クリッカートレーニングで猫との暮らしをもっと楽しく!~ゴロウちゃんも挑戦中~

クリッカートレーニングで学習したにゃんまる君のハイタッチ。坂崎さんの目をしっかり見つめてビシッと決まってます!

【前編】 【後編】

トイレと爪研ぎさえ覚えてくれれば、猫に「トレーニング」なんて必要ないでしょ、ましてや「クリッカートレーニング」なんて聞いたこともない、という方は多いかもしれません。かく言う私も、クリッカートレーニングは犬のしつけ方法として知っていたものの、「猫に」という発想はありませんでした。それが、とある雑誌の取材で、日本でも数少ないキャットインストラクターの坂崎清歌さんと坂崎さんちのニャンコたちと出会い、目からウロコが落ちました。

「猫でもここまでできるんだ!!」

すっかり影響を受けて、少しずつではありますが、ゴロウちゃんと挑戦中です。今回は、坂崎さんに猫との暮らしがもっと楽しくなるクリッカートレーニングについていろいろ教えていただきました。

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坂崎清歌さん(D.I.N.G.O認定キャットインストラクター)

結婚後に飼い始めた1匹の猫をきっかけに、日本では数少ない猫のスペシャリストを目指す。猫の生活をより充実した楽しいものにするためのトレーニングを提案する教室「Happy  Cat」主催。クリッカートレーニングをはじめ、動物行動学、行動分析学に基づいた猫のトレーニングを行う。愛玩動物飼養管理士2級、愛玩動物救命士。現在は、ご主人と、ちゃあ(15歳・オス)、にゃんまる(14歳・オス)、だいきち(11歳・オス)、ピコ(10歳・オス)の4匹の猫と暮らす。
Happy Cat



 

 お近づきのしるしに一緒にトリック!

初めて坂崎さんのお宅におじゃましたときにまず驚いたのは、ニャンコたちがとってもフレンドリーなこと! これまでたくさんの猫の取材をしてきましたが、人見知りをする猫が多く、慣れるまでなかなか姿を現してくれずに結局最後まで会えなかった、なんてこともよくありました。それが坂崎家の面々は、見知らぬ訪問者に動じるどころか近づいてきてくれます。

「ハイタッチとかお手とかトリックができるので、遊んでおやつをあげて仲良しになってください」

と坂崎さんに声をかけられてやってみると、私が指示を出しても本当にしっかりやってくれる!!

きっと、もともとみんな人なつこい性格なんだろうなと思っていたら、一番積極的に遊んでくれるにゃんまる君は野良猫の出身で、かつてはお客さんが苦手で隠れてしまっていたとか。それをお友達に頻繁に来てもらうなどしながら、少しずつ慣らしていったそうです。お客さんとトリックで遊び、ごぼうびをもらうことも、仲良くなるための手段の一つなんだとか。トレーニング次第でこんなにもフレンドリーになれるものなんですね!
 ●坂崎家のニャンコたち●

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左から、ちゃあちゃん、にゃんまる君、だいきち君、ピコちゃん。 全員しっかりトリックができます。

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初対面のPetLIVES編集担当さんにも、「はじめまして」のご挨拶がわりにダブルでハイタッチ。

ゲームのように楽しみながら行動を導くクリッカートレーニング

クリッカートレーニングは、クリッカーという音の鳴るツールを使って行動を導くトレーニング方法。してほしい行動(要望)を猫がしたときに、タイミングよくクリッカーを鳴らしてごほうびを与えることで、その行動(正解)を導き強化していきます。専門的にいうと、古典的条件づけ(*1)とオペラント条件づけ(*2)という2つの学習理論に基づいた科学的なトレーニング方法なのです。クリッカーは人間の言葉が通じない猫に意図を伝えることができるコミュニケーションツールで、「魔法の言葉」と言われているそうです。

トレーニングというと難しそうですが、正解するとおやつ(ごほうび)をもらえるという仕組みは、猫にとっては楽しいゲームのようなもの。実際、にゃんまる君やちゃあちゃんたちを見ていると、やりたくでうずうずしているわくわく感が伝わってきます。

トレーニングは子猫のうちにやらなければ手遅れでは?と思う人もいるかもしれませんが、にゃんまる君がクリッカートレーニングを始めたのは7歳頃だったとか。猫はいくつになっても学習できる動物なので、年齢に関係なく、いつからでも始められるそうです。

*1 古典的条件づけ…過去の経験による結果から条件反射的に起こる反応。食事の前にベルの音を聞かせていたら、ベルが鳴るだけでよだれがでるようになったというパブロフの犬の実験でよく知られています。クリッカーが鳴るとおやつがもらえる(=よいことが起こる)と条件づけます。

