獣医療界で注目の「キャット・フレンドリー・クリニック」動物病院嫌いの猫と飼い主に朗報!東山哲先生(ひがしやま動物病院)

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皆さんちの猫さんたちは、動物病院は「大丈夫」ですか?嫌がらず診察を受けることができますか?わが家のゴロウちゃんはすっかり動物病院嫌いになっていますが、愛猫の通院に手こずっているのは私だけではないはず。

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 キャリーバッグにはおとなしく入るけど、動物病院に行くと豹変して問題児になってしまうゴロウちゃん

 

今、獣医療界では「キャット・フレンドリー・クリニック」という活動が注目されています。猫に友好的な病院とは、とても気になります。
今回は、この活動を推奨する国際猫医学会(ISFM)に所属し、日本での普及に力を入れるひがしやま動物病院の東山哲院長に、猫の動物病院嫌いを改善する方法や、「キャット・フレンドリー」の考えについて伺いました。

 

【 東山哲先生 プロフィール 】

東山哲

獣医師 東山 哲 (ひがしやま さとし) 先生

ひがしやま動物病院 院長

山口大学農学部獣医学科卒。兵庫県、東京都内の動物病院での勤務医を経て、2006年に東京都杉並区にひがしやま動物病院を開設。国際猫医学会(ISFM)会員。

日本でキャット・フレンドリー・クリニックを普及させる活動を積極的に行っている。2014年6月には日本猫医学会(JSFM)を設立、その中心メンバーでもある。愛猫はゴンちゃん、キルアちゃん、あさりちゃん。

東山哲

ひがしやま動物病院(東京都杉並区)では、犬と猫の診察室と待合室を分ける、猫だけの診察時間(キャットアワー)を設けるなど、猫にやさしい獣医療のためのさまざまな配慮をしている。

ひがしやま動物病院ホームページ

 

白衣の恐怖!?猫はどうして動物病院が嫌いなのか

ゴロウちゃんは家では一度も怒ったことがありませんが、動物病院ではパニックになって私の顔にまで爪出し猫パンチ! 同じような経験をされている方も多いと思いますが、動物病院が苦手な猫はなぜ多いのでしょうか。

「『さあ出かけよう!』と言ったときに、『ヤッホー!(^0^)』と喜ぶのが犬。『これからみんなで心中するの?(>_<)』と最悪の結果を考えるのが猫。中にはポジティブな猫もいますが、基本的に猫は警戒心が強くて変化を嫌う動物です。ましてや、知らない人や見慣れない犬などがいる環境では、猫にストレスがかかり不安になるのも無理はありません」

室内で穏やかに暮らしている猫は外出そのものも苦手。ましてや具合が悪いときの外出は楽しいはずがありません。

ゴロウちゃんは、月1ペースで実家にお泊まりするので、キャリーバッグに入ることや外出には慣れているほうだと思います。動物病院でも最初はおとなしくしていたのですが、生後6ヵ月の去勢手術後から雲行きがあやしくなりました。手術のトラウマかとも思い、去年、真菌の治療で通院が必要となったとき、病院を変えてみても拒絶反応は変わりませんでした。
「避妊去勢手術は生後4ヵ月くらいの子猫のときに受けた方がよいという意見があります。そのほうが傷口も小さく、出血も少ないので手術時間も短くて済むし、社会復帰も早い。なにより、猫が『根に持たない』とも言われています。病院を変えても苦手なら、白衣で認識して苦手になっている場合もあります。猫の診察は白衣じゃないほうがうまくいくことがあるんです」

人でも病院に行くと血圧が高くなることが高くなる「白衣高血圧」がありますが、白衣への緊張感や恐怖心は猫も同じようです。ゴロウちゃんも経験と相まって、動物病院が苦手になっていったのですね。

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生後6ヵ月。去勢手術から帰ってきた当日。動物病院に迎えに行くと少し怒っていましたが、まさかこんなに病院嫌いになるとは、このときはまだ想像していませんでした。

 


猫の病院嫌いは世界共通!?

犬は狂犬病の予防注射やフィラリアの予防前の検査など、年1回は動物病院に行く機会があります。けれども、猫は「何かあったとき」だけに覚悟を決めて連れていく人が多いのではないでしょうか。この傾向は、世界共通のようでして……。

「猫の来院が少ないのは、日本に限ったことではありません。アメリカでも猫の飼育数は増えているのに、来院数は徐々に減っています。飼い始めて1年目は予防注射や避妊去勢手術のために一度は動物病院に行きますが、その後の通院が継続されていないのです。飼い主さんは動物病院に悪いイメージはなくても、あまりにも猫が嫌がるので行くことをためらってしまう。動物病院に行くことが猫にとっても人にとってもストレスになっているのです。

苦労して動物病院に連れて行っても、飼い主の満足するサービスを受けられないこともある。そうすると、心配なことがあったとき、飼い主さんは獣医師ではなくまずはGoogle先生、つまりインターネットで調べるようになる。でも、Google先生は相談相手にはなってくれるけど、情報が正しくないこともあるし、治療してくれるわけではありません。結果、症状が悪化してからようやく動物病院にやって来る。大切な家族だから元気でいてほしいという思いがあるのに、猫の健康が守れない。これは日本だけでなく海外でも起こっている各国共通の問題です」

