【前編】 【後編】
コミュニケーションが深まる楽しいトリック
キャットインストラクターの坂崎清歌さんちのニャンコたちみたいに、ゴロウちゃんともハイタッチや腕タッチなどのトリックができたら楽しいだろうなあ。トリックができる猫なんて、ちょっと自慢できるんじゃないの~。最初はそんな自己満足の軽いノリで、私もトリックを教えてみたいと思いました。
ただ今、「ハイタッチ」の練習中の愛猫ゴロウちゃん。坂崎さんちのにゃんまる君の堂々としたハイタッチに比べるとまだまだ頼りなげで怪しい (^^;)
そして、にゃんまる君やちゃあちゃんたちと何度か一緒に遊ばせてもらい、「もっとやろうよ~」とおねだりまでしてくる姿を見ていて、トリックは単なる芸ではなく猫にとっても楽しいことで、コミュニケーションを深めることもできるものだと実感しました。
猫がトリックを覚えてくれれば、教えた側にも達成感がありますし、新しいトリックを教えることはクリッカートレーニングを続けていくモチベーションにもなりそうです。できるトリックが増えることは飼い主だけでなく、猫にとっても楽しいこと。ちなみに、にゃんまる君のトリックのレパートリーは30種類以上もあるそうです!
私とにゃんまる君。「腕タッチ」そして「鼻にキス」
手刀を両前足でピタッとはさむ「真剣白刃取り」も披露してくれました。
ハイタッチを教えてみよう
今回は坂崎さんに、トリックの中でも「ハイタッチ」の教え方をレクチャーしていただきました。
「チャージングとターゲットトレーニングの基本がしっかりできるようになったら、ターゲットスティックを使ってハイタッチを教えてみましょう。クリッカーを鳴らすタイミングはシャッターチャンスと一緒。撮りたい瞬間にシャッターを切るように、してほしい行動をしたと同時にクリッカーを鳴らします」
●ハイタッチ
①ターゲットスティック(棒)に前足が触ったらクリッカーを鳴らしてごほうびを与えます
②ターゲットスティックに触れるようになったら、さりげなく右手をかざします
③だんだんターゲットスティックと手のひらを近づけていき、ターゲットスティック越しに手のひらに触らせます
④簡単にできるようになったら、触る直前にタイミングよくターゲットスティックを外します
⑤手のひらに触れるようになったら完成です!
クリッカートレーニングのトリックの先にあるもの
クリッカートレーニングで猫に楽しく行動を導く学習理論がわかるようになると、トリックを教えるだけでなく、生活の中のさまざまなシーンで応用できるようになっていくと坂崎さんは言います。たとえば、日常のケア。
「猫に本当に必要なトレーニングは、『猫に健康で楽しく暮らしてもらうために、ストレスをかけることなく、適切な健康管理ができるように猫を慣らすこと』だと私は考えています。猫は体が小さいので、猫がストレスに感じる爪切りも歯みがきも投薬も無理やり押さえつければできてしまい、私も以前はそれが当たり前だと思っていました。
でも、クリッカーを使ったほめるコミュニケーションが確立し、さまざまなトレーニングをすることで、押さえつけなくても猫たちが受け入れてくれるようになっていきました。 抱っこして歯磨きをするときに、のどがゴロゴロいっていることもありますよ」
実際に坂崎さんがケアをしているところを見ると、猫たちが抵抗することなく「されるがまま」になっていてびっくり! 続けていけばこういうことまでできるようになるんですね。でも、これは坂崎さんが長い歳月をかけて少しずつ慣らしていった結果。トリックのように楽しいことと違って、爪切りなどもともと猫にとって嫌なことを受け入れてもらうのですから、簡単にできることではないのです。
「トレーニングはスモールステップが大切。急がば回れで、小さな成功を少しずつ積み重ねていったほうが結果的には近道になるのです。まずは基本のクリッカートレーニングを徹底的に行って楽しいものにしておくことが、結果としてストレスをかけないケアへとつながっていきます。何をやるにしても、いきなり今のやり方を変えることは大変なことです。まずは無理をせずに今できること、猫と自分にとって楽しいこと、よりよいことをプラスαとして生活の中に取り入れてみる。そのプラスαとしてクリッカートレーニングは最適だと思います」
●爪切り
爪切りに慣らすときには、前足に触る、爪を押し出す、爪切りで前足を触る、爪切りで爪を挟むなど、段階を細かく分けて少しずつ進め、慣らしていきます。これらの動作を1つするたびにおやつを与えて、「良いことがあった」と印象づけます。まずは1日1本切れるようになることを目標に!
