『猫とさいごの日まで幸せに暮らす本』という、愛猫家にとっては気になるタイトルの本がこの夏、出版されました。この本を執筆したのは、自身も長年猫と暮らす加藤由子氏。この本を執筆した動機や、猫との暮らし方について伺いました。
加藤由子さん
動物関係のライター、エッセイストとして幅広く活動。
ヒトと動物の関係学会監事。著書に『幸せな猫の育て方』(大泉書店)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(ソフトバンククリエイティブ)、『雨の日のネコはとことん眠い』(PHP研究所)など多数。
猫の老後の面倒をみる時代がやってきた
「飼い主が飼い猫の介護をしたり、死を看取ったりするようになったのは、最近のことです。私が子どもの頃は、猫は家の外に出られるのが普通でしたから、具合の悪くなった猫はフラリと家を出てそのまま帰ってこなかったり、交通事故で死んだりすることがほとんどでした。
完全室内飼いがメジャーになって、ペットフードが普及して、獣医学が発達した現在だからこそ、飼い主は猫の老いや死に直面しなければならなくなったのです。そのための新しいノウハウや心構えが必要だと感じました。
また、私がこの年齢になったゆえに言いたい、ということもありました。若い頃は、それを書く勇気や自信がありませんでした」
飼い主が想像したくない“愛猫の死”を書く
愛猫フーちゃんの写真(手前)。亡くなったあとも、ずっとリビングに飾っています。
数年前に、愛猫フーちゃんを看取った加藤さん。亡くなったとき、「寂しさは感じたけれど、悲しくはなかった」と言います。
「猫の最期を看取れるのは、飼い主にとって幸せなことと思っています。
昔飼っていた猫が、行方不明になって、結局見つからなかったことがあります。そのとき、飼い主にとってそばで死んでくれること、生をまっとうしてくれることがどんなに幸せなことか、痛感しました。
逆だったらどうでしょう。猫を残して、飼い主が死んでしまったら、どんなに猫が困るでしょうか。飼い主はどんなに心配でしょうか。愛猫の死を看取るのは、飼い主の責任をまっとうすることなのです」
インタビュー中も愛猫のマイペースぶりにほのぼの。
高度医療への考え方
愛猫フーちゃんが亡くなったとき、延命治療は行わなかったという加藤さん。それにはどんな考えがあったのでしょうか。
「1分1秒でも長く生きてほしいというのは人間側の思いではないでしょうか。私は、死出の旅を歩き始めた猫を見て、それを止める権利は私にはない、と感じました。
延命治療への考え方は人それぞれだと思います。ただ、あらかじめ考えをまとめておかないと、いざというときに混乱します。この本は、その人それぞれが愛猫の死の迎え方について、自分なりの考えをまとめられるようにと思いながら書きました。
ペットの治療は費用も多くかかります。ですから金銭に対してもしっかり心づもりしなくてはなりません。費用も含め、どこまで治療をするかは、飼い主が決めなくてはなりません。『治療法があるかぎり、それをやらなくてはならない』ということでもありません」
治療への考え方や、安楽死の選択、弔い方についても書かれている本書。飼い主にとって、何が納得できる選択なのか、とことん深く掘り下げています。
「飼い主が最善の策と信じられる選択をすること。それが一番大切です」
飼い猫のちびちゃんは、東日本大震災で保護された猫。運よく加藤さんに引き取られました。加藤さんのそばを離れない甘えん坊。
ペットロスについて
ペットを自分の子どものように可愛がる人が増えている現代、ペットロスに苦しむ人たちも増えています。この本ではペットロスの対処法や、死への考え方も記されています。
「たとえば、祖父母は自分より先に逝くだろうとわかっていますから、亡くなったとき、悲しくはあっても、立ち直れないということはないと思います。基本的にはそれと同じなのですが、猫は人より寿命が短いということが頭ではわかっていても、現実として受け入れがたいのでしょう。
ただ、健康を害するほどペットロスに苦しんでいたなら、愛猫はどう思うでしょうか。猫を飼ったのは、自分も猫も幸せになるためだったはず。猫のためにも、立ち直ってほしいと思います。そして、猫を飼うことに後ろ向きにならず、また新しい幸せな猫を増やしてほしいと思います」
飼い猫のまるちゃん。現在16歳で、耳が遠くなる、徘徊するなどの症状が出ています。「多分、近いうちに看取らなくてはならないでしょう。『死ぬときはそばにいるからね』と話しかけています」(加藤さん)
『猫とさいごの日まで幸せに暮らす本』 (大泉書店)
加藤由子さんの近著。我々は、どのように老いた猫の幸せと健康を維持し、どのように最期の日を迎えるべきなのか――具体的なマッサージや遊び方、お世話・介護・看取りのノウハウをていねいに解説し、同時に老猫との向き合い方や「死」の捉え方、心の整理のしかたについてもさまざまに提言。今現在老猫と暮らす人だけでなく、今の時代に猫と暮らすすべて人に読んでもらいたい一冊。