心に染みた杉並区の「動物愛護週間講演会」リポート。様々な角度から動物愛護を考える。

9月20日~26日は動物愛護週間。毎年この時期になると、多くの関連イベントが催されます。今回は、動物愛護行政に精力的に取り組む杉並区の講演会へ行ってきました。

平常時から動物愛護に関心を持つことが大事

環境省管轄の「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動愛法)では、広く国民に動物の愛護と適正な飼養についての理解と関心を深めるため、動物愛護週間(9月20日〜26日)を設けています。この時期になると、国、地方公共団体や関係団体、民間含め全国各地で様々なイベントが開かれます。

ただ、その取り組みに対する熱量は、各自治体により温度差があります。みなさんの住んでいる自治体ではどうでしょうか?もし自分の住まう地域での、動物愛護に関する取り組みが希薄だなと感じたら、それは住民の関心が薄いために行政側がさほど動物愛護行政を重要視していないのかもしれません。

譲渡候補の展示パネル

しかし、地元行政が動物愛護への関心が薄いというのは心配です。たとえば、昨今の自然災害の多さが示すように、日本は実に災害の多い国。いつ何時、自分と家族と愛犬、愛猫が被災者になるかわかりません。被災したときは「自助」(自分や家族でまずはなんとかしのぐ)が真っ先に重要ですが、被害が大きい場合や長期化した際は「共助」(民間NPOや企業などの助け)に加え、「公助」(地方自治体や警察、消防、国などの支援)も欠かせません。

そんなとき、自分の住んでいる地域がどれだけ動物行政に本腰を入れているかが大きな分かれ目になります(ペット同伴可の避難所が設置されるか、仮設住宅はペット可か、など)。平常時から動物愛護行政を積極的に取り組んでいる自治体は、いざというとき力を発揮してくれることでしょう。

 

区民以外も受け入れる懐の広さと意気込み

そこで今年は、動物愛護週間のイベントの中でも意気込みを強く感じた、杉並保健所主催の「杉並区動物愛護週間講演会」へ行くことにしました。区内在住の人のみならず、区外の人も参加OK。2018年9月21日、セシオン杉並(杉並区梅里)で開かれ、定員は500人でしたが、大きなホールがほぼ埋まるほどの盛況ぶりでした。

講演会入り口の展示物

ちなみに環境省、東京都、台東区、(公財)日本動物愛護協会、(公社)日本動物福祉協会、(公社)日本愛玩動物協会、(公社)日本獣医師会などで構成される「動物愛護週間中央行事実行委員会」による「どうぶつ愛護フェスティバル」の屋内行事(9月15日開催。台東区生涯学習センターミレニアムホールにて)の定員は300人。杉並保健所のイベントの方が規模が大きいとはちょっと意外。それだけ杉並区は動物行政に熱心な気がします。

 

「知ること」から始まるペットと暮らす人の防災意識

プログラムも多彩です。杉並保健所長の挨拶から始まり、次に日本獣医生命科学大学獣医学部准教授の水越美奈先生による講演がありました。題目は「災害の備えのために飼い主ができること」

アメリカでは、2005年に甚大な被害をもたらしたハリケーン“カトリーナ”の際、ペットが居るために避難が遅れたり、家に残したペットのために戻って2次災害が起こったりしたことから、人間(飼い主)を守るためにも被災ペットを救うことが重要とわかり、翌2006年に「災害時におけるペットに対する法律」(通称:PETS法)という連邦法ができたそうです(アメリカの法整備の速さに驚きました)。

水越先生講演の様子

そして東日本大震災や熊本地震の実例とともに、災害時の基本的な心得、準備品の備え、普段からケージやキャリーバッグに慣らしておく練習や、周囲に迷惑をかけないための配慮、日頃から防災訓練にペットとともに積極的に参加することなど、どんなものが必要か、なぜ必要なのかなどをわかりやすく教えてもらいました。

 

