暑い日が続いています。私の友人の猫は、炎天下でも日向ぼっこをしていますが、猫は熱中症にならないのでしょうか? TRVA夜間救急動物医療センター(東京都世田谷区)院長の中村篤史先生に、猫の熱中症について聞きました。
TRVA夜間救急動物医療センター 院長 中村篤史先生城南地区を中心とした東京都獣医師会所属動物病院により設立された、夜間救急を専門とする動物病院。ホームドクターの診療時間外である夜間の急患に対応する。院長の中村篤史先生をはじめ、緊急処置に特化した経験豊富な獣医師や看護師が勤める。
愛犬はフレンチ・ブルドッグのちゅべくん(オス・10歳)。
▶TRVA夜間救急動物医療センター
熱中症になりやすい猫の特徴
猫は人や犬に比べて暑さに強い動物といわれています。それでも熱中症に注意したほうがよいのでしょうか?
「熱中症の発症には、温度に加えて湿度も影響します。高温多湿の日本では、人と同じように危険があると思います。夏に急患で来院した猫は、嘔吐と下痢が続く状態で、これは熱中症の症状に当てはまります。特に高齢、肥満、持病は、発症のリスクを大きく高めるため、念には念を入れた注意が必要です」
【特に注意が必要な猫】
➤肥満の猫
➤8歳以上の高齢の猫
➤腎臓病(腎不全)の猫
➤心臓病の猫
➤甲状腺の病気の猫
➤水をあまり飲まない猫
太っている猫は熱中症のリスクも高いので要注意!
熱中症、体の中では何が起こっている!?
熱中症は、炎天下にいたりエアコンが故障したりした時に発症する、特別な病気と思っていましたが……。
「実は日常生活の不注意や事故で、元気な猫がすぐ亡くなる危険な病気です。交通事故や中毒といった命に関わるリスクと同じレベル。高体温、脱水、低酸素を同時に引き起こし、重症の場合は50%の確率で亡くなります」
熱中症の危険を知るために、暑さが命を奪うしくみを知っておきましょう。
➤高体温
体内のたんぱく質の変性が起き、全身の毛細血管に血栓ができて血液が酸素を運べなくなり、臓器が壊れてしまいます。
➤脱水
水分が全身に行き渡らなくなります。水分不足はまず胃腸や皮膚から始まり、やがて重要な臓器である、腎臓や脳、心臓に至ります。
➤低酸素
パンティング(舌を出してハアハアと荒い呼吸)が続くとのどが腫れ、呼吸がしづらくなってしまいます。
猫は異変のサインがわかりづらい
「熱中症は短時間で急激に進行し、救急搬送された人が、その日のうちに亡くなってしまうこともある怖い病気です。『頭が痛い』『のどが渇いた』と自覚症状があった時点で、すでに中等症以上の段階! 発症前に気づいて対処することが重要ですが、猫は犬よりもサインがわかりづらい動物。中等症の段階で見られる嘔吐も、毛玉を吐いただけだと思ってしまう恐れが。また、猫が犬のように口を開けてハアハアと息をしていたら重症です。愛猫の異変を見逃さないように心がけましょう」
熱中症は発症前から重症まで、4段階に分かれます。
➤発症前
・涼しい場所を好む ・パッドに汗をかく ・耳が熱い
➤軽症
・元気がない ・呼吸が速い(鼻翼呼吸) ・体温が下がらない
➤中等症
・嘔吐 ・下痢
➤重症
・パンティング(口を開けて呼吸する) ・血便 ・吐血 ・けいれん ・意識障害
熱中症から愛猫を確実に守る予防とは?
