捨てればただの抜け毛、集めれば立派な素材! 愛しの「猫毛フェルト」の世界

抜け毛シーズンの到来です。洋服にまとわりついたり、部屋中ふわふわと舞ったり、片隅に溜まっていたり……。抜け毛は猫との暮らしの困りごとの一つですが、定期的にブラッシングしていれば、ある程度の抜け毛は取り除くことができます。たっぷり抜け毛が取れたときに、「捨ててしまうのはもったいない」と思ったことはありませんか?

愛猫ゴロウちゃんの抜け毛で何かできないものか。そんなことを考えてネットであれこれ検索していたら、猫の毛を集めて作る「猫毛(ねこけ)フェルト」なるものを見つけました。ぜひやってみたいと心惹かれて、それまで無雑作に捨ててしまっていた抜け毛をせっせと集め始めました。

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この作品のすべてに猫毛、すなわち猫の抜け毛が利用されています!人形、バッジ、ブックカバー、名刺入れ、ストール、ネックレスなど、猫毛フェルター・蔦谷Kさんの作品。
 

今回は、猫毛フェルトの考案者である猫毛フェルター・蔦谷Kさんの元を訪れ、猫毛フェルトの魅力についてお話をうかがい、作品づくりにも挑戦しました。(取材協力/あーとすぺーすGallery Pawpad 東京都世田谷区砧5-23-8)

OLYMPUS DIGITAL CAMERAゴロウちゃんのこの抜け毛、ビンに入れてとりあえず取っておきました。猫は体臭がほとんどないので、毛を集めていてもくさくならないのはいいですね。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA猫毛フェルター 蔦谷K(つたや けー)さん
フリーランスのライターとして、書籍・雑誌の制作に携わる一方、生まれたときから身近にいた「猫」をテーマに、文章、写真、ハンドクラフトなどの作品を制作、発表。猫への愛ゆえに「猫毛フェルト」を考案。
現在、「猫毛フェルター」として、各地で作品展「猫毛祭り」やワークショップ、猫毛フェルト指人形劇団「世界の毛フェル座」の公演などを年間のべ50回以上開催。
著書に『猫毛愛』(幻冬舎)、『猫毛フェルトの本』『もっと猫毛フェルトの本』(2冊とも飛鳥新社)、『猫毛フェルトの12ヵ月』(三才ブックス)など。
【ブログ】猫毛祭り
【ツイッター】猫毛フェルト

ひらめきから実行まで葛藤3年

蔦谷さんが猫毛でフェルトを作れないかと考えたのは2002年頃。当時の愛猫、黒猫の「ち」ちゃんのブラッシングをしたときにひらめいたと言います。

「猫はもともとよく吐く動物ですが、『ち』は本当によく吐く猫でした。毛づくろいをしてたくさんの毛を飲み込むことが原因ですから、あらかじめ抜け毛を取り除けば、吐く回数も減らせるだろうと、ブラッシングを始めました。

そしたら、よく毛が取れて3日もすれば、『ち』の体と同じくらい抜け毛が集まるので、何かに使えないかと思ったのがきっかけでしたが、猫毛フェルトで実際に人形を作ってみたのが3年後の2005年。あまりにもたわけな感じがするので、猫毛でこんなものを作っていいのかしらと、私の良識を乗り越えるまでに3年かかったというわけです(笑)」

けれども、ホームページなどで紹介すると関心を寄せる人も多く、猫毛フェルトの作り方の本まで出版されるほどになりました。

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蔦谷さんの猫毛フェルト関連本。台湾語や英語にも翻訳されているものもあります。猫毛への関心は万国共通!
 

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猫毛フェルトのルーツはここにあり。黒猫の『ち』ちゃんは、ブラッシングが大好きでした。
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現在の蔦谷さんの愛猫『ヘディ猫』ちゃん。ラバーブラシでのブラッシングは苦手で、人用のつげ櫛でのブラッシングがお気に入りだとか。(写真提供/蔦谷Kさん)

 

猫毛は可能性を秘めた貴重な素材

猫毛フェルトをやってみたいと思い立ってから、私もゴロウちゃんの抜け毛を集め始めましたが、これまでポイポイ捨てていたものが、何かが作れる素材だと思うと急にもったいないと感じるようになり、あんなに煩わしかった抜け毛を1本でも無駄にしてなるものかと思うようになりました(^^;)

「猫毛フェルトのワークショップの際に、参加される方には猫毛を集めて持ってきていただくのですが、みなさんのお話を聞くと、それまでは、『うちのコは毛が抜けてどうしようもない』と思っていたのが、『うちの猫は毛が抜けなくてどうしようもない』と思うようです。猫毛はそれまでの価値観の相対化させ、発想の転換を起こす、実に奥が深いものなんです」

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「猫毛フェルトの可能性は広く、なんでも作れます。メモリアルで作りたいという方もいます。その猫ちゃんは亡くなってしまっても分身はずっと残りますからね」
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蔦谷さんの作品は、猫毛への愛と遊びゴコロにあふれています。最近では、猫毛で文字を書く「猫毛書」も登場(写真はホームページより)

 

猫毛フェルトは猫を救う!ブラッシングで健康管理

猫毛フェルターとして蔦谷さんが活動していく中で、一番うれしいのは「猫毛フェルトを知ってから、猫のブラッシングを始めました」という人が増えていくことだと言います。

ブラッシングで猫の体を触ることで、健康の変化に気づきやすくなってほしいというのが、猫毛フェルト作りの一番の目的なんです。触られることに猫が慣れていれば、動物病院で診察が受けやすくなるし、ブラッシングで毛づやも良くなってより美しくなるなど、いろいろなメリットがあります。でも、ただブラッシングをしましょうと言ってもなかなかやってもらえないから、猫毛フェルトがブラッシングをする動機になってくれればと思っています」

ブラッシングで抜け毛を取り除くことは毛球症の予防にもなり、体に触れれば異常の早期発見につながり、さらに、抜け毛や吐くことで部屋が汚れることも防げて、しかも、集めた猫毛でかわいい雑貨まで作れるとは、猫にとっても飼い主にとっても良いことずくめですね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAこの毛で何ができるのかニャ〜

興味をもたれた方は、さっそく猫毛を集めてみましょう。
作品作りに必要な量の目安は、指人形なら両手にふんわり一杯。つんつんとした硬い上毛ではなく、ふわふわした下毛をできるだけたくさん集めます。集めた猫毛は押し込めて固まらないように、空き缶などにふんわり入れて保管しておいてください。

次回は実践編。猫毛人形の作り方を紹介します。さあ、みなさんもまずは猫毛のご準備を!

猫毛フェルト、作ってみました。抜け毛が愛猫の「分身」に大変身!

宮村美帆

フリーエディター、愛玩動物飼養管理士 動物好きの両親の影響で、子どもの頃から、犬、小鳥、ハムスター、鈴虫、錦鯉など、何かしら生き物がいる環境で育つ。動物看護師として2年間の動物病院勤務を経験した後、猫の月刊誌『CATS』の編集者に。その後、人と動物の今を考える雑誌『季刊リラティオ』の編集などを経てフリーランス。エディター、ライターとして、ペット(動物)、児童書(図鑑)、実用書、デジタル情報辞典などを手がける。 ずっと犬派だったが、動物病院勤務で猫の魅力に目覚め、猫雑誌の編集でどっぷりハマる。獣医…

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