*2 オペラント条件づけ…行動の結果として「良いこと」や「嫌なこと」を経験することで行動の頻度が増えたり減ったりすること。ある行動をしたときにクリッカーが鳴っておやつがもらえれば、その行動の頻度は増します。

 

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坂崎さんは、7年前に書店で「猫のクリッカートレーニング」という本をたまたま見つけて興味をもったことがきっかけとなり猫のトレーニングの世界へ。日本では猫のクリッカートレーニングを教えてくれるところはほとんどなく、インターネットで海外の動画を探して見たり、専門家を探して門戸を叩いたりしてトレーニングや行動分析学を学び、ノウハウを身につけていったそうです。

 

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「ねえねえ次は何する? もっとやりたいよ~」。私のひざに前足をかけ、やる気モード全開のにゃんまる君。

 

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これがクリッカー。ボタンを押すタイプと金属板を押すタイプがありますが、押すと「カチッ」という音がします。

クリッカートレーニングで、ほめるコミュニケーション!

また、クリッカートレーニングは猫をほめる練習にもなるそうなんです。

「ほめるというと『いいコ』と声をかける人が多いけど、『いいコ』がほめ言葉だという意味を猫が理解していなければ、猫にとってはほめられていることになりません。『ほめること』は猫にとってうれしいことでなくちゃいけない。その点、おやつがもらえるのは猫にとってはうれしいこと。皆さん、してほしくない行動はよく見張るけど、ほめる行動はあまり意識していないのでは? ちょっとしたことでもいいから、もっと猫をほめてあげてほしいですね。クリッカートレーニングをするとほめる機会が増えるので、ほめる練習にもなりますよ。ほめるコミュニケーションが成立すると、暮らしの中のいろんなことが一気に変わっていくので、ぜひクリッカートレーニングを猫との暮らしに取り入れてみてください」

ほめるためには猫の「好きなもの探し」も大切。飼い主が「きっとこれが好きだろう」と選ぶのではなくて、その猫が「本当に好きなもの=うれしいもの」だからこそ、ごほうびになるのですね。

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ゴロウちゃんの大好きなものはささみ。ささみの“気配”を感じただけでテンションはMAXに!「ああうまかった~。もっとちょうだい」

 

クリッカートレーニングの基本は「クリッカーの音」=「うれしいこと」にすること

それでは、クリッカートレーニングの実践を坂崎さんに教えていただきましょう。

「クリッカートレーニングの一番の基本は、『クリッカーの音』=『うれしいこと』と猫に覚えてもらうこと。これを『チャージング』といいます。クリッカーを鳴らしたらすぐにおやつをあげて条件づけていきます。チャージングがしっかりできていないと、クリッカーを鳴らしても猫にとってはただの『音』にすぎず、『魔法の言葉』にはなりません」

 

●チャージング

鳴らしてただおやつをあげているようにみえるかもしれませんが、このタイミングがとっても重要です。必ず先にクリッカーを鳴らし、その後におやつをあげます。

*トレーニングにおやつを用いるときには、カロリーオーバーにならないように食事量などを調整しましょう。
*1回のトレーニング時間は2分程度に留めましょう。

 

●ターゲットトレーニング(鼻タッチ)

「チャージングがしっかりできたら、目標のものに触らせるターゲットトレーニングをしましょう。猫の前に棒を差し出すと習性的に猫は鼻を近づけるので、鼻タッチは比較的教えやすい行動です。これがしっかりできるようになると、スティックの動きに合わせて、台の上に乗せたり降ろしたり、飼い主の思うままに猫を誘導させることができるようになります」

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クリッカー付きのターゲットスティック
専用のものでなくても、とがっていない安全な棒状のものであれば、ターゲットスティックとして利用できます。

 

楽しい「ハイタッチ」の教え方やゴロウちゃんの成果(!?)は>

 

宮村美帆

フリーエディター、愛玩動物飼養管理士 動物好きの両親の影響で、子どもの頃から、犬、小鳥、ハムスター、鈴虫、錦鯉など、何かしら生き物がいる環境で育つ。動物看護師として2年間の動物病院勤務を経験した後、猫の月刊誌『CATS』の編集者に。その後、人と動物の今を考える雑誌『季刊リラティオ』の編集などを経てフリーランス。エディター、ライターとして、ペット(動物)、児童書(図鑑)、実用書、デジタル情報辞典などを手がける。 ずっと犬派だったが、動物病院勤務で猫の魅力に目覚め、猫雑誌の編集でどっぷりハマる。獣医…

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