猫好きの皆さんなら、「地域猫」という言葉を耳にしたことがあると思います。さて、この「地域猫」っていったいなんだかわかりますか?いま、全国で「地域猫活動」が行われています。「地域猫活動」は、猫の愛護活動とは、ちょっと違います。野良猫を環境問題として捉え、人が暮らしやすい町づくりという“公共の利益”を目指すのが「地域猫活動」なのです。
地域猫活動の目的は、野良猫を減らし、人と猫が平和に共生できる町を作ること
多すぎる野良猫はさまざまな問題を起こします。敷地内や道路に放置される糞尿。発情時の大きな鳴き声。車やバイクに傷をつける。こうした被害を受けて、町の人が「野良猫は迷惑だ」と思うことはいたしかたないでしょう。ましてや、猫アレルギーの人にとっては死活問題です。
また、猫好きにとっても、野良猫が増え続けるのは望ましいことではありません。かわいい子猫が毎年生まれては死んでいく。かといって全員を飼うことはできない。つまり、猫好きの人にとっても、猫嫌いの人の人にとっても、野良猫を減らすことは重要課題なのです。
猫が好き・嫌い関係なく、野良猫を減らすためにやりましょうよ、というのが地域猫活動を始める際のポイントだそうです。だから、なかには「オレは猫が嫌いなんだっ!だから野良猫を減らすために地域猫活動をやる!」という人もいるそう。素晴らしいことです。
「『地域猫活動』は、猫の愛護活動とは、ちょっと違う」と前述しましたが、野良猫が減ることで、結果的に動物愛護にもつながっている、というしくみです。
地域猫活動で行うこと
1.TNR
野良猫の数を減らすためには、去勢不妊手術がマストです。これをTNR(ティー・エヌ・アール)といいます。
T・・・Trap(捕獲して)
N・・・Neuter(去勢不妊手術して)
R・・・Return(元に戻す)
捕獲の際は捕獲器を使用するのが基本です。捕獲器は市区町村の担当部署やボランティア団体から借りられます。
手術済の猫には耳先にV字のカットを入れるのが全国ルール。
「耳を切るなんて可哀想!」と思う人もいるかもしれませんが、耳カットがないと、必要がないのに再度捕まえられてメスを入れられることもあり、一見して手術済とわかるようにカットは必要なのです。耳カットは麻酔中に行い、痛みも出血もほとんどないといわれています。
去勢不妊手術には、「これ以上猫が増えない」というほかにも、いくつかメリットがあります。発情期には猫どうしが大声で鳴き合いますが、これがなくなる。オスどうしで激しいケンカが繰り広げられることもなくなる。つまり騒音の解消です。また、なわばり主張のためのくっさ~いオシッコ(スプレー)をすることも、なくなるか減ります。これらが環境の美化につながります。
地域猫活動で行うこと
2.お世話して管理する
TNRしたから地域猫、というわけではありません。その猫をお外でお世話する必要があります。メインのお世話は、毎日、決まった時間に決まった場所で行うエサやり。猫はちゃんとその時間・その場所に現れるから大したものです。ちゃんともらえるとわかっているから、複数の猫がケンカもせず、各々皿から行儀よく食べる光景なども見られます。
食事が終わったら、ちゃんと片付けて清掃します。置きエサは、ネズミや害虫、カラスなどが集まって来る原因になるし、フードが置きっぱなしになっているのは、見た目にもよくありませんよね。この毎日のエサやりは、猫の数などを把握するという大切な役割もあります。野良猫は、交通事故などで亡くなってしまうこともあり、数も顔ぶれも変動します。また、もし見知らぬ猫が現れて、その猫に耳カットがなければ、TNRする必要があります。捕獲するためには、餌付けが必要。つまり、エサやりは野良猫のTNRや管理に不可欠なことなのですね。
ちなみに、エサやりしないと、猫はゴミを漁ったり部屋に侵入したりしてどうにか食べ物を探そうとします。猫が嫌いな人は「エサやりしなければ猫はいなくなる!」といいますが、もちろんすぐに餓死はしないし、ゴミ漁りなど新たな問題を引き起こすだけ。全国にいるエサやりさんを説得し、地域猫活動に協力してもらうのがひとつの課題のようです。
地域猫活動で行うこと
3.地域住民の理解と協力を得る
TNRやエサやりを例えばたった一人で誰にも知られず行っていたら…厳密にはそれは、地域猫とは呼べないようです。地域猫活動でいちばん大切なのは、地域住民が「自らの町の問題である」という共通認識をもつこと。そのためには、地域猫活動の内容や成果を回覧板で回すなど、広報・啓発活動を行うことが何より大事と、練馬区地域猫推進ボランティアの「ねりまねこ」さんは語ります。
「ねりまねこ」さんが回覧板で回しているチラシ。
