迷い猫探しから地域猫管理、譲渡会開催まで 行政委嘱の「推進員」が猫と住民を幸せに!


行政から委嘱された「推進員」は動物の愛護活動の身近な相談役

「ペットが迷子になってしまった!」「自宅や勤務先付近の路地裏で生まれた子猫を、どうしたら救えるか?」「家庭の事情で飼えなくなったペットの譲渡先を見つけたい」「保護猫を安心できるルートで家族に迎え入れたい」

突然ですが、そんなとき、皆さんには身近に相談できる人はいますか?

実は私が10年ほど前から東京都中央区から委嘱されている「中央区動物との共生推進員」が、中央区保健所との連携プレーで、そのような動物愛護に関する様々な問題の解決に向けて取り組んでいます。
今回は、全国でも先進的な、その活動内容をご紹介しましょう。

A一時預かりボランティアさん宅で過ごす、中央区内で保護された子猫のきょうだい

 

メーリングリストで回ってくる失踪ペット情報

この原稿を執筆中の今もちょうど、「失踪猫情報」というメールが、約60名いる共生推進員のグループメールで一斉配信されて、猫部会長の村井知美さんから送られてきました!

マンションのベランダで遊ばせていた愛猫を見失ったという連絡が、中央区の保健所に入ったとのこと。猫の種類、毛色、特徴など、詳細な情報もあります。ひとまず、失踪場所の近くに住む知人にメールをしておきました。

猫や犬は、失踪してからすぐに探し始めるのが、無事に保護するためには何より重要です。マンパワーも強い味方! 失踪情報メールを受け取った共生推進員は、自身が犬の散歩や外出時に注意して失踪ペットを探したり、失踪場所近くの商店や配達員などに情報を知らせたり、SNSに投稿して捜索の協力を呼びかけたりしています。その成果で、迷子になったペットの多くは保護できているんですよ。

「共生推進員の猫部会では、区内の地域猫の餌やり場をすべて把握していますが、餌やりボランティアさんから『もう何日もキジトラの○○ちゃんを見かけない』と、失踪の連絡を受けるケースもあります。その情報を流したところ、別の地域で“新参者”として地域猫になっていたことも(笑)」(村井さん)

B避妊・去勢手術をした地域猫は、目印に耳の一部をカットされます。地域の理解のもと、餌やりボランティアさんにかわいがられながらの気ままなワイルドライフ

 

TNR活動の取り組みで月島地域は地域猫がゼロに

この20年間のTNR活動(地域猫に去勢・避妊手術をしてからもとの地域に戻し、地域猫として餌やりボランティアなどの管理下で1代限りの猫生を全うさせる)の結果、中央区月島地区の地域猫は、ほぼゼロになったとか。
これは、中央区内の民間の保護団体が、中央区保健所との信頼関係を長年にわたって築きあげ、それが区委嘱の「中央区動物との共生推進員」としての活動に進化してきた成果です。

CDもとの飼い主が高齢のため施設に入所することになり、譲渡先を探している月島地区の猫。保護された猫は、動物病院を経て、保護スペースまたは「お預かりさん」家庭から譲渡会へ

共生推進員が捕獲した地域猫は、区の助成を受けて、同じく共生推進員である区内の獣医師のもとで去勢・避妊手術を受けます。そして、地域に戻る猫もいれば、とくに子猫であれば、中央区が場所を提供して開催される譲渡会などで新しい飼い主のもとへ。自治体が公の場所を、共生推進員主催の保護猫譲渡会場として提供する例は、全国でも珍しいですね!

「保健所に“自宅や勤務先近辺で見かける猫”などについて連絡すると、いずれは殺処分になると心配される方もいるようですが、そんなことはありません。相談を受けた猫は、TNR活動や、共生推進員が関わる区内の保護団体で預かってもらい新しい家族を探すといったサポートをしています」と、村井さん。

EF区内で保護され、一時預かりボランティアさん宅で家庭環境への社会化をしながら、譲渡会への参加を待つ。ペットのヨークシャー・テリアとも、このとおり仲良く遊べるように! 現在は中央区在住者に限って、保護猫のボランティア「お預かりさん」を募集しています。問い合わせは「中央区 飼い主のいないネコ達」事務局まで

 

保健所とのパイプ役として区民を支える共生推進員はここにいる

区内の動物愛護活動をスムーズに進めるには、中央区動物との共生推進員の存在をみなさんに知っていただかねば! ということで、おそろいのジャンパーを身に付け、毎年10月には「中央区 健康福祉まつり」にブースを出展しているんですよ。

私も以前、愛犬のリンリンと参加しました。主に子供たちに、「飼い主さんが触るのをOKしてくれたワンちゃんには、まず、正面から目を見て近づかないようにしてね。頭の上から手が出てくるとビックリするから、ゆっくり近づいて自分の手の匂いを少し嗅いでもらってから、のどの下をそーっとやさしく撫でてあげてね」と、「初対面の犬への正しいあいさつの方法」などを、リンリンの協力のもと、来場者に体験してもらいました。

G数年前の中央区健康福祉まつりの一コマ。愛犬リンリンと触れ合ってもらいながら、犬との正しい接し方を子供たちにも伝えました

猫では、「キジトラ」「サバトラ」といった数多い猫の毛色を説明する展示パネルや、譲渡先を探している猫の情報掲示のコーナーなど、年によって様々な企画があります。
今年もぜひ、共生推進員のブースを訪れてみてくださいね。

そのほか、定期的に区内で「マナー活動」をとおして清掃活動をしたり、防災訓練に参加してペットとの同行避難訓練をサポートしたりしています。

H2015年9月5日に行われた、犬部会の自主企画イベント「わんわんマナーパトロール」にて、参加した中央区動物との共生推進員のみなさん(一番左:猫部会長の村井さん)

今回ご紹介したのは、東京中央区の例でしたが、同様の取り組みがほかの自治体でも広がっていけばすばらしいと感じます。保健所との橋渡しをする身近な相談役として、共生推進員の存在意義は地域住民にとって大きいといえるでしょう。
なにより、このように民間と行政との連携プレーによって救われた動物たちが、たくさんいるのですから。

 

臼井京音

ドッグライター、写真家、東京都中央区の動物との共生推進員 ドッグライター・写真家として、およそ20年にわたり日本各地や世界の犬事情を取材。毎日新聞の連載コラム(2009年終了)や、AllAbout「犬の健康」(2009年終了)、現在は『愛犬の友』、『AERA』、『BUHI』など、様々な媒体で執筆活動を行う。オーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、2007~2017年まで、東京都中央区「犬の幼稚園 Urban Paws」」の園長・家庭犬のしつけインストラクターとしても、飼い主さんに…

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