慢性腎臓病(慢性腎不全)は、猫の代表的な病気の一つ。気づかないうちに少しずつ進行し、高齢になってから症状が現れることが多いので、7歳以上のシニア猫はとくに注意が必要です。
濃いおしっこをするので、腎臓に負担がかかりやすい
猫はあまり水を摂らない動物なので、限られた水分をムダなく体内で活用するため、濃縮率の高い濃いおしっこをします。それゆえに猫の腎臓には負担がかかりやすく、慢性腎臓病(慢性腎不全)は、猫の体の特性から来る宿命的な病気とも言えます。腎臓の機能は一度壊れてしまうと元には戻らないので、もともと全体の3分の1程度しか使われず、一部が壊れても残りの部分で補えるようになっています。このため、ダメージが進むまで症状が現れにくく、かなり進行して手遅れの状態で来院するケースも少なくありません。
「慢性腎不全」から「慢性腎臓病」へ
慢性腎臓病は、「慢性腎不全」という呼び方のほうがなじみがあるかもしれません。医学的には「不全」はすでに症状が現れた状態を指し、「疾患(病気)」は、まだ症状がはっきり現れていない状態も含まれます。腎臓のダメージを初期段階で発見し、症状が出る前に適切な治療ができれば、進行を遅らせることは十分に可能です。そうした考えから、最近では「慢性腎臓病(腎疾患)」という呼び方が広がりつつあります。
水をたくさん飲んでおしっこが出ていれば安心は誤解
腎臓の機能が低下すると、必要な水分が再吸収されず、薄い大量のおしっこが出るようになります。体内の水分がおしっことしてたくさん出てしまうため、それを補うために水を飲む量も増えます。つまり、多飲多尿が慢性腎臓病のサイン。「おしっこがたくさん出ていれば安心」と思っている飼い主さんも多いようですが、大きな誤解です!
また、なんとなく食欲がない、やせてきた、毛づやが悪くなったなどの症状も見られます。これらは年のせいだと見過ごされがちですが、その陰に病気がひそんでいることも。7歳以降のシニア期になったらとくに気を配りましょう。
スクリーニングで幅広く体全体をチェック
慢性腎臓病(慢性腎不全)の早期発見には、飼い主さんの観察力も重要ですが、腎臓は我慢強い臓器なので、なかなかサインを出さないも事実。そこで、うちの病院では、何となく元気がない、調子が悪いというときは、スクリーニングをすすめています。
これは、体全体を幅広く見ていこうという概念で、症状のない段階で病気を発見するために行う検査です。尿検査や血液検査などで内臓機能をチェックし、疑わしい病気を絞り込んでいきます。病気の早期発見のためには、スクリーニングや若い頃からの定期検診が大きな手がかりになります。過去のデータの蓄積があれば、血液検査や尿検査の数値の変化で、初期段階で見つかることも多いのです。
関連リンク
▶Petwell 「猫の腎臓病(腎不全)とは?水をよく飲む高齢猫は要注意」
獣医師 田中那津美
グラース動物病院
日本大学動物病院で4年間の研修を終了後、同学総合臨床獣医学研究室 神経科大学院研究生として在籍しながら、グラース動物病院に勤務。獣医神経病学会や獣医麻酔外科学会に所属し、国内外における多数の獣医師学会にて論文発表をするなど、知識とスキルの向上に積極的に取り組んでいる。