猫に多い便秘。原因、症状、解消法は?[獣医師コラム]

猫はもともとあまり水を飲まない動物なので、犬に比べて便秘が多いです。そして、巨大結腸症やストレスによる便秘が多いのも、猫ならではの特徴。今回は猫の「便秘」の原因と対策について取り上げます。

 

猫の便秘の定義とは?

「何日出なければ便秘ですか?」と聞かれますが、便秘=“完全に出ない”ということではありません。出ているけれどコロコロしたうんちしか出ないとか、出ている量が少ないとか、それも便秘。

人間も同じですが、便秘の人が「私は出ています」と言ってレントゲンを撮ってみると、腸にたくさん便が滞留しているケースがあります。定義としては、少ししか出ないとか、毎日定期的に出ないとかも含めて便秘です。

 

猫に多い便秘の原因

猫は砂漠で生まれた動物なので、普段からあまり水を飲まず、便秘になりやすい体質といえます。加えて便秘を引き起こす主な原因として、次のようなものが考えられます。

●運動不足・肥満
今やほとんどの猫が室内飼育で、運動不足になりがちです。そのため、腸の動きが低下して便秘を起こしやすくなります。さらに肥満すると、もっとうんちが出づらくなってしまいます。

●トイレへの不満
ストレスから来る便秘が多いのも猫の特徴。例えばトイレが汚いと使いたがりませんし、トイレで排便しようと力んだときに、たまたま便秘で痛かったという経験をすると、そのトイレを避けるようになることもあります。猫はトイレに対して非常に神経質なので、きれいさや使い勝手など、十分に気をつけてあげましょう。

●巨大結腸症
犬と違い、猫には巨大結腸症も多いです。巨大結腸症とは、慢性的な便秘が続いて排せつされない硬いうんちが結腸に大量にたまり、結腸が引き伸ばされて巨大化するもの。その結果、結腸のぜん動運動がさらに低下し、便秘が悪化するという悪循環をきたします。

本当にうんちが出なくなってしまうので、動物病院でうんちをかきだしてもらうことになります。その上で浣腸や下剤、腸のぜん動運動を促す薬などを用いますが、薬が効かなくてくり返す場合には、手術で結腸を切除することもあります。

●脱水
猫に多い腎臓疾患や内分泌系疾患からくる脱水でも便秘になります。

●腫瘍
お尻まわりや消化管に腫瘍ができて、うんちが出づらくなることも。

●多頭飼育によるいじめ
多頭飼育の場合は、いじめの問題もあります。トイレに入れないようにしたり、トイレから出てきたところを待ち伏せして襲ったり、いじめを受けている猫は自分のタイミングでトイレに行けず、その結果、粗相をしたり、排せつを我慢して膀胱炎や便秘になることも。

猫のいじめは結構陰湿で、必ずしもけんかを吹っかけている側が悪者とは限らず、飼い主さんが加害者と被害者を取り違えていることも少なくありません。対策を講じるには、まず加害者と被害者を正しく特定することが重要です。

●骨盤狭窄や神経・筋肉の異常
交通事故などの外的要因による骨盤のゆがみや狭窄、神経や筋肉の病的な異常などでも排せつしづらくなることがあります。

●医原性
犬にはあまり見られませんが、猫には薬が原因の医原性の便秘もあります。例えば皮膚病での抗ヒスタミン剤、体に痛みがあるときの鎮痛剤、心臓疾患での利尿剤などの使用により、脱水を起こして便秘になりかねません。

もっとも、そういった薬を処方するときは、獣医師が「便秘になる可能性があるので、なったらすぐ連れてきてください」とあらかじめ説明されることが多いと思います。

 

猫の便秘の予防と解消法

●予防の原則
便秘への対策として、まず飼い主さんが毎日便チェックをして、普段の排便回数、うんちの量や状態を把握しておくことが大切です。そうすれば異常に早く気づけます。

●水を飲ませる
予防にはできるだけ水を飲ませること。猫はもともとあまり水を飲まないので、温めて飲みやすくしたり、どこでも飲めるように複数の水飲み場を設けるなど、飲ませる工夫を。

●運動をさせる
飼い主さんが猫じゃらしで遊んであげたり、キャットタワーを設置したり、運動できる環境づくりも大切です。ひとりで遊べる知育玩具もいろいろ出ていますが、同じものだと飽きて遊ばなくなるので、複数用意してローテーションするようにしましょう。

●食事を見直す
うんちは食べるものによっても変わります。キャットフードの変更で、うんちの量、におい、色などすべて変わってきます。便秘がちの子の食事を、繊維質の多い便秘用の療法食に変えてみるのも方法です。

●ハーブを使う
猫は犬と違って苦手なハーブ、食べてはいけないハーブがありますが、ペパーミントは便秘にも下痢にも使え、消化管ハーブと呼ばれるスグレモノ。ペパーミントを好む猫に活用できます。メントールの刺激が強いので、ハーブティーにして少量ずつ様子を見ながら調節してください。ごはんにかけてひたひたにしたり、お水代わりに飲ませてもいいですね。

オオバコ科のハーブを顆粒にしたものが市販されているので、それをごはんに混ぜてもいいでしょう。オオバコ科は粘液質が強く、うんちをぬるぬるにします。使う量によって便秘にも下痢にも使えます。

●オイルを混ぜる
ごはんにティースプーン1杯ぐらいのオイルを混ぜる方法もあります。オリーブオイルやヘンプオイル(麻実油)など、健康にいいオイルを選ぶこと。

●腸内環境を整える
ヨーグルトなどの乳酸菌やオリゴ糖を摂って腸内環境を整え、便秘の改善に。整腸剤のビオフェルミンは猫にも使えます。

 

素人判断は危険、「2日」出なかったら動物病院へ

インターネットなどで便秘対策を調べて、飼い主さんが便秘気味の愛猫のおなかをマッサージしてあげたり繊維質のものを与えたり、工夫をされるのもいいと思います。ただし、便秘の裏に病気が隠れている可能性もあるので、一つのめやすとして、まるまる「2日」うんちが出なかったら、動物病院に連れて行ったほうが安心でしょう。

また何度もトイレに行くのになかなか出なかったり、トイレの滞在時間が長かったり、スクワット姿勢のまま歩いていたり…こんな姿が頻繁に見られたら、これも要注意です。

 

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石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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