今注目の猫に優しい動物病院、“キャット・フレンドリー・クリニック”。病院が大の苦手の猫と飼い主さんにとっては、何ともありがたい存在です。そんな中、耳よりニュースが!
人気の獣医師ブログ「ネコペディア」の執筆者でもある猫の専門医・山本宗伸先生が、猫専門病院「Tokyo Cat Specialists」(トーキョーキャットスペシャリスト)を都内(港区)にオープン。そこで、PetLIVESでもおなじみの“猫清水さん”こと、清水満さん(一級建築士)とお話を伺ってきました。
取材当日はオープン前の内覧会。午前中からご近所の飼い主さんや、情報を聞きつけた猫愛好家の方々が続々と訪れて行列が!
【院長プロフィール】
山本宗伸 先生
Tokyo Cat Specialists(トーキョーキャットスペシャリスト)院長
小学生の時に授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで獣医師になることを決意。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨーク猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。様々なメディアから猫情報を発信。著書に「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学部外科学研究室卒。愛猫は3匹。末っコの ホタテちゃん(4か月♀)と。
▶山本先生のブログ「ネコペディア」
※「キャット・フレンドリー・クリニック(CFC)」とは、イギリスに本部がある国際猫医療学会(ISFM)により確立された、「猫に優しい動物病院」のための国際基準の規格です。世界的に普及しており、国内でも現在90病院が認定されています。
▶CFC認定病院リスト
ストレス回避のために、ここまでこだわる猫への優しさ
■ISFMの「ゴールドレベル」の基準で
キャット・フレンドリー・クリニックとは、猫ができるだけストレスなく受診、入院できるように配慮された病院のこと。その精神がどのように反映されているのか、山本先生にお聞きしました。
「猫に優しい動物病院としてのISFMのガイドラインは十分に理解していたので、100項目以上ある基準をかなり意識してつくりました。病院嫌いな猫だからこそ、安心して受診できるよう細部までこだわったつもりです」。
ISMFのキャット・フレンドリー・クリニックは、開業後の申請となるため、認定はこれから。ブロンズ、シルバー、ゴールドの3レベルがありますが、猫のための設備や受け入れ態勢をより厳しく求められるゴールドを「クリアする自信があります」と、山本先生。
■隣の猫と顔を合わさずにすむ「待合室」
具体的にどのように猫に優しいのか、施設を見ていきましょう。
「一番意識したのは待合室です。予約制なので、3組ぐらいを想定し、パーテーションで区切ることで、隣の猫と顔を合わせないように工夫しています。猫が入ったキャリーを地面に置かず、飼い主さんと同じ目線で置ける大きめの台も設けました」。
猫専門で完全予約制。院内で犬と遭遇したり、他の猫と顔を合わすストレスがないのは、猫の飼い主さんなら身に染みて理解できるありがたさでしょう。
飼い主さんと同じ目線で。キャリーバックを置く台の高さにも配慮。
■「診察室」にも、猫を緊張させない様々な配慮が・・・
続いて診察室。かなりコンパクトで、・・・あれれ?治療器具が見当たりません。
「診察室は、猫が恐怖心を感じないように心がけました。猫は狭い空間のほうが慣れやすいので、これぐらいが適切。すべて電子カルテで管理するので、パソコンと体重計を置くだけのシンプルな空間にしています」。
清潔感のあるコンパクトな診察室。猫ちゃんもここが病院とは気づかない??診察台は角を丸みで優しく、治療器具などはすべて隠されています。
なるほど。金属製の治療器具なども、猫の視界に入らないようカウンター内側に隠されており、いわゆる動物病院っぽさが一切ありません。また、「猫は白衣症候群(白衣を着た医師の前で血圧を測ると、いつもより高く出てしまうこと)の子が多いので…」と、山本先生のウェアはブルー系。病院嫌いな猫が緊張感や恐怖心を持つ白衣は避けて、少しでもリラックスできるようにとの配慮からです。
NYでの経験が活きる、診療面での独自性とは?
■NYでの経験を活かして、「往診」にも注力
猫専門病院として、診療面ではどんな点に注力されているのでしょうか。山本先生は、NYのマンハッタンにある猫専門クリニックで研修を積んでこられたそうですが?
