未来の動物たちへの贈り物。「レガシーギフト」がつくる新しい動物福祉のカタチ by白石かえ

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「レガシーギフト」。ちょっと耳慣れない言葉ですが、これから日本でもどんどんポピュラーになってほしい、なっていくであろう新しい寄付のカタチです。レガシーとは「遺産、先人の残したもの」、そしてギフトは「贈り物」。日本では「遺贈寄付」と言われたりもします。このレガシーギフトを動物たちのために残したい、という人のための新しい取り組みが今年8月、日本で始まりました。レガシーギフトの受け付けを開始した公益社団法人アニマル・ドネーション(東京都港区)を訪ね、代表の西平衣里さんにお話しを伺いました。

 

「キモチをカタチに」。動物福祉団体と寄付者をつなぐ橋渡し役

まず、アニマル・ドネーション(以下、アニドネ)について紹介しましょう。2010年設立したアニドネは、動物福祉のための団体なのは間違いありませんが、直接、犬猫たちを保護したり、譲渡活動をしたり、トレーニングなどを施す団体ではありません。アニドネが扱うのは「動物たちに役立ててほしいと託されたお金」です。動物のために直接頑張る動物福祉団体と、動物のために寄付をしたいという個人や企業の、橋渡しの役割をする団体です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAアニマル・ドネーション代表の西平衣里さん

たとえば「動物のために何かしたい」と思っていても、「すでに先住犬や猫がいて、保護犬・保護猫の里親にはなれない」、「動物は大好きだけど、いまは仕事や住環境などの都合で里親になるのは難しい」、「仕事や育児があるので、ボランティア活動には参加できない」などと、忸怩たる思いをしている人は少なくありません。

また直接保護活動ができない代わりに「資金で応援!」と思っていても、「たまたま譲渡会などのイベントで募金箱があれば募金するけれど、そういう機会が少ない」とか「信用のおける団体かどうかわからないところに寄付をするのは躊躇する」と、なかなか実行できない人もいるでしょう。

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そこで、動物のために自分も何かしたいと日々感じている人たちの「あたたかいキモチ」を、「寄付というカタチ」で具現化し、動物福祉活動を頑張っている団体につないでくれるのが、アニドネの活動です。アニドネは、2011年に日本初のオンライン寄付サイトを立ち上げました。みんなのキモチを大切に価値あることに使ってくれる団体を見極めるため、アニドネ・スタッフが直接会って、現地取材し、信頼のおける寄付先の団体を選んでいます。またアニドネのサイトの中の「寄付の仕組み」の中で、丁寧にお金の流れが明記してありました。

アニドネは、非営利の団体ですが、サイトの運営費やシステム管理費、リサーチ費、取材経費などの費用は毎月発生します。そのため「寄付者の方に、寄付先団体への寄付金額内の0%~20%の間で、アニマル・ドネーションへの運営費としての寄付額をお決めいただいています」と、書かれています。例として「2000円を寄付する、うち10%をアニドネに寄付で設定すると → 2000円 (寄付金)- 200円 (アニドネへ10%)- 90円 (決済手数料)= 寄付先団体への振込額」などといくつか例が挙げられており、内訳がオープンにされています。

こうした活動が多くの人から認められ、今年の9月で寄付サイト立ち上げから丸6年経ちますが、83,633,892円(個人:14,141,774円、企業:69,492,118円)もの寄付が集まったそうです。社会貢献したいという企業や団体からの寄付金が多いのもアニドネらしい特徴といえるでしょう。これだけ企業や個人の信頼を得ているアニドネは、今までの日本の、手弁当で個人経営的に頑張ってきた愛護団体、福祉団体にとって、新しい風を吹き込んでくれる希有な存在に思えます。

 

「レガシーギフトは、団体立ち上げのときから取り組みたいと思っていた」

さて、ここからが今回の本題のレガシーギフトです。アニドネは、動物関係の団体にしては珍しく、2015年4月に、内閣府から公益社団法人に認定されました。

公益社団法人として認められるためには、申請時の審査もとても大変で、かつ、今後運営していくときも透明性・公平性が求められ、大変な労力がかかります。でも、公益社団法人であれば、個人や企業からの寄付が、寄付金の優遇税制対象となります。それだけ動物福祉団体にお金を多く回せたり、寄付をしやすくなったりするメリットがあるわけです。ちなみに「相続により取得した遺産を寄付した場合、相続税もかからない」そうです。

