猫のストレス軽減のために猫の目線で配慮した「キャット・フレンドリー・クリニック」の国内での普及に力を入れる、国際猫医学会(ISFM)所属の東山哲先生(ひがしやま動物病院)によると、「キャット・フレンドリーな診察を受けるためには、動物病院がやるべきことと飼い主がやるべきことが半分ずつ」なのだとか。動物病院と飼い主の連係プレーこそが成功の鍵というわけです。そこで、キャット・フレンドリーのための飼い主がやるべきこと、心構えについて東山先生に教えていただきました。
“脱”洗濯ネット! キャリーバッグはとても重要
猫を動物病院へ連れて行くとなれば、キャリーバッグは必要不可欠。猫も飼い主もキャリーバッグに慣れ、使いこなすことが動物病院嫌い克服へのはじめの一歩です。キャリーバッグに入ることができなければ、緊急災害時に同行避難もできません。キャリーバッグを上手に使いこなすポイントは次の3つです。
●日頃からキャリーバッグを居心地のよい場所にしておく
「キャリーバッグ=動物病院=大嫌い!」の方程式が成り立っていては、猫はキャリーバッグを見ただけで「緊急事態発生!」と察知して逃げ出してしまいます。普段から室内に出しっぱなしにして、いつでも出入りできるハウス代わりにしておきましょう。おやつやオモチャなどを入れておくと、ここに入ればいいことがあると学習し、居心地のよい場所になります。
「キャリーバッグに十分に慣れていない段階で入れる必要があるときは、無理に猫を入れるのではなく、お風呂場など狭い場所の隅に誘導して、猫がキャリーバッグに逃げ込む状況をつくるとうまくいきます」(東山先生)
■Gorou’s Try<1>
●診察しやすいキャリーバッグを選んで、「脱!洗濯ネット」
キャット・フレンドリーな診察のためには、キャリーバッグのタイプ、特に出入りのしやすさは重要で、猫では開口部が2カ所以上のタイプが適しています。猫がバッグから出たがらないとき、前面(横)に扉があるタイプだと猫を引っ張り出さないといけませんが、上部が開けば上からそっとタオルをかけることで猫パンチをかわして出すことができます。素材は安定感のあるプラスチック製のものがおすすめだそうです。
「東日本大震災のとき、ハードタイプのキャリーバッグに逃げ込んで助かった猫もいるので、丈夫なものも一つは用意してください」(東山先生)
■東山先生おすすめ!
キャット・フレンドリーなキャリーバッグ
▲前面と上に扉があり、出入りがラクラク。組み立て式で上下に分かれるので、猫がケージからどうしても出たがらないときには、上を取り外してタオルで覆うことで、ケージに入ったままでも診察が可能。
「このケージがあれば、たいていの猫は診察できます」という東山先生が目指しているのは、「“脱”洗濯ネット」の診察。
「これまで洗濯ネットは猫も落ち着くといわれて、私もそのように教わりました。確かにネットに入れれば治療する側と猫の安全は確保できます。けれども、ネットに入れられて動けなくなっているだけで猫にとっては快適とはいえません。それよりも慣れたケージの中でタオルを使ったほうが落ち着いた状態で診察できて、キャット・フレンドリーです」
※キャット・フレンドリーな診察の様子は、東山先生が監修した猫感染症研究会のサイト内「猫と幸せに暮らすために」で動画を見ることができます。
■Gorou’s Try<2>
ハードタイプは持ちにくいので敬遠し、軽くて折りたためる布タイプを好んで使っていました。でもそれは私の都合で、キャット・フレンドリーではなかった(><) 早速、東山先生おすすめのキャリーバッグを入手しました。
組み立て・解体はとても簡単。以前のキャリーバッグも上開きのものを選んでいましたが、前も上も開くので確かに病院での出入りはラクそうです。
別売でキャリー用ショルダーベルトがありました。これで持ちにくさは少し解消できそうです。
好奇心旺盛のゴロウちゃんはさっそく気に入ってくれた様子。前面の扉は左右両開きで簡単に外すことができます。
●移動時は布で覆って脱走防止&不安軽減
頑丈なプラスチック製のキャリーバッグでも、パニックになった猫がドアを壊して脱走することもあります。また、移り変わる周囲の景色が見えたり音が聞こえたりすることも猫が不安になる原因に。移動中はキャリーバッグごと大きな布ですっぽり包んでしまえば、脱走防止と不安軽減が同時に解決します。待合室で診察を待つときにも、布で覆ったままにしておくことで、見知らぬ人や犬との遭遇が減らせます。
「キャリーバッグごと入れられる巾着袋があると便利ですよ」(東山先生)
■Gorou’s Try <3>
ということで、巾着袋も作ってみました。巾着はキャリーバッグのサイズにフィットさせます。これで準備は万端。
診察室でついやってしまいがちなキャット・フレンドリーでない飼い主の行動