「NYの経験を活かしたいのは、往診です。猫の場合、病院に連れてこられること自体がストレスなので、看護師と僕の二人で、体重計を抱え、3泊4日旅行ぐらいの荷物を背負って、メトロと徒歩で往診に行っていました。事前にヒアリングしてから訪問するので、麻酔やレントゲンは無理にしても、超音波診断などかなりの対応ができ、貴重な経験でした。当院でも往診は対応しますし、いずれもっと力を入れていきたいですね」
マンハッタンは、マンションで猫を飼っている人が多く、動物病院は狭いスペースで医療を行わなければならないなど、東京との共通点も多くとても参考になるのだとか。「街中のスーパーのキャットフード・コーナーの充実ぶりはすごいですよ。飼い主さんの意識の高さがわかります」と、そこで最先端の猫医療を学べたことの有意義さと手応えを語ります。
三田(港区)という立地を選んだのも、往診のしやすさも考慮してのことだそう。
■とくに力を入れている診療分野とは
ここで、一昨年、愛猫をリンパ腫で喪った猫清水さんから、「山本先生が注力する診療分野を教えてください」との質問が。
「とくに力を入れて学んでいるのが、リンパ腫と糖尿病です。治療法や薬が日々進歩していますし、セカンドオピニオンを求められることも多いので。また猫の最頻疾患である腎臓系は、つねに最新の診療ガイドラインを細かくチェックしています」。
猫特有の遺伝性疾患についてはどうでしょう?
2年前に、保護された猫の里親になった猫清水さんですが、その猫がスコティッシュの血を引いており、スコに多く発症する骨軟骨異形成症などの遺伝性疾患についても気になる様子。
「将来発症する病気のリスクがわかる遺伝子検査は、猫の口腔粘膜の採取で簡単に行えるので、積極的に進めたいと思います。日本だと、ペルシャ系やアメリカンショートヘアにも多い多発性腎嚢胞(PKD)、メインクーンやラグドールに多い肥大型心筋症(HCM)なども」。飼い主さんには猫種のリスクもきちんと理解してほしい、と山本先生。「イギリスでは遺伝子疾患があった猫種のブリーディングは禁止されています」 と警鐘を鳴らします。
■ライトコースの健康診断で、年1回の尿検査を
病院嫌いの猫にはなかなかハードルの高い、予防のプログラムについてもお聞きしました。
「健康診断は、年齢に合わせた4コースと、ライトコース(血液検査、尿検査、触診の30分程度の検査)があります。猫は尿検査の診断価値が高いので、ライトコースだけでも年1回受けてほしいですね。年1回でも、人間でいえば4年に1回ですから」。ちなみにワクチンは、WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインに則ったアメリカスタイル。子猫の初年度接種が終わったら、1年後に追加接種、その後は3年に1回接種していくプログラムです。
猫マニアの飼い主さん、大歓迎!ホームドクターとして気軽にご利用を
■猫マニアにも納得していただける病院に
猫専門病院として、飼い主さんにどのように病院を使ってほしいとお考えですか?
「他の病院に行ったけれど、納得していないという方などはぜひ。治療の内容自体は結果的に変わらないかもしれませんが、なぜこの治療をするのか、なぜこの薬を使っているのかをきちんと説明し、飼い主さんに納得していただくことが大事だと思います」。とくに猫への愛情が深く意識の高い“猫マニア”さんは大歓迎です、と山本先生。
治療が必要な猫ちゃんも預かれるようペットホテルも充実。ストレスのない個室タイプ(1室)には、飼い主さんが愛猫の様子をいつでも出先からでも確認できる「見守りカメラ」を設置。
こちらは入院室 兼ホテル。猫ちゃんが快適に過ごせるよう、外の音を遮断する防音にしたそうです。
手術室(左)、 診察室は2室(右)
エントランスは、脱走事故の防止用に二重扉
■猫専門医として、猫に好かれる工夫とは?
最後に、猫専門医として、ズバリ山本先生は猫たちに好かれる自信は?
「結構、ありますよ(笑)。先生なら検査させてくれるとか、爪切りもうまく切れるとか、飼い主さんからよく言われますので。猫の表情をよく見て、警戒しているときは手を出さないとか、当たり前のことを実践しているだけなんですけどね」。
猫を愛する方のための病院を作りたかった という山本先生。猫清水さんもその熱い想いに共感しつつ「もっとうちの近所だったらなぁ…」と。
猫に優しい病院は、飼い主さんにとっても優しいことを実感。愛猫を病院に連れて行くプレッシャーをどれほど軽減してくれることか!爪切りなどのケアにも対応してくれるそうです。病気になったら行くのではなく、日頃から気軽に愛猫と出かけられる猫専門病院がホームドクターなら、これほど心強いことはないですよね。
【病院情報】
Tokyo Cat Specialists(トーキョーキャットスペシャリスト)
〒108-0073 東京都港区三田 4-17-26
TEL.03-6435-4595
診察時間:10時~20時(完全予約制)
火曜日は往診のみの受付。最終受付時間は毎日19時半となっています。
▶公式ホームページ
【山本宗伸先生の著書】
ネコペディア―猫のギモンを解決