いろいろです。

「保護犬だから飼ってあげたい!」という気持ちが先行するかもしれないけれど、そのコの人生の最期まで飼えるか、家族(夫や子ども)だけでなく、実家まで巻き込んでしっかり話し合った方がいいと思います。これは保護犬に限らず、すべての犬にいえることですけどね(笑)

 


【5人目の飼い主さんのところで安住の地を見つけた、ブライスさん(オス・8歳)】

タービュレンのブライスさん。毛並みも美しい。きれいに手入れされた姿を見れば、今いかに愛情たっぷりにケアされているかが一目瞭然

最初は若い女性が単身で飼っていたのですが、ベルジアン・シェパード・ドッグ(タービュレン)は手に余ったのか、2歳くらいで飼うのを諦め、親に頼んだんだそうです。でも外の小屋につながれっぱなし。ガリガリに痩せ、歯に苔が生えていたといいます。それで虐待で通報され、3歳の終わりに保護されました。

女性→女性の親→ARKシェルター→一時預かりさん→私と、点々としてきたわけですが、今はちゃんとうちの犬になっています(笑)。タービュレンはワンオーナー(飼い主はひとりだと忠誠を尽くす)タイプですが、その割り切り方にびっくりします
※著者註:それだけ今が幸せなのか、犬に環境適応能力があったのか、生きるために自分がすべきことは何かを知っているのか……犬は強いですね。

ただ一緒に暮らして4年になりますが、不思議なことはあります。私と出会う前の約4年間のことはわからないのですが、今まで私は一度も連れて来たことのない公園やお店で「ボク、ここ知ってるー!」という動きをすることがあるんです。昔、来たことがあるのかなぁと思ったり……。だから「今も、前の飼い主さんのこと、思い出すの?」と、聞けるものなら彼に聞いてみたい気もします。

性格はおとなしく、苦労はしたことないですね。散歩は1日2時間行っています。
※著者註:だから、いいコなんですってば!牧羊犬の大型犬のエネルギッシュさをちゃんと消化させてあげているからだと思います。飼い主の愛情の賜物です

 


【お母さんの背中におんぶするのが得意な、ミノルカさん(メス・2歳)】

「背中におんぶ」の芸が得意なミノルカさん。本人もここは安心する場所のようです。ミノルカ家は、仲良し家族3人揃ってパークに参加されていました。

先代のジャックラッセルテリアが亡くなったあと、ふさぎ込んでいたので、譲渡会に行ってみました。和犬ミックスはビクビクしているコが多いイメージがありましたが、ミノルカは、のほほんとしてマイペース。触らせてもらったら、手触りもいい感じ。それでトライアルを申込みました。

ちなみに、先代のジャックのときは私(お父さん)の鼻炎が止まらなかったのですが、ミノルカでは鼻炎がでなかったんですよ。
※著者註:トライアル期間の意外なメリット!

ただ身体能力が高すぎて、今までトライアルに出ても出戻りしてしまう犬だったそうです。脱走する危険が高いので、最初はずっとダブルリードでした。今はようやく1本リードになりつつあります。散歩はいつも2時間散歩しています。

ペットショップだと子犬しかいないので、おとなになったときのサイズ、性格、遺伝性疾患などの病気の有無がわからないものですが、ミノルカはうちに来たとき1歳半でしたから、大きさも、優しい性格も、体質もわかった。保護犬はそれがいいですね。

しかも(身体能力の高かった)ミノルカは、ARKでボランティアをしているプロのトレーナーのNさんが半年間一時預かりしていたので、トイレ・トレーニングもばっちりでした。先日、8mのロングリードをつけて、呼び戻しをしてみたら、ちゃんとできてビックリ。「ミノ、天才!」って思いましたよ(笑)
このホームカミングパークは面白いですね。Nさんにも会えたし。ミノルカはNさんが来たら、飛びついて喜んでいました。

 

動物福祉の「教育」の場として

どの飼い主さんにお話しを聞いても、とても心が温まる想いがしました。最後にご主人と白い大きなミックス犬のゆずさんと参加していた、ARKの常任理事の岡本ジェリーさんがお話ししてくれた言葉を紹介します。

「このHOMECOMING PARKはすごくいい。輪が広がります。団体同士が孤立するのはよくないですが、こういう場で横のつながりもできる。一時預かりさんがまた卒業犬に会えるのもいいですね」。

ママに抱っこされて、安心してウトウトするトイプードル(推定8歳、メス)。新しいおうちに来て1年。保護時とは別犬のようにフサフサの毛量になったそう

さらに「動物福祉が日本にもっと広がるために必要なことはなんでしょう?」と尋ねると、ジェリーさんは「教育」と即答されました。このHOMECOMING PARKの場は、保護犬のことを身近に感じ、飼い主同士や団体と情報交換ができ、かつ保護動物が今なおこんなにいる実情を肌で感じる、大事な教育の場としても機能しているのは間違いありません。

これから日本のいろいろな地域で継続して開催されると、保護犬がもっと普通に、もっとポジティブな存在として社会に認知されると思います。同時に、保護犬が一向に減らない理由を1人1人がもっと真剣に考える機会にもなるのではないでしょうか。それだけの価値と可能性を秘めていると感じました。これからもハッピーな教育の場として日本に定着するよう応援したいです!

【取材協力】
一般社団法人 Do One Good
NPO法人アニマルレフュージ関西(東京アーク)
Dog Shelter
ネスレ日本(株)<ネスレピュリナ ペットケア>

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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