地震、火山噴火、豪雨など、自然災害大国と言われる日本。2018年も6月に最大震度6弱の大阪府北部地震、7月にも西日本地域に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨が発生、次から次へとやって来る台風や記録的大雨による避難指示など、いつ自分が被災者になってもおかしくありません。防災対策やペットのための備えは万全ですか?
「ペットと防災ハンドブック」として、『どんな災害でもネコといっしょ』が2018年3月に、続いて8月には『どんな災害でもイヌといっしょ』(共に小学館クリエイティブ刊)が発行され、私も取材・原稿作成のお手伝いをしました。この本の制作を通して私自身が学んだこと、知っていただきたいことについてご紹介します。
ペットを助けることはペットを必要としている人を救うこと
本書の監修は、2016年4月の熊本地震を体験し、いち早く「ペット同伴避難所」を立ち上げた、熊本市の竜之介動物病院院長の德田竜之介先生です。德田先生は2011年の東日本大震災の被災地を視察した際に、避難所で愛犬・愛猫と飼い主が離ればなれになり心の支えを失っている姿を見て、「災害時こそ飼い主とペットは一緒にいなければいけない」ことを痛感。
2013年に動物病院をマグニチュード9にも耐えうる頑丈な構造のビルに建て替えて、熊本地震の発災直後に「ペット同伴避難所」としておよそ1カ月間開放し、のべ1500人の飼い主さんとペットを受け入れました。
同伴避難所を運営してみると、ペットがいる避難所は雰囲気が明るく、被災していても「このコのためになんとかしなければ。このコがいるからがんばれる」とみんな前向きだということを強く実感したと言います。2017年、德田先生は「ペット同伴避難所」の必要性を求めて署名活動も行い、3万4千人の賛同者を集めて国会に提出しました。
熊本地震を経験し、災害動物と飼い主さんと向き合った獣医師として、今後も起こりうる災害に向けて本当に必要な情報を伝えていかなければいけないという德田先生の想いが、この2冊に込められています。
また、誌面づくりにはペットと共に熊本地震を体験したおよそ300人へのアンケート結果による、あってよかったもの・なくて困ったものなどのリアルな体験談も大いに反映されています。
これだけはおさえておきたいペットの防災「か・き・く・け・こ」
ペットの防災とは、具体的には何をどのように準備すればよいのでしょうか。「備え」とは、単に防災グッズを揃えることではなく、日頃の飼い主の行動や心構えなども含まれます。德田先生は、愛犬・愛猫を守るために備えておくべきことを、ペットの防災「か・き・く・け・こ」として提唱しています。
【か】飼い主のマナー・責任
もしも避難所生活になったら、犬猫が苦手な人とも接することに。私たちにとっては、大切な「家族の一員」でも、他の人にとっては「ただの動物」に過ぎません。普段からマナーを守って周囲に迷惑をかけないペットとの暮らし方を心がけ、良好な近隣関係を築いておきましょう。万が一ペットとはぐれた時に少しでも早く再会できるように、迷子札やマイクロチップなどの身元表示をつけておくことも飼い主の責任です。
【き】キャリーバッグ(クレート)
避難する場合、猫や小型犬はキャリーバッグに入れて移動することが原則。犬も猫も日頃から慣らしておくことは必須です。
【く】薬・ごはん(備蓄品)
ペット用の備蓄品を揃えた非常持ち出し袋を準備しておきましょう。フードや水は最低3日分、できれば1週間分用意します。効率よく持ち出すためには、1.薬・療法食、2.食料・飲み水、3.ペットシーツや猫砂などのトイレ用品、4.いざという時に役立つもの・他のものでも代用できるもの、といった具合に優先順位を付けることも大事。
【け】健康管理
災害時は犬や猫もストレスで体調をくずしがちになります。日々の自宅での健康管理と動物病院での定期健診で、愛犬・愛猫の健康状態をしっかり把握しておきましょう。
【こ】行動・しつけ
ペットの防災対策の中で、備蓄品以上に重要なのはしつけと行動管理。避難生活をスムーズに送るには、普段のしつけがどれだけできていたかにかかっています。トラブルを防ぎ、犬猫のストレスを軽減させるためには、いろいろなものや刺激に慣らしておく社会化が重要です。
犬仲間・猫仲間と連携し自助と共助で乗り越える
熊本地震を踏まえ、環境省では2018年2月に「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定しました。その中でもペットと共に避難する「同行避難」を原則としていますが、「同行」とはあくまでも避難所に一緒に連れて行くこと。残念ながら、德田先生が推奨するペットと飼い主が一緒に過ごせる「ペット同伴避難」ではなく、一緒にいられるかどうかの環境は避難所ごとの判断に委ねられるのが現状です。
防災は、自分自身で守る「自助」、コミュニティで助け合う「共助」、公的機関による支援の「公助」がキーワードになっていて、災害の規模が大きくなるほど、公助による支援機能は小さくなると言われています。ですから、ペットの被災も、「か・き・く・け・こ」の自助と、犬仲間・猫仲間と協力し合う共助がとても重要になってきます。
また、避難所はあくまでも避難生活をする場所であり、運営している人たちもみな同じ被災者。ホテルや旅館の宿泊客ではないので、誰かがやってくれることをアテにするのではなく、自分でできることは積極的に自分たちで行うべきという、避難所生活者としての在り方も取材を通して学びました。
被災地に負担をかけない支援を
さらに本書では被災地支援についても触れ、救援物資を受けた側の竜之介動物病院のスタッフの話は大変参考になりました。
たとえば、必要な救援物資は日々刻々と変わること。救援物資として真っ先にペットフードを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、フードが大量に届いたものの、最初の1週間は犬猫も精神的なショックから食欲がなかったため、保管場所に困ったという状況もあったそうです。発災害当初は、むしろリードやキャリーバッグなどの用品が必要だったとか。SNSなどで今、必要としている最新の情報を入手することが大切です。
また、電話での問い合わせなどは最小限に済ませ、現地に負担をかけないこと。「物資を送りましたが届きましたか?」と確認の電話をかけてくる人もいたそうですが、ただでさえ大変な中、その対応をするだけでも負担になります。
本書の中には、ほかにもペットがパニックになった時の行動パターンと対処法や、はぐれてしまった時の探し方、人用の備えなどの情報が満載。災害が起こった時、飼い主がパニックになれば、犬や猫はますますパニックに陥りますから、あなたが冷静になることが求められます。それには日頃、いかに準備ができていたかにかかっています。
備えとして、ぜひ一家に1冊、おすすめです!いざという時に、愛犬・愛猫を守れるのは飼い主であるあなたしかいません。今日からできること、真剣に考えてみませんか?
(*)写真提供/竜之介動物病院
德田竜之介先生
獣医師。竜之介動物病院(熊本市)院長。麻布大学大学院獣医学修士課程修了。1994年に竜之介動物病院を開業。1.生きようとする「動物のために」、2.動物と共に生きようとする「人のために」、3.動物と人が暮らす「社会のために」が病院のコンセプト。
▶竜之介動物病院(熊本市中央区本荘6-16-34)
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