診察室に入ってからの飼い主さんの何気ない態度や行動が猫を不安にさせることもあります。
×指示があるまで勝手にキャリーバッグから出さない
診察室の中では猫の不安感も緊張感もピークに達しています。診察の前には問診があるので、獣医師の指示があるまではキャリーバッグから出さないようにしましょう。
×獣医師のほうに猫の顔を向けない
「先生にごあいさつ」とばかりに獣医師のほうに猫の顔を向けるのもNG。見知らぬ人といきなり目を合わせるのは猫にはとても怖いこと。キャリーバッグに入れたまま、飼い主の顔が見えるようにしておきます。
×キャリーバッグから力ずくで引っ張り出さない
嫌がっているときに、力ずくで引きずり出そうとすればますます出なくなります。上が開くタイプのキャリーバッグならば、タオルをかけてそっと抱き上げることができます。
*自宅で使い慣れている大きめのタオルを持って行きましょう。なじみのあるタイルで体をおおうことで猫の不安感を和らげることができます。
×大きな声を出さない
猫はただでさえ大きな音が苦手ですから、キャリーバッグから出てこなかったり猫がフーッシャーッと怒ったりしても、大きな声を出したり猫を叱ったりしないこと。やさしく声をかけ、獣医師と話をするときも猫を不安にさせないよう、穏やかな声で話しましょう。
「顔を正面から見つめないなど、猫との会話のルールを守ることが大切」という東山先生の初対面の猫とのファーストコンタクトは、ミッキーマウスの手をかたどった指示棒。
「いきなり人の手が視界に入るのは怖いですよね。猫は人差し指を差し出すとニオイを嗅ぐので、緊張している猫にこれをそっと近づけたとき、鼻を近づけてニオイを嗅いでくれれば大丈夫。猫パンチならとても怖がっているサイン。猫の気持ちに配慮しながら診察します。
動物病院嫌いは克服することができるのか?
診察室で獣医師に猫の顔を向けることは、私もやってしまっていたかも(汗)。私のこうした行動もゴロウちゃんの動物病院嫌いを増長させたのかもしれません。反省します。
東山先生のお話を伺っていると、何事も「キャット・フレンドリー」の精神を貫いてくれていることがうれしくなってきます。けれども、現実問題としてこれほどまでに猫の目線で配慮してくれている動物病院はまだ少ないと思います。
キャリーバッグも準備したし、私の態度も改めるとして、ゴロウちゃんの動物病院嫌いは克服できるのでしょうか。治療をスムーズに受けられるようなりたいし、ワクチンや健康診断なども定期的に行えるようになりたいのですが。
「家で普段リラックスできている猫ならば、病院に慣れていく可能性はあります。まずは、動物病院に行くときには必ず予約を入れること。その際に『動物病院が苦手だ』ということも伝えてください。予約すれば、少なくとも待合室で長い時間、他の犬や猫と一緒になることは避けられるでしょう。これだけでも猫のストレスを1つ減らすことができます」
そうですね。まずは自分でもできることから少しずつ改善していきます!
なんとかおとなしく治療を受けさせたくて、猫用ネットやハーネス、「フェリウェイ」や「レスキューレメディ」など、これまで通院対策グッズをいろいろ準備し、自分なりに工夫をしました。
これからは、ゴロウちゃん目線でキャット・フレンドリーを意識します。
家庭でも「キャット・フレンドリー」な生活を
さて、この「キャット・フレンドリー」=猫にやさしいという考え方、動物病院に限ってのことでなく、猫との暮らし全般に通じるキーワードになりそうです。日常生活の中ではどんなキャット・フレンドリーを心がければいいのでしょうか?
「『猫が好き』と『猫に好かれる』ということは必ずしもイコールではないんですよね。好きだからわぁっと猫に近づいちゃう人よりも、むしろ、猫が苦手で少し距離を取っている人のほうが猫に気に入られたりします。猫好きの人が必ずしも猫の気持ちがわかっているとは限らないということです。猫の習性や行動、心理を正しく理解することが、キャット・フレンドリーの第一歩。キャットタワーやキャットウォークなど上下運動できる環境を整えるのもその一つ。また、太らせないことも大切。デブ猫がかわいいという飼い主さんが多いのですが、太っているのは猫らしい姿ではありません。猫は人ではないし、犬でもないし、ましてやぬいぐるみじゃない。猫らしさとは何かを考えて、猫らしい暮らしが送れるようにしてあげてください」
キャット・フレンドリーの基本、「猫にやさしい」とは「猫が猫らしくいられる」ということなんですね。私もキャット・フレンドリーな生活をこれからも研究していきます!
ゴロウちゃんの上下運動。キャットタワーのほかに、キャットウォーク代わりに、冷蔵庫、換気扇、飾り棚、食器棚の上を自在に飛び回っています(^^;)
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