坂崎さんに抱かれて、緊張することなく力を抜いて爪を切らせるちゃあちゃん。
●歯みがき
たいていの猫が嫌がる歯みがきもこの通り。にゃんまる君がケアを受け入れている様子がわかります!
ゴロウちゃんのクリッカートレーニングはいかに?
さて、クリッカートレーニングを始めてみた私とゴロウちゃんの場合。
ゴロウちゃんは、食べるものへの関心が高く、おやつも大好き。これまでも、おやつが単なる間食(タダ食い)にならないように、遠くに放り投げて運動しながら食べさせたり、カップの中に入れて「おやつ探しゲーム」をしたりなど、自分なりに工夫してきました。
だから、クリッカーとおやつで条件づけていくこのトレーニングは、食い意地が張っていて、遊びたい盛りのゴロウちゃんに向いているのではないかと、すぐに興味をもったのです。おやつもあげられて、コミュニケーションも深められ、さらにトリックまで覚えてくれたら楽しそう。
最初に坂崎さんの取材をしたのは8月でしたが、その日のうちにAmazonで「猫のクリッカートレーニング」の本とクリッカーを注文。本を読みながら見よう見まねでトリックに取り組み始め、なんとなくトリックらしき動作ができるようになってきました。トリックができるようになるのは楽しいし、私の達成感もあり、ゴロウちゃんに接する時間とほめる機会も増えました。
まだまだ始めたばかりですが、基本をしっかり身につけ、クリッカートレーニングを暮らしのプラスαとして取り入れていきたいと思っています。
ゴロウちゃんは、トイレでもお風呂でも、私がちょっと動くと後をついて回る「かまってちゃん」。「遊んでよぉ。まだ仕事、終わらないのぉ~」
Myクリッカー。おやつは最初のうちはジャーキーなどを小さくカットしてあげていましたが、チャージングができてきた最近は、スナックフードに少しグレードを落としました。
●ゴロウちゃんの練習の成果①
「ハイタッチ」
クリッカートレーニングを始めて、1週間もしないうちになんとなく形はできました。でも、まだ落ち着きがなく、「早くおやつ寄越せ~」とただおやつ欲しさにやっている感じですが(^^;)、 コンスタントにできるようにはなってきました。私ももっと「カチッ」と短くクリッカーを鳴らせるように練習しなくては!
●ゴロウちゃんの練習の成果②
「真剣白刃取り」もどき
最近、取り組み始めたばかりのトリック。10日くらいでなんとなく形にはなってきましたが、完成度を高めるのがとりあえずの目標!
宮村美帆さんオススメ 「もっと愛猫と仲良くなるアイテム」
「猫のクリッカートレーニング」
発行/二瓶社
著/カレン・プライア
訳/杉山尚子・鉾立久美子
猫のクリッカートレーニングのノウハウが書かれた日本では数少ない書籍で、坂崎さんがトレーニングを始めるきっかけになった本でもあります。クリッカートレーニングは1960年代に著者のカレン・プライア氏によって、イルカのトレーニングを通じて開発されたもの。訳者の杉山尚子先生は、日本の行動分析学の第一人者です。本書の中では、クリッカートレーニングの考え方や、実際のトレーニングの進め方が示されています。クリッカートレーニングの必読書です。
私はAmazonにて、「一緒によく購入されている商品」と紹介されていたクリッカーもセットで購入。注文が一度で済み、すぐに入手できたのでとても便利でした。私のような初心者にはボタンタイプのクリッカーが押しやすい感じがします。