飼い主さんを激しく襲うこともある猫の「攻撃行動」。原因と対策を行動学の専門獣医師が解説

最近、猫の飼育頭数が増加するなか、猫の攻撃行動に関する相談が増えています。一般に、猫の飼い主さんは、犬の飼い主さんほど治そうという意識が強くないのですが、飼い主さんを襲い、一緒に暮らせないぐらい狂暴になって慌てて相談に来られる人もいます。

 

飼い主を襲うには理由がある

猫が飼い主を襲うには理由があります。ストレスがかかっている、コミュニケーションがとれていない、環境に変化があった等。何かが原因でパニックになり一度襲うと、襲った環境と飼い主を思い浮かべるだけで、それが引き金となって攻撃をくり返すようになります。事例をご紹介しましょう。

相談者は30代女性の一人暮らし、猫は6歳のスコティッシュフォールドのオス。6歳になって急に噛むようになった。トイレを6年間、一度もきれいに洗ったことがなく、においを残した方がよいと勘違いして、砂も全部取り替えずに継ぎ足していた。猫がマーキングすれば叩いてしつけていた。その結果、叩かれたことやトイレが汚いことから反発や恐怖心が植え付けられ、飼い主を激しく噛むという攻撃行動に。

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幸いボーイフレンドがその猫と仲良くできていたため、治療開始当初は彼宅で世話をしてもらった。彼がいるときは穏やかなため、現在は、徐々にケージから出して女性とのコミュニケーションをとり直している段階。噛むのを直すだけでなく、トイレや爪とぎ、おもちゃを用意して、猫らしく暮らせる環境も整えている。

この女性は猫を飼うのが初めてで、飼育の知識を持たないまま飼っていました。カウンセリングは、実際に家を見せてもらい、環境の改善からアドバイスします。猫の攻撃対象になっていない同居人がいる場合は、その人に世話などのバックアップを頼み、かけはしになってもらいながら改善していきます。

 

猫の攻撃行動の原因とは? 一番多いのは「恐怖心」

●「恐怖心」から来る攻撃
攻撃行動の原因として最も多いのは、恐怖心から来るもの。人の感覚では「そんなことで?」と思うような事でもきっかけになり得ます。例えば、飼い主が転んだ。ジャケットを机に掛けようとしたら、その下に猫がいて驚いた。柔軟剤を変えた、奥さんが妊娠しホルモンの影響でにおいが変わった。トイレの砂が変わったなど。
猫は環境に定着する動物で、環境のわずかな変化も気になり不安になります。

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●「遊び・捕食性(ハンティング)」による攻撃
遊びの延長から来る攻撃行動は、子猫に多いです。この場合は、遊びの対象にしていいものを教えます。可愛いからと手で遊ばせると噛み癖につながることがあるので、猫じゃらしなどを介在させて遊ばせます。また適切な罰を与えると、攻撃行動がピタッとやむことがあります。

●「学習」による攻撃
攻撃することで、猫にとって不快な状況が改善された場合、攻撃すれば嫌なことを回避できると学習してしまうことがあります

●「愛撫」で誘発される攻撃
猫が自分から甘えてすり寄ってきたのに、撫でていると急に怒って噛み去っていくことがあります。これは猫本来の行動ですから、治そうと考えてはいけません。10回撫でて怒って噛むなら5回でやめるなど、人が加減を見つけて配慮すべき。猫はゴロゴロ言っていても、触られすぎて苛立ってきたら尻尾を振ってサインを出します。飼い主のほうが猫のボディランゲージを理解できていないのです。

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●「転嫁」の攻撃
怒りの矛先が第三者に向かうことも。夫婦で飼っているオスとメスのペアの事例を紹介します。

オス猫が窓越しに来た野良猫に向かって怒っているところを、ご主人が「やめなさい」と足で軽く払いのけたら、ご主人の足を攻撃するようになった。一緒にいたメス猫も八つ当たりで攻撃され、以来、仲良くできなくなってしまった。原因は腹を立てているときに出てきたのが、ご主人の足だったこと。

たった1回のことでご主人の足をストーキングし、噛むようになってしまったのです。なかなか改善がみられず、現在は上下に動ける3段のケージ飼い。奥さんと1対1なら攻撃はせず、ケージから出すこともできるのですが。

 

猫は犬とは違う。どんな動物かを知ってから飼うこと

攻撃行動が出やすいのは雑種よりも純血腫、とくにアビシニアンなど顔や体がスレンダーなコ、暑い国生まれは繊細です。ペルシャ、チンチラ、スコティッシュなど毛が多いコは大人しく飼いやすい。また室内飼いの猫は、外界の刺激にさらされた経験がないため、外に出ている猫よりストレスへの耐性が弱く、些細な事で攻撃行動が出やすいです。

猫を飼うときは、猫がどんな動物なのかを知ってから飼うこと。犬を飼った経験はあるけれど猫は初めてという人は、犬の延長上では飼えないことを知ってほしい。どちらも先祖はミアキスという動物ですが、分岐して、捕食行動や社会行動のパターン、感情の持ち方など異なる種となっていることを理解してください。

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そして、飼い始めたら、小さいうちから環境を考えたり、質の良いおもちゃで遊んだり、ハーネス(胴輪)に慣らして外を散歩させるなどストレス耐性をつける努力を。それでも攻撃行動が出てしまったら、できるだけ早く専門家にアドバイスを求めましょう。

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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