たしかに、耳カットの意味も、TNRして数を減らそうと頑張っていることも、知ってもらって初めて意味をもつのかもしれません。耳カットがある猫を見て、「この猫からはもう増えないんだな」とわかってもらえたら、その人がたとえ猫嫌いでも、野良猫に寛容になってくれるかもしれない。耳カットの意味を知らなかったら、「また野良猫がいる、この野郎!」と石を投げてしまうかもしれない。その猫は、その地域をウロウロしているわけですから、その地域の住民に知ってもらって存在を認めてもらえない限りは、地域猫とは呼べないのでしょう。ほかに、地域住民の理解が得られないままだと、「猫好きの人が勝手にやってること」としか認識されず、苦情や資金難などで行き詰まってしまいがちという面もあります。
とすると…地域猫活動を始めたい人は、猫へのベクトルだけでなく、人へのベクトルを強くしないといけないってことかもしれません。「えー、そんなの無理!」という声が聞こえて来そうですが…(;^ω^)この辺は(私も含めて)、人間力が試されるところかもしれませんね。日頃からのご近所付き合いも大切でしょう。町内のコミュニケーションが円滑なところはうまく進むでしょうし、そうでなければ孤軍奮闘になってしまうかもしれません。
地域によって異なる、「地域猫活動」の進み具合
いま、地域猫活動は、場所によって大きく進み方が異なっています。都内では、2000年頃からスタートした千代田区は先駆者で、いまでは未手術の野良猫を見かけることはめったになくなったとか。一方、まったく活動が進んでおらず、野良猫が増え続けているところもあります。この違いは、市区町村によって異なるサポート体制(手術の助成金額など)や、先陣を切って活動を進める人材の有無、町内の結束などが関わっていると思われます。
なんとなく…猫好きの人間は、他人とのコミュニケーションが若干苦手で、インドア好きなタイプが多いような気がしますが(私がそうだからかもしれませんが^^;)、野良猫のためには勇気を出して近所の人と積極的に関わることが必要なんですね。だいぶドキドキしてしまいそうですが…。でも、できたら素敵だろうなあ。
一人で心配していた近所の野良猫のことを、近所の人たちと相談したり、お世話したり、気持ちを分かち合ったり…。小動物を大切にする町って、きっと素敵ですよね。迷ったり、悩んだりしたときには、すでに地域猫を始めているボランティアさんに相談したら、きっと的確なアドバイスがもらえると思います。
例えば私は、地域猫活動未満の活動ですが、気になっていた野良猫のTNRで「ねりまねこ」さんに助言を求め、たいへん助かりました。各地で行われているセミナーなどで、活動を始めるためのノウハウを知ることもできます。
ねりまねこさんが行っているセミナーの様子。
で、だれがやるの地域猫活動?
ここまで読んだらおわかりと思いますが、地域猫活動を行う中心はその地域の住民です。自分たちの住む町をよくするための活動ですから、考えれば当然ですね。
住民をサポートするのが、猫の捕獲などに長けたボランティアさんと、行政。行政は、手術の助成金を出したり、問い合わせ先になったり、話し合いの場を作ったりすることで活動をサポートします。
「え?地域猫活動って、猫ボランティアさんがやるんじゃないの?」
と思った方、いませんか?これ、よくある誤解なのですが、ちがいます。猫ボランティアさんに丸投げすることはできません。ボランティアが行うのはあくまでサポートです。
そもそも猫のボランティアさんって、別に国から支援金が出ているわけでも何でもなく、個人の資金や多少の寄付金を使って動いている人たちです。これを読んでいるあなたと同じような立場の人です。たまに、「ボランティアなんだから何でも無償でやって当たり前でしょ!」という理解のない人もいるようですが(涙)、どうか、理解してあげてほしいなと思います。
メインは住民で、ボランティアと行政がサポート。この三者が協力しあう体制を「三者協働」と呼びます。また、基本的に地域猫活動には、猫の保護活動は含みません。お外にいる野良猫を次々保護していったら…、あっというまにパンクです。多頭崩壊です(;^ω^)お外にいる野良猫をお外にいるままお世話するのが地域猫活動なんです。
猫の保護は、TNRとは比較にならないほど手間も費用もかかります。ボランティアさんが自主的な判断で保護することもありますが、「保護して!」という依頼には応えたくても応えられないことが多いので、理解しましょう。
「TNR効果ない説」についての私見
ネットなどで、「TNRでは野良猫は減らないんだからヤメロ。手間と資金の無駄だ」という意見を見かけます。いやいや、ちゃんと効果あります。例えば練馬区では、こんな感じ。