「実は、アニドネを立ち上げるときから、レガシーギフトをやりたいと思っていました。だから、公益社団法人を頑張ってとったのです」と、西平さんは言います。

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アニドネのレガシーギフトとは、遺産の一部、あるいはすべてを「寄付」という形で、(特定ではない)動物のために贈るもの。この寄付金は、アニドネが寄付先として選んでいる動物福祉団体や育成団体の支援に活用されます。

「日本では、まだ遺贈という文化は根付いていませんが、イギリスやアメリカではポピュラーな文化。欧米の各NPOの予算収支(寄付金全体)の約半分は遺贈で占められているというくらい、広く一般的です」と、西平さん。

「これから2〜3年かけてまず遺贈のことを知ってもらう啓発活動をして、10年後には欧米のように遺贈が当たり前になる日本にしたいなと思っています。いま日本では動物福祉の考え方もどんどん変わってきているから、夢物語ではない気がしているんですよ」。これは、とても心強いお言葉です。

でも遺贈を受け付けるからには、団体としてきちんと継続できるビジネスモデルを作ってからだと、設立してから7年間今まで温めてきていました。
たしかにせっかく遺贈したのに、その団体がいつの間にか消えたり、すぐにつぶれたりしてお金がどうなったのかわからなくなったら困ります。それだけの信頼と実績と体力のある団体じゃないと、この遺贈という新しいジャンルに踏み込み、かつ正しく運用していくのは難しいといえます。

アニドネのレガシーギフトでは、「遺贈」と「相続遺産による寄付」を受け付けています。相続の問題、遺言状のこと、税金のことなど、いろいろ細かな決まりがあります。アニドネの活動に賛同している弁護士、司法書士、税理士の方々がいて、複雑な手続きや法律上の相談にのってくれるなど、サポート体制も用意されています。(遺言状作成費用などは一定の報酬を払うことになりますが)。

 

将来的には、飼い主に先立たれたペットが安心して暮らせる遺贈の仕組みも検討中

ただ、遺贈するならば、自分が愛犬や愛猫より先に死んでしまったときに彼らの面倒を最期まで見てもらうことを希望する人も多いのではないでしょうか。けれども、いまの段階ではまだそこまではいっていません。でも西平さんは、
将来的には、残されたペットと共に遺産を寄付する遺贈の仕組み(欧米ではすでにその仕組みがある)をやりたいと思っています。でもそのときは、その子を一生シェルターに残すのでなく、やっぱり新しい飼い主さんのところへいかせるのがよいと思うんです」と言い、どういう仕組みにするのがよいのか、慎重に検討してから実行する意向のようです。

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たしかに、一生シェルターで過ごすより、新しい飼い主さんやほかのファミリーの家族愛を受ける第二の人生(犬生・猫生)を送る方が、犬猫にとって幸せ。ただそのためには、遺贈付きで犬(猫)を新しい飼い主に譲渡するのか(遺産目当ての里親がいると怖いから、選定は難しくなるに違いない)、それとも寄付金は団体に寄付して、犬(猫)は平等に譲渡される方がいいのかなど、思案中だそうです。そこでまず犬(猫)の生活費を算出するところからスタート。残された動物の年齢や大きさなどによって生活費も変わるわけで、遺贈された金額との兼ね合いなどがいろいろありそうです。遺贈金額は何千万、何百万単位ではなくても歓迎されるわけですが、ケースによっては動物のその後の生涯の生活費が上回ることも考えられますから……。

飼い主に先立たれた犬や猫を本当の意味で守るためには、健全なシステムづくりは欠かせなくて、よく考え、算定し、確認すべきことは山ほどあります。でも、西平さんは、アニドネの代表でもありますが、プードルを愛するいち飼い主さんでもあります。愛犬・愛猫を残して先立つ飼い主の気持ちを十分汲み取ってくれるお人柄だと感じました。
「老後も安心して動物が飼えるように、みんなが遺贈したくなる仕組みを作ろうと思っています」。その笑顔を信じて、飼い主に先立たれたペットが安心して暮らせる遺贈の仕組みが実現される日をしばらく待ちましょう。

 