堅苦しくなく、笑いもあり、大切なことを学べた座談会

次は、動物愛護活動に熱心に関わっている女優の浅田美代子氏、自然体でこよなく犬と猫を愛する芥川賞作家の町田康氏、杉並区動物対策連絡会委員、東京都動物愛護管理審議会委員で、ペットサロン・動物病院・保護施設が一体化している「ミグノンプラン」の代表・友森玲子氏のお三方による座談会が行われました。

ときに動物愛護は思いが強すぎて感情的になったりして、一般の人との温度差が生じてしまうこともありますが、友森さんが企画されるものは、堅苦しくなく、明るく、一般の人でも参加しやすいのが特長。座談会も、ざっくばらんに、笑いも混ざる楽しいトークが展開されました(もちろんシビアなこともピシリとお話がでましたが)。

大型犬も飼っている町田さんからは「日頃から動物との精神的なつながりが大事では。(災害時でも)この人といたら安心・安全だから一緒にいようと思われるように」

「あの犬は〇〇さんちの犬だよって言ってもらえるように、散歩などでうちの犬のことを知ってもらっておく。避難所でも知らない犬が吠えていたらうるさいと思われるけれど、知っている犬ならある程度許してもらえるのでは」
などのご意見。

愛犬やご近所との信頼関係を築く大切さをお話ししている様子は、町田さんと愛犬との微笑ましい日常が目に浮かぶようでした。

座談会の様子

また動愛法に関する署名活動にも関わっている浅田さんは「5年に1度の動愛法改正がこの秋の臨時国会で行われる予定です。マイクロチップの義務化より、それ以前に数値規制が必要です(1人が管理する頭数の制限や、飼養スペースの最低限の広さや条件、8週齢規制など)。具体的な数値がないと、虐待が行われていても取り締まることができません」

「ペットショップで子犬を見たら、その子の母犬がどんな環境にいるのか(考えてほしい)。地獄のようなところで死ぬまで出産させられる。ショップの子犬や子猫は可愛いじゃなくて、可哀想なんです」など、世論の意識が変わらないといけないことを訴えていました。

友森さんからは、福島に行ったときの被災猫の現実や、自分のペット以外にも保護している犬猫がいるので1度に全頭を同行避難するのは難しいとか、背負ってみたら重かったなどの具体的な話が印象的でした。

また、法改正に関して「国民の誰もが参加できるパブリックコメントというのがあるから、それを有効に使い、みんなで(動愛法がよい方向へいくように)見守りましょう」という提案がありました。

 

動物愛と慈しみのある社会へ

座談会のあとは、9歳まで杉並区高円寺で育ち、その後ニューヨークに渡った愛猫家の坂本美雨さんと、愛猫家であり「愛モルモット家」であるギタリストの友森昭一さんによるミニライブ。坂本さんの透き通る、愛溢れる声がホールを包み、講演会に華を添えました。

坂本美雨さんのミニライブ

そして、再び浅田美代子さんが登壇し「犬の十戒」を朗読。作者不詳とされるこの詩は愛犬家の間では有名なものですが、シーンと静まりかえったホールに響く、情感のこもった浅田さんの言葉に共鳴し、(よく知っている詩なのに)うっかり涙がポロポロこぼれてしまいました。犬を愛する気持ち、動物を慈しむ気持ちが、会場の1人1人にこみ上げてきたことと思います。

終演の挨拶で友森玲子さんが、杉並区の超党派議員連盟の方を紹介。全国初の「8週齢努力義務化条例」を2016年に施行し、多頭飼育の登録含み見習いたい部分が多くある札幌市をみんなで視察したことに触れ、「杉並区でも(動物愛護及び管理に関する条例が)欲しいよね!」と言うと、会場から拍手が沸き起こりました。

いろいろな角度から動物愛護の気運を盛り上げている杉並区。ますます頑張ってほしいです。そしてほかの自治体でも、動物愛護の思想が定着するように、私たち住民が興味を持ち、参加する(署名活動でもパブリックコメントでも防災訓練でも講演会でもなんでもOK)ことが望まれます。みんなで盛り上げていきましょう!

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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