保護した野良猫たちの為に賃貸を探せど、猫たちと入居できる物件は皆無。そこで思い付いてしまったのです。「自分たちで建てちゃえ」と。
ここまで至った経緯はこちらでご紹介しています。
猫と人が快適に暮らすために
あまりに安直な、若さゆえの決断だったため、実はここからが長い道のりでした…。
1年半ほど土地探しに奔走し、住んでいるテラスハウスの目と鼻の先によさそうな土地を見つけました。しかも探し始めた当初から更地として売り出されていた土地。なんというチルチルミチル感!
150㎡以上ある程よい大きさの土地で、ふたりと猫2匹(愛猫チーが新たに産んだ3匹のうち、1匹は私たちの友人宅で、2匹は私の実家で暮らしていました)が住むには大きすぎる土地だったので、私たちと同じように困っている人と猫がいるはずだと思い、猫と一緒に住みたい人へ貸すことを思いつきます。
どうせなら人も猫もお互いが快適に住める家にしたいと、自由に設計できるように建築家を起用し、注文住宅を建てることにしました。
あまり猫に詳しくない建築家と打ち合わせを重ね、猫と人が快適に暮らせるようさまざまな工夫を施しました。
ざっと挙げるとこんな工夫をしています。
猫が快適に暮らすための工夫
その1 屋内のドアに猫専用の扉を設置
その2 猫が外に出られるよう、大きなバルコニーと2mの脱出防止塀
その3 猫用トイレをふたつ置けるスペースを洗面所に確保
その4 猫が思い切り上下運動できるよう、キャットウォークを随所に設置
その5 居室と玄関の間に脱走防止用の扉を設置
猫の脱走経路で最も多いのが玄関からなのです。宅配便の受け取りなど、玄関を開けた隙にササッと外へ出て行ってしまいます。これを防止するために、居室と玄関の間に間仕切りを設けています。中途半端な高さだと簡単に乗り越えてしまうので、完全に締め切れるようにしました。
その6 汚れを簡単に掃除できるように床はクッションフロア
クッションフロアは汚れに強い特性を持っています。ビニールですからね、そりゃそうです。猫と一緒に暮らしていてほとんどの人が、猫が吐く現場に遭遇していると思います。一般的なフローリングでは胃液で変色したり、しっかりと拭き取れなかったりしますが、クッションフロアならそんな心配も必要ありません。病院やトイレ、洗面所といった場所でよく使われているので、多分に貧乏くさいイメージがあるかもしれませんが、最近ではオシャレなタイプも開発されてきています。
その7 爪とぎされないように壁紙を使用せず、壁はペンキ仕上げ
猫の爪とぎは習性ですので止めさせることはできません。「何故、猫は爪を研ぐのか?」は諸説あるものの、ひとつハッキリとしたことがあります。猫が積極的に爪を研ぎたくなるのは「爪が引っ掛かる」物体にです。壁紙は多少なりともデコボコしているので爪が引っ掛かりやすく、またスプレーをした際に下地へ染みこんでしまう可能性があります。そこを考えて、シンプルなペンキ塗りを採用しました。
人が快適に暮らせることも重要です!
2015年12月現在、チラホラと猫専用を標榜する賃貸が出てきました。拝見していてチラッと感じるのが「猫のことは考えているけど、人間のことをあまり考えていない」ということ。例え猫専用でなかったとしても魅力的なお部屋じゃないと意味がないと考えるのです。そこで私が建てたGatos Apartmentは人間にも普通に嬉しい装備とスペックを揃えました。
その1 ゆとりのある部屋の大きさ(約35㎡の1ルーム)
その2 分譲マンション並みの設備
その3 万全のセキュリティー
猫好きが集まるから、コミュニティーができる。
完成するまで、土地探しから数えると3年半もかかってしまいました。名前は「Gatos Apartment」(ガトス・アパートメント。以下、Gatos Apt)に決めました。重量鉄骨造なので登録上はマンションですが、規模が小さくマンションを名乗るのはおそれ多かったので「アパートメント」と名乗ることにしました。ラテン語で猫のことを「Gato」と言います。それを複数形にして「猫たちのアパートメント」と名づけました。「Gato Negro」というチリ・ワインを飲んでいるときに思いついた名前です。
大幅な予算超過と工期遅延。不動産業者、工務店、大工、建築家といった個性あふれる方々と、香ばしい攻防戦を繰り返し、ようやく完成したGatos Aptは、おかげさまで入居者さんと猫たちに喜んでいただけているようです。
Gatos Aptでは猫を介した住人同士のお付き合いがあり、折々で飲み会などを開催しています。「お隣さんがどんな人か、見たこともないし知らない」というのが当たり前な現代において、Gatos Aptはそういう意味でも稀有な賃貸住宅かもしれません。(また全面禁煙を入居条件に掲げていたりします。)「猫好き」という共通項があるので、すぐに仲よくなれてしまうのです。そうして顔見知りになると、旅行の際はお互いにキャットシッターをお願いしたりされたりという「猫仲間」としてのおつき合いができるようになりました。
猫専用をひとつでも多く全国に増やしたい!
猫を介したステキな関係を構築できる仕組みを全国に広めるべく、猫専用賃貸に関するコンサルタント業務をスタートさせました。来年、2016年3月には横浜に新たな猫専用アパートが完成する予定です。
恐ろしいことに、気がつけば猫賃貸に関するコンサルや講習を行ったり、コラムを執筆したり、私の人生はウーとチーに大きく翻弄され現在に至ります。元々野良猫だった子たちが幸せに、人間と一緒に暮らして行くことができる社会って素晴らしいと思うのです。その一翼を担うことができるのであれば、喜んで身を粉にして、猫と人のために、猫と人が快適に暮らせる社会をつくれるような活動を行っていこうと思っています。
この連載では、猫賃貸大家の視点で、様々な方へのインタビュー、商品開発(全国の賃貸オーナーと猫好きさんが喜ぶ商品を開発中です!)の開発過程など、猫と人の住環境について幅広く書いて行こうと思っています。お楽しみに!
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