レガシーギフトの今後の展望

また西平さんは、すでに開始したレガシーギフトについても、いろいろな展望を持っています。「いただいた寄付の中で、基金化もしたいと思っています。これから決めていくところですが、たとえば「シェルターづくり基金」や「老人ホーム基金(愛犬や愛猫と一緒に入居できる老人ホームづくり)」「TNR基金」など実現できたらいいなぁと構想中」とか。レガシーギフトはまだまだ新しい発想が加わり、進化していきそうな予感がします。

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しかし「遺産」というと大金持ちの人が残すもの、という気がしてしまいますが、西平さんは「そんな何億や何千万でなくても大丈夫なんですよ。少額でも十分です」と、笑います。レガシーギフトをしようと思う人は、後世にも動物を愛する心や、動物と人間がともに生きるという価値観を伝えようとしてくれる人。金額の大小にかかわらず、たくさんの人が参加することに意義があるのかもしれません。ただし、遺贈の場合は、普通の寄付と異なり、遺言状作成費用などがかかるので、諸経費以上の金額であることは必要でしょう。

「とにかくネガティブな遺贈ではなくて、ポジティブな遺贈がいいですね。遺産相続でもめるのがイヤだとか、相続させたくないとか(笑)、そういうのよりも、<動物と共生するいい未来をつくるために遺贈しよう><未来を明るくしていこう>。そんな感じがいいですね」と、西平さんは言います。明るく、前向きな社会貢献。自分の人生の最期にそんなことができたら、笑って天国にいけそうです。

 

これからのアニドネの未来像

最後に、これからのアニドネについて、西平さんの思いを尋ねてみました。

「犬も猫も、15年、20年一緒に生きる家族です。やはり、殺処分はなくしていくべきだと思います。そもそも犬や猫は、野生動物とは違います。帰るべき自然はなく、人間や社会の一部として共生しているものなんだと、犬猫を飼っていない人も含めて知ってもらいたい。そのためには、人と動物がより調和した社会になる民度といいますか、風土、世論を高めていきたいです

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集まった寄付金を、各団体に助成しながら、日本全体の動物福祉を底上げしていきたいと、西平さんは言います。そして何よりも「楽しいループにしたいんです」というのが西平さんらしい。たしかに、いまの日本の動物福祉は、閉塞し、固執し、内向きで、ときに自分たちと違う方針のところを排除しようとしたり……負のループが渦巻く一面もあります。でもアニドネは、寄付先選びにしても「動物のための団体は、目的は一緒でも規模やスタイルなど、全く異なる」と多様性を大事にしています。この「目的は一緒」という根っこが同じであることを尊重し、日本全体の動物福祉を前向きに、楽しいループで底上げしていく。個人・企業と動物福祉団体らをつなぐ橋渡し役だけでなく、寄付先の各動物福祉団同士をつなぐ役割もアニドネならできるのかもしれません。

今後の展開が楽しみです。

572_IMG_3119アニドネが新しく制作した「レスキューカード」。自分がもし救急車などで運ばれてしまったときに、自宅に犬猫がいることを伝え、緊急連絡先を示すカードだ。ドナー登録カードのようにいつも財布に入れておくとよい。西平さんは「自分や犬猫の名前を書き記す行為そのものが大事と思っています」と言う。動物病院やカフェ、犬グッズショップなどでこのレスキューカードを置いてくれるところを募集中。お問い合わせ先:info@animaldonation.org

 

<お話をうかがった方>
公益社団法人アニマル・ドネーション代表
西平衣里さん

200_nishihira_Prof 株式会社リクルートで、中途採用情報誌に始まり結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊、その後ゼクシィブランドの媒体立ち上げに編集制作、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営者を経て、アニマル・ドネーションを立ち上げる。小さいころから、無類の動物好きで魚・鳥・猫とともに育つ。今回の寄付サイト運営が、自身の社会貢献と位置づけ、動物との幸せな共生社会実現を心より目指す。
公益社団法人アニマル・ドネーション

 

 

白石花絵(しらいし・かえ)

Writer
フリーライター 
白石かえ(しらいし・かえ)

犬学研究家、雑文家。東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピーに共生できる社会になることを願っている。現在、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー(オス)、ボクサーのメル(メス)、黒猫のまめちゃん(オス)、熱帯魚(コリドラスなど)、そしてニンゲン2と暮らしている。趣味は、クーパーと野山へ行くこと。東京都渋谷区在住。

▶執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑
▶ブログ: バドバドサーカス

▶主な著書
『東京犬散歩ガイド』
『東京犬散歩ガイド武蔵野編』
『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)

うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本

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