【犬猫の防災】気になる都市圏の実情。渋谷区も立ち上がった!ペットとの同行避難


9月1日「防災の日」に行われた、渋谷区の「犬との同行避難訓練」のようす。雨の中、飼い主さんたちが集まりました。

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渋谷区で“初”の犬との同行避難訓練実施!

去る9月1日「防災の日」、代々木公園にて、渋谷区で初の「犬との同行避難訓練」が行われました。
雨にも関わらず大型犬~小型犬の飼い主さんたちが集まり、「ペット専用スペース」として区切られた場所に集まって待機する同行避難のデモンストレーションが行われました。
ペットを連れて避難所に行くということは、このような煩雑な状況でも落ち着いて過ごすことが求められるんだ ということに気づかされます。

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おりこうに待機。「カッパを着てるから、雨でも平気だワン」

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PetLIVESのライター白石かえさん(右)も、愛犬メル&クーパーと参加。

避難訓練後は、犬の防災ワークショップを日本獣医師会のブースで開催。TV番組『トコトン掘り下げ隊! 生き物にサンキュー!!』(TBS)でおなじみの獣医学博士・増田宏司教授(東京農業大学)が、いざというときの心構えやシミュレーション、防災グッズの見直し等についてアドバイス。すぐに実践できることばかりです。
まずは飼い主さんが「普段の生活に取り込む工夫」が大切であることを気づかされました。

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 (左)「呼び戻し」など、日常の生活で無理なくできるようにしておくことが、いざという時に大きい と増田先生。(右)セミナーを主宰したONE BRAND編集長の小川類さんと、増田宏司先生。

 

高層ビルが立ち並び、通勤・通学の人々も多く、
昼間の人口は54万人にふくれあがるという副都心・渋谷区。
なぜ、今年初めてペットとの同行避難訓練に踏み切ったのか? その理由を伺ってみました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAお話を伺った方
渋谷区役所 危機管理対策部 地域防災課
課長 笠間武彦さん(左)
地域防災主査 中野裕光さん(右)
今回の避難訓練の計画・実施を担当された方々です。

 

新しい防災マニュアルを作成

――渋谷区が今年初めて、犬との同行避難訓練に踏み切ったのには、
どういった背景や目的があったのですか?

「渋谷区は今年、防災マニュアルを作り直しました。その背景には、今後30年以内に70%の確率で発生すると想定される“首都直下地震”に備えるという意味がありました。東日本大震災を例に、渋谷区は多くの帰宅困難者が出ることが想定されるため、その受け入れ施設も設定しました。そういった多くの改定項目の1つとして、『ペットの対策』を新たに盛り込みました。2013年に作成された環境省の『災害時におけるペットの救護対策ガイドライン』には『飼い主はペットと一緒の同行避難が原則』とされており、渋谷区もこれにならったわけです」

――なるほど。環境省の指針を、区のマニュアルでも明文化したのですね。このガイドラインは指針であり、拘束力はないので、対策はあくまで各自治体に任されている状況と聞きます。渋谷区がこうして明文化したことは、大きな一歩だと思います。

新しい「渋谷区防災マニュアル」のなかに記されているペット対策。

 

すべての避難所でペットを受け入れる、渋谷区

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――災害が起きたら、飼い主は「ペット可」の避難所に行く必要がありますが、現状ではあらかじめペットの可否を決めている自治体は少ないと聞きました。災害が起きたあとで、その場の流れで決まることが多いとか……。渋谷区はどうなんでしょうか?

「渋谷区では災害時、31か所ある避難所のすべてで、ペットを受け入れる方針です」

――えっ? それはすごいですね!

「避難所のペットの可否は、市区町村と施設の管理責任者(学校なら校長)、町会や自治会などが協議して決めますが、渋谷区では区が率先する形で、すべての避難所を“ペット可”とするよう、お願いしました。各避難所にはペット専用スペースを設けて、受け入れ体制を整えることを考えています。

また、震度5強以上の地震が発生した際には、自主防災組織(町会、自治会)と学校教職員5名、区の職員3名が集まって、避難所をただちに開設することを決めています」

震度5強以上の地震が起きたときの、避難所開設の流れ。左下に「ペット対策」の文字が!

「もちろん、飼い主さんの備えも求めています。ケージやペットフードなどの用意、日頃からのしつけ、健康管理などは必須です。ペット専用スペースに入るには、狂犬病などの予防接種を受けていることが必要です」

――そうした飼い主さんへの啓発も、同時に行っていきたいとのこと。今回の同行避難訓練は、その一環だったのですね。

 

今後、展開していきたいペット対策

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「避難生活が長期化する場合、ペットにも大きなストレスがかかります。その場合、ペットはほかの地域に一時的に移住する、いわば“疎開”のようなシステムを作れないかと考えています。そのために、遠方の自治体とそうした災害協定を結ぶことを考えています」

――なんと! ペットの疎開とは、新しいアイデアですね。確かに、長期間狭いところで過ごすより、被害のない地域でのびのびと暮らしたほうが、ペットにとってはストレスが少ないかもしれません。こうしたアイデアは今までにないものですね。

「実現までにはまだ多くの課題がありますが、目標を1つ1つクリアしていき、全国のなかで渋谷区が先頭になって新しい災害対策モデルを作って行ければなあと思っています」

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渋谷区区長、長谷部健氏のHPにある、今後行いたいペット対策。「提携先が災害に遭った場合は、渋谷区が先方のペットを引き受ける」という相互扶助を掲げているところに、リアリティがあります。

 

 

――渋谷区の災害時ペット対策はまだ始まったばかりかもしれませんが、多くのアイデアがあることに頼もしさを感じました。 

災害時のペット対策は、基本的に各自治体に任されているため、ある自治体は進んでいるけれど、ある自治体ではまったく手をつけてられていない、という状況が現実です。災害は明日起こるかもしれない…。皆さんの住んでいる自治体はいったいどんな状況でしょうか。

 

(編集&ライター 富田園子)

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富田園子

編集&ライター、日本動物科学研究所会員 幼い頃から犬・猫・鳥など、つねにペットを飼っている家庭に育つ。編集の世界にて動物行動学に興味をもつ。猫雑誌の編集統括を8年務めたのち、独立。編集・執筆を担当した書籍に『マンガでわかる猫のきもち』『マンガでわかる犬のきもち』『野良猫の拾い方』(大泉書店)、『ねこ色、ねこ模様』(ナツメ社)、『ねこ語会話帖』『猫専門医が教える 猫を飼う前に読む本』(誠文堂新光社)など。7匹の猫と暮らす愛猫家。 ▶HP:富田園子ホームページ ▶執筆&編集した本: 『マンガでわかる…

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