【動物感染症の専門家に聞く】新型コロナウイルスにペット(犬猫)の飼い主はどう対処する?

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が世界的に感染拡大し、「こんなことになるなんて…」と誰もが思っていることでしょう。嵐のように流れ込んでくるニュースの中には犬の感染報告はじめペットに関わるものもあり、心を傷め、かつ不安な人も多いことと思います。また、獣医療の世界であっても混乱が生じているように見受けられます。そこで急遽、動物のウイルス学や感染症学が専門の高野友美先生に、私たちペットと暮らす人間は新型コロナウイルスにどう対処したらいいのかお話をお聞きしてみました。

<お話を伺った先生>
高野友美先生(北里大学獣医学部獣医伝染病学研究室 准教授)

北里大学獣医畜産学部(現:獣医学部) 卒業。北里大学獣医畜産学研究科(現: 獣医学研究科)博士課程修了。獣医師・獣医学博士。専門は獣医ウイルス学、獣医感染症学。研究対象は主に犬猫のコロナウイルス感染症、犬猫のウイルス性胃腸炎。特に致死性コロナウイルス感染症である猫伝染性腹膜炎の治療薬、ワクチンおよび検査法の開発に尽力している。

(この記事は3月6日時点での情報に基づきます)
以下、新型コロナウイルスに関する疑問・質問について、一つずつ高野先生にお答えいただきました。
 
Q1:香港で犬から微量ながらウイルスが検出され、新型コロナウイルスに感染したと思われるとの報道がありましたが(3月4日付)、それについて高野先生の見解をお願いいたします。

犬や猫を飼育する人が、新型コロナウイルスに限らず、何らかのウイルス感染症を発症した場合、そのウイルス(の遺伝子)がペットから検出されることはあり得ることです。

たとえば、ノロウイルスに感染して消化器症状を発症した人の飼い犬からヒトノロウイルス遺伝子が検出されたことがありました(Summa M, von Bonsdorff C.-H, Maunula L. 2012. Pet dogs—a transmission route for human noroviruses? J Clin Virol 53:244–247)

この時も、ヒトノロウイルスが犬に感染するのではないか?という懸念が生じました。しかし、これまでに犬がヒトノロウイルスの感染源となった事例は一度も報告されていません。

それを踏まえた上で、今回の香港における犬の事例は、新型コロナウイルスの感染が疑われていますが、検出されたウイルスは微量で、持続的ではなく、断続的に検出されたことを考えると、この犬が新型コロナウイルスの感染源となる可能性は極めて低いでしょう。

このような報告をする場合は、検出されたウイルスの遺伝子の塩基配列が新型コロナウイルス特有のものであることを確認してから公表するべきだと思いますが、それについては報告されていないことが少々気になっています。

遺伝子の塩基配列は確認したのか、未確認なのか、現時点で詳細は不明であり、そもそも検出されたウイルスが新型コロナウイルスであったのか? その点についても今後の報告が待たれます。

出典:国立感染症研究所ホームページ

 
Q2:では、新型コロナウイルスは、犬や猫にも感染する可能性はあるのでしょうか?

現時点では、新型コロナウイルスに感染した人を介して犬や猫が感染する可能性は【極めて低く】、感染したとしても、それは稀な事例と考えます。

2003年にSARSコロナウイルスが流行した時にも、犬や猫に感染するか否かについて議論がありました。

この時、オランダのエラスムス医療センターの研究グループが、猫に「多量」のSARSコロナウイルスを接種すると感染が成立することを証明しました。しかし、SARSコロナウイルス感染者から排出されていたウイルスの実量などを考えますと、この実験で使用されたような「多量」のSARSコロナウイルスが猫の体内に入ることは現実的にあり得ないと思いますし、実際、飼い猫が感染したとの報告はありませんでした(注: 当時、香港のアモイガーデンのマンションで飼育されていた猫からSARSコロナウイルスが検出されたとの報道がありましたが、私の知る限り、この件について科学的に解析した学術論文は無いようです)。

現在問題となっている新型コロナウイルスでは、感染者からのウイルス排出量についてはデータが乏しいのではっきりしたことは言えませんが、上述のSARSコロナウイルスにおける知見や、新型コロナウイルスの伝播様式は人から人への感染が主体であることを考慮すると、新型コロナウイルスが犬や猫に感染する可能性は「極めて低い」と思われます。

参考までに、人に感染するコロナウイルス(SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、新型コロナウイルスなど)に関して、これらが逆に犬や猫から人に感染したという報告は、私が知る限り存在しません。
 
Q3:今後、新型コロナウイルスが突然変異を起こして犬や猫にも感染する可能性はどうでしょうか?

新型コロナウイルスが、既知のイヌコロナウイルスやネココロナウイルスのような感染性をもつ可能性という点につきまして、その可能性は、「極めて低い」と思います。

たとえば、コウモリのように、新型コロナウイルスに似たウイルスが犬や猫にも存在するとなれば可能性はあると思いますが、今のところそのようなウイルスは発見されていません。
 
Q4:仮に、ウイルスが犬や猫に付着した場合、そこから人に感染し得るのでしょうか?

これは難しい質問です。ペットに付着したウイルスから人が感染し得るのか、し得ないのか、その二つで判断すると、感染はあり得ると思います。

たとえば、新型コロナウイルス感染者が咳をし、その飛沫がペットに付着していた場合などが考えられます。

ただし、その場合はペットだけではなく、ドアノブやテーブルなど人が触れる様々なものが共通して感染源となるはずで、ペットへの付着はその中の一つにすぎません。
 
Q5:現状では、犬や猫との生活の中で、どんなことに気をつけたらいいですか?

