猫も飼い主もハッピーにしたい!僕が猫専門医になった理由【猫専門医・服部幸のここだけの話】


僕の人生を大きく変えた1匹の猫

猫専門病院「東京猫医療センター」院長の服部幸です。今月から飼い主さんと愛猫が幸せに暮らしていくために役立つ情報や、一飼い主として我が家の猫たちのエピソードなどをお届けしていきます。初回は、自己紹介も兼ねて僕の猫歴と猫専門病院開業に至ったいきさつなどについてお話しします。

 

「僕の父は獣医師で、キャットショーの審査員も務めています」

そう言うと、子どもの頃から猫がたくさんいる環境で育ったと思われるかもしれません。でも実際には、自宅に猫がいた記憶はおぼろげにある程度で、猫を飼っていませんでした。キャットショーは小さい頃からよく見に行っていたし、猫の本は山ほどあったので、猫の「気配」はなんとなくいつもありましたが。

僕が初めて猫を飼ったのは、獣医大学に入ってから。大学近くのコンビニの駐車場で野良猫が出産し、1匹だけ母猫に置き去りにされた生後10日くらいの子猫を保護したのです。「うにゃ」ちゃんと名づけた女のコで、ちょっとワイルド系の猫らしい猫。抱っこは嫌いだけど、僕がお風呂に入る時には付いてきて湯船のお湯を飲むのが好きでした。一度、僕がお風呂に入ろうとした時にうっかり足にひっかけてうにゃちゃんが湯船にドボンなんてこともあったっけ(苦笑)。

うにゃちゃん_479×574運命の猫・うにゃちゃんとの出会いが、服部先生の人生を大きく変えた。

子どもの頃の僕の夢は、ライオンやトラなど野生動物の研究者になることでしたが、小型のネコ科動物である猫の魅力や、猫のいる暮らしの楽しさ、素晴らしさを、うにゃちゃんからたくさん教わりました。うにゃちゃんがいたから、猫専門医としての今があるとも言えます。結婚し、子どもが産まれ、病院を開業して、と、僕の環境は変わりましたが、うにゃちゃんは2015年にがんで亡くなるまで、15年間、ずっと僕の側にいました。

 

猫のストレスが少しでも軽減される診察環境を

「なぜ、猫専門病院を開業したのですか?」

これ、日頃からよく受ける質問です。大学卒業後、僕はまず犬猫・小動物全般を診察する動物病院に勤務しました。病院に入院している猫たちを見ていて気になったのは、みんなケージの端っこにうずくまっていること。犬の気配があることがストレスになっているようで、ストレスを抱えていては治る病気もなかなか治らないのではないか…そんなことを強く感じていた頃、分院として猫専門病院を作ることになり、僕が院長に就任することになったのです。服部先生

犬などの他の動物がいない猫だけの病院は、猫のストレスも軽減され、様子が違うのは明らかでした。さまざまな病気の猫がやって来るので、猫のことだけに集中して勉強できスキルを高めていけることに、僕自身もやりがいを感じました。アメリカ・テキサス州の猫専門病院へ研修に行きましたが、そこでの一番の収穫は、アメリカが日本より一歩半くらい先に進んでいるというのがわかったこと。これがまったく違う次元だったら真似できないけど、ちょっと先ならばがんばって追いつきたい。自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだと、猫専門病院の必要性を確信しました。

こうして独立し、2012年に東京猫医療センターを開業しましたが、当時も猫専門病院はまだそれほど多くはなかったので、猫だけで本当にやっていけるのかと、獣医の友達みんなに心配されました。一番心配したのは税理士さんで、「大丈夫ですか?犬も診た方がいいんじゃないですか」って(笑)。でも、自分では猫専門医としてやっていくんだと腹を決めていたので、不安はありませんでした。

 

猫が側にいるそれぞれの「時間」を大切にしたい

現在の我が家の愛猫は、メインクーンの「クイーン」ちゃん(4歳・メス)と「ナイト」くん(2歳・オス)。メインクーンに決めたのは、ブリーダーさんとのご縁があったことと、大きな猫を飼ってみたかったからです。開業前にクイーンちゃんともう1匹、オスの「PUMA」くんがやって来て、このペアで2回、繁殖・妊娠・出産も経験しました。獣医師は、避妊去勢手術はたくさんしますが、実は繁殖に立ち会う機会はあまりないのです。だから、クイーンちゃんPUMAくんにもいろいろ勉強させてもらいました。

ナイト君_572×429_2体重9キロ以上で貫禄たっぷり。食いしん坊のナイトくん。

うにゃちゃんPUMAくんクイーンちゃんと子猫が3匹、多い時には6匹の猫が我が家にいたこともあります。子猫たちは新しい飼い主さんに引き取られ、オトナ猫3匹の生活になったところで、PUMAくんが2歳の若さで突然死。うにゃちゃんもがんで旅立ち、クイーンちゃんだけになってしまったところに、ナイトくんを迎え入れて現在に至る。これが僕の猫歴です。

プーマ君2_420×585おっとりしていたPUMAくん。突然やってきた別れの原因は見た目ではわかりにくい、肥大型心筋症だと考えられる。

今、職場でも自宅でも僕のまわりは常に猫がいますが、僕は猫を抱っこしたい、いつもかまっていたいというタイプの猫好きではありません。こんなことを言うとがっかりされるかもしれませんが、うちの猫たちも僕よりも奥さんや子どもと仲良しです。僕は猫とのほどよい距離感が心地よくて、暮らしの中に当たり前のように猫がいて、室内を優雅に歩いている姿、子どもたちと猫が遊んでいる姿を眺めているのが好き。猫がいる「時間」がなんとも言えずいいんです。

クイーンちゃん572×429_2服部先生のお子さんたちと仲良しのクイーンちゃん。

この「時間」のもち方、愛猫との関わり方は人それぞれですから、獣医師としてその人とその猫に合った時間を、どうやって作っていけるのかを常に意識しています。病院ですから病気を治すことは大前提。僕が目指しているのは、猫と飼い主さんの幸せな暮らしのためのお手伝いで、それに関われるのは素敵なことだと感じています。

さて、僕の話はこのへんで。次回からは愛猫と皆さんが「いい時間」を作るために役立てていただきたい、さまざまな情報を発信していきます!

聞き手/宮村美帆(フリーエディター)

 

服部幸

東京猫医療センター院長 2003 年北里大学獣医学部卒業。動物病院勤務後、2005 年より SyuSyu CAT Clinic 院長。2006年、アメリカのテキサス州にある猫専門病院「Alamo Feline Health Center」にて研修プログラム修了。2012 年「東京猫医療センター」を開院し、2013 年には国際猫医学会よりアジアで 2件目となる「キャットフレンドリークリニック」のゴールドレベルに認定された。著書に『ネコにウケる飼い方』(ワニブックス PLUS 新書)、『猫の寿命をあ…

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