体調のチェック、気候のチェック、飲水の工夫、冷却グッズの用意など、予防を毎日の習慣に。
➤体調をチェックする
腎臓病、心臓病、甲状腺疾患といった持病がある猫は、脱水が起きやすい傾向があります。外見からわかりづらいので、スキンシップを兼ねて、以下のポイントをチェックしておきましょう。
【口内の粘膜の状態】
平常時の粘膜には潤いがあります。もし触った感触がベタベタしていたり渇いていたりした場合は、脱水の可能性があります。
【目の輝きや周囲の状態】
脱水により結膜や皮膚が乾燥すると、目の輝きがなくなり、目が落ち窪んでしまいます。
【耳の中の温度】
耳の中に指を入れてみて、もし普段より熱ければ高体温の状態かもしれません。
【背中の皮膚をつまんで離してから戻る時間】
皮膚の細胞に水分が行き渡っていれば、背中の皮膚をつまんで離せば、1秒程度でもとに戻ります。戻る時間が遅ければ、脱水を疑いましょう。ただし、肥満の猫は、脱水でなくても戻るのが遅いこともあります。
➤気候をチェックする
温度、湿度、地域によって熱中症のリスクは変わります。迷った時は気候の情報配信しているサービスを利用すると安心です。日本気象協会の熱中症情報。全国各地の熱中症危険度を確認できます。
➤猫が水を飲むように工夫する
夏はこまめな給水が大切ですが、猫はもともとあまり水を飲まない動物。猫が好む飲み水(お風呂場の水、蛇口の流水、ぬるま湯など)を見つけて、飲水量を増やしましょう。水に肉の茹で汁を混ぜたり、キャットフードに水を混ぜたりするのもおすすめ。
猫によって好みの給水ポイントは異なります。多めに用意してあげましょう。
➤冷却グッズを用意する
猫が自由に利用できる場所に、好みのクールマットを置きましょう。利用頻度は少ないかもしれませんが、エアコンの故障時など、いざという時に役立ちます。熱中症を発症した場合の応急処置に備え、保冷剤も用意しておくと安心です。
住環境の暑さ対策、エアコンだけでは足りない
真っ先に浮かぶ方法は、エアコンのスイッチON。でもそれだけでは暑さ対策として不十分。猫にとって安全で快適な住環境を知っておきましょう。留守中だけでなく、在宅時も同様に。日向ぼっこを好む猫は多いですが、窓辺やサンルームはかなり暑くなるので注意。
まずはエアコンをかけ、できれば窓も開けて風通しをよくしておくこと。留守中にエアコンが故障しないように、定期的なチェックも重要。遠隔操作ができる機種なら、外出先からチェックできて安心です。直射日光が入らないように遮光カーテンも閉めて。水はいつでも新鮮な冷たいものを飲めるように、複数箇所へ。猫が好む素材のクールマットも、念のため用意しましょう。猫は自分で適温の場所を見つけます。屋外に出る猫は、炎天下に閉め出さないように注意して。
異変に気づいたら、すぐに体を冷やす応急処置を!
熱中症の応急処置を覚えておくと、いざという時に安心です。
「基本は、体温を下げ、脱水状態を改善させること。まずは涼しい場所に移動したり、エアコンと扇風機を強風でかけたりしてから、体を冷やす対策を始めます。犬の場合、動物病院に来る前に体を冷やした方が死亡率は下がるとわかっており、おそらく猫も同様でしょう。できれば応急処置をしながらホームドクターや救急対応の動物病院に電話して、来院するタイミングや方法などを相談しましょう。体調が改善しても、念のため受診してください」
➤濡らしたタオルで体を包む
大きめのタオルを濡らして猫の身体を包んで冷やしましょう。濡れタオルはすぐにぬるくなってしまうので、こまめに交換して冷やし続けます。高体温になるとすぐには下がりません。大きめの保冷剤やアイス枕も利用しましょう。
高体温になるとすぐには下がりません。大きめの保冷剤やアイス枕も合わせて利用しましょう。
➤首、腋の下、内またを冷やす
これら3箇所には動脈(太い血管)があるので、そこに保冷剤などの冷却グッズを当てると、全身を効率よく冷やせます。
➤水を体幹にかける
水に濡れても嫌がらない猫であれば、体幹(首と背中)を中心に水をかけて冷やします。足にかけるのはNG。末端が冷えて体の中心に熱がたまってしまいます。氷水をかけるのもNG。かえって低体温になる危険があります。
➤冷たい水を飲ませる
猫が自力で水を飲めるなら、冷たい水を好きなだけ飲ませます。自力で飲めない場合は、上記の体を冷やす方法を行いましょう。
「熱中症は身近に危険がある病気です。飼い主さんが出かける時にエアコンの冷房をつけたつもりで、暖房をつけてしまったケースもありましたし、留守中のエアコンの故障もよく聞きます。最近は動物の寿命が延び、持病を抱える猫も増えています。つまり、熱中症のリスクがある猫が増えているんです。飼い主さんの知識と対策で、愛猫を暑さから守ってあげてくださいね」
実は私も冷房のつもりが暖房に……という事故の経験者。就寝時、枕元にエアコンのリモコンを置いておいたら、寝返りを打った拍子に暖房のスイッチON。明け方に目が覚め、自分も汗びっしょりで危なかったかも。熱中症は予防できる病気ですが、思いがけない事故が起きてしまうこともあります。日常に潜む危険を知っておきましょう。