飼い主さんが居住される地域や生活環境などによって若干違ってくる部分もあるかもしれませんが、人が密集する場所を避けるなどの対応をしつつ、基本的にはこれまでどおりの対応でよろしいかと思います。

新型コロナウイルスが犬~犬間で感染する可能性は、まずあり得ないと思いますので、散歩やドッグラン、犬友だちと遊ぶことなどは問題ないでしょう。
また、人への感染が成立するくらいのウイルス量が犬に付着しているとすれば、その飼い主さんは症状が進行していて散歩どころではないはずです。仮に、ドッグランで飼い主さん同士が感染する場合、犬ではなく、飼い主さんのほうが感染源になるでしょう。

ただ、犬や猫の口腔内にはパスツレラが常在していますし、場合によっては予期せぬ病原体(カンピロバクターなど)が存在することがあるので、普段ペットに顔を舐めさせることを許している場合は、新型コロナウイルスよりもそちらを気にすべきです。

また、人と犬や猫が同じ部屋で食事をとること自体には問題はないと思いますが、そうは言っても新型コロナウイルスに限らず、他の感染症を避けるため、お互いに密接した状況で食事することはお勧めできません。
 
Q6:万一、飼い主さんが感染した時には、ペットをどう扱ったらいいのでしょうか?

飼い主さんに入院が必要で、ペットの世話をする人がいないのであれば、どこかに預けることになると思いますが、その対応は保健所や医療関係者、そして獣医療関係者など複数の方々の考えに基づくことになるでしょう。
 
Q7:獣医療サイドでは、新型コロナウイルスに関して何か取り組みなど始まっているのでしょうか?

私の知る限り、取り組みらしいものといえばコロナウイルスに関する啓蒙活動のみですが、日本国内ではペットに感染・発症した事例もないので、状況を考えればそれで十分かと思います。

余談ですが、ウイルス学の分野において獣医師が占める割合は比較的多く、新型コロナウイルス研究にも獣医師が携わっています。
 
Q8:ペットと暮らす飼い主さんたちへお伝えしたいことはありますか?

新型コロナウイルスに関してはまだ不明な点が多く、明確な回答をすることができない状況です。

とはいえ、新型コロナウイルスが犬や猫に感染する可能性は非常に低く、明らかな症状を示した発症者との濃厚接触がない限り、犬や猫がウイルスに感染することはまずあり得ないと思います。

万が一に感染しても、上述のとおり、犬や猫が人への感染源になることはないはずです。どうぞ、普段どおりに愛犬・愛猫に接してください。

散歩するチワワ
 
Q9:ペットに関わる仕事をする人たちに対して、何かアドバイスはありますか?

今は、公的機関や感染症専門の学術団体などの信頼できる情報を基に対応することが必要です。根拠のない情報に惑わされることなく、疑問がある時には、ヒトや動物の感染症専門家の意見を参照にしてください。

犬や猫に新型コロナウイルスが感染することは極めて稀です。新型コロナウイルスに対して必要以上に恐れず、普段どおりに犬や猫に接してください。

以上です。高野先生、ありがとうございました。

自分や家族は感染していない
⇒ 人が密集する場所は避け、普段どおりの生活を。
感染が疑われる人と接触し、飛沫が気になる場合は、犬の身体を拭くなどの対応を。

家族に感染者がいる
⇒ ペットを感染した家族には近づけない。
居住空間を分け、感染した家族の世話は、できる限り同じ人(一人)がする。
同居家族も不要不急の外出を避け、健康観察するよう求められているので1, 2、散歩の回数は自ずと少なくなり得る。

自分が感染した時
⇒ ペットの世話は他の家族に任せる。

自分が感染し、入院が必要で、ペットの預け先がない
⇒ 保健所や医療・獣医療関係者と相談を。

 

新型コロナウイルスが今後はどう動くのか、まだ予断を許しません。研究もやっと始まったばかりで、犬や猫に関するデータはほぼ皆無なため、今後の情報に注意が必要です。

ペットを守ってあげられるのは私たち飼い主。だからこそ、予防を心がけ、過剰反応はせずに、冷静な判断をしたいものですね。たとえ感染したとしても、人や動物そのものは、決してウイルスではないのですから。防御すべきはウイルスです。そこを忘れずに。

少しでも早くに、落ち着いた元の生活が戻りますようにと強く願いつつ…。

■補足「PCR法とは?」
PCR法とは、特定のDNAを増幅(増やす)して行う診断方法。現在、国内で新型コロナウイルス検出のために使用されているのはリアルタイムRT-PCR法だが、「RT」はRNAからDNAを合成する(専門的には逆転写という)方法を意味し、新型コロナウイルスのように遺伝子がRNAのウイルスでは、検査サンプルのRNAをDNAに変換しないとPCRができないため、RT-PCR法が用いられる。
検出された遺伝子の量は、コンピューター上でリアルタイムに観察することができる。
新型コロナウイルスのリアルタイムRT-PCR法の手順としては、まず咽頭ぬぐい液や痰などのサンプルからRNAのみを取り出し(抽出)、それをRT-PCR用の試薬とともにリアルタイムRT-PCR用装置(遺伝子増幅装置)に入れる。装置内でRNAからDNAへの変換が行われ、ついでPCRが実施される。装置の中では、微量の遺伝子を増幅させるPCR反応が数十回繰り返しで行われ、少しでも遺伝子の増幅が確認されたら陽性と判断される。

参考資料:
*1:厚生労働省「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項(日本環境感染学会とりまとめ)」

*2:厚生労働省「ご家族に新型コロナウイルス感染が疑われる場合家庭内でご注意いただきたいこと~8つのポイント~」

大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

tags この記事のタグ