ペットライブス

 

2006年の開業当初から、猫と飼い主さんにもっと足を運んでもらえる動物病院づくりを志してきた東山先生。「犬に比べて、猫は獣医療の恩恵を十分に受けられていないのが残念です。そのためには、獣医師も意識を変える必要がある。獣医大学では猫についてしっかり学ぶ機会が少ないのです。『猫は小さな犬ではない』という言葉がありますが、犬と猫とでは生態も心理もちがう動物なので、同じように扱ってはいけない。獣医師も猫についてしっかり学び直さなければいけないと思います」

 


猫に飼い主にもやさしい「キャット・フレンドリー・クリニック」という考え

こうした現状を踏まえて、猫と飼い主と動物病院の信頼関係を築き、猫たちが必要以上に恐れることなく適切な獣医療を受けられるようにすることを目的に登場したのが、「キャット・フレンドリー・クリニック」という活動です。直訳すると「猫にやさしい動物病院」。国際猫医学会(ISFM)では、Wellcat for Life(猫が幸せな一生を過ごせるように)という考えに基づき、猫にやさしい獣医療を提供するためにガイドラインを作成。この活動はイギリスを中心としたヨーロッパで始まり、世界中に広がりつつあるといいます。

「猫にやさしい獣医療とは、猫の心理・行動・生理学を正しく理解して配慮し、猫はもちろん飼い主さんの来院によるストレスが最小限になることを目指すということ。そして定期的に病院に足を運んでもらうことで猫の健康維持につなげていこうというものです」

▼動物病院の環境として、ガイドラインには次のようなことが挙げられています。

● 待合室では犬など他の動物と一緒にならないようにスペースを分ける。あるいは、猫専門の外来時間を設ける。

● 診察室での猫の不安を軽減させるために、フェロモン製剤を利用するなどして、安心できる雰囲気をつくる。

● 診察中は猫と目を合わせない(直視しない)。猫を不安にさせる人や物が視界に入らないようにする。

● 布を覆ったキャリーケースの中、飼い主のひざの上など、猫が安心できる場所で診察を行う。

● 猫の習性に合わせて入院室の環境を整える。

 

■ひがしやま動物病院のキャット・フレンドリーな配慮

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猫専用の診察室。病院入口のドアを隔てて待合スペースも犬と猫に分けられているほか、猫だけの診察時間「キャットアワー」も設けています。

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診察室は猫が落ち着けるように拡散タイプのフェロモン剤を使用。

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診察室にさりげなく飾られた猫グッズ。こういうちょっとした遊びゴコロが見えると、飼い主の緊張も少し和らぎます。猫だけでなく飼い主の心理にも配慮。

 

ペットライブス

東山先生の聴診器もよく見ると猫のデザインが! 今年の6月にラトビアで開催された国際猫医学会に参加した記念に入手。

 

国際猫医学会では、ガイドラインの一定レベル以上をクリアした動物病院を「キャット・フレンドリー・クリニック」として認定しています。認定にはシルバーレベルとゴールドレベルがあり、国内でもまだ数件と数は少ないものの認定病院が誕生しています。ひがしやま動物病院でも現在、認定申請の準備をしています。

「犬と遭わずにすむ猫専門の動物病院もありますが、数は多くありません。遠くの専門病院に連れて行く貓の移動のストレスを考えると、近くの動物病院がキャット・フレンドリーになったほうがいいですよね。商品を選ぶときにエコに配慮しているかそうでないかが1つの基準になるように、これからはキャット・フレンドリーかそうでないかが、猫の飼い主さんの動物病院選びの基準になるように、活動を広めていきたいと思っています」

これはとても心強いお言葉! キャット・フレンドリーの普及に大きな期待を寄せています。キャット・フレンドリーな診察を成功させるためには、動物病院側だけでなく、飼い主側の理解と準備も欠かせないようです。

次回は、キャット・フレンドリーのために飼い主がやっておくべきことについてご紹介します。

 

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国際猫医学会の「キャット・フレンドリー・クリニック」のロゴマーク。認定病院にはマークが掲示されている。

 

※キャット・フレンドリーな診察の様子は、東山先生が監修した猫感染症研究会のサイト内「猫と幸せに暮らすために」で動画を見ることができます。

 

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宮村美帆

フリーエディター、愛玩動物飼養管理士 動物好きの両親の影響で、子どもの頃から、犬、小鳥、ハムスター、鈴虫、錦鯉など、何かしら生き物がいる環境で育つ。動物看護師として2年間の動物病院勤務を経験した後、猫の月刊誌『CATS』の編集者に。その後、人と動物の今を考える雑誌『季刊リラティオ』の編集などを経てフリーランス。エディター、ライターとして、ペット(動物)、児童書(図鑑)、実用書、デジタル情報辞典などを手がける。 ずっと犬派だったが、動物病院勤務で猫の魅力に目覚め、猫雑誌の編集でどっぷりハマる。獣医…

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