【犬猫の防災】実際の避難所での生活や同行避難とは?―ペット防災のプロに聞く(2)


 2004年の新潟県中越大震災の際、十日町市に設置されたペット用テントの様子

 

地震や火山の噴火など、災害の不安が高まっている昨今。「もし被災したら、うちのペットはどうしよう?」そんなふうに不安に思いながらも、何をしたらよいかわからない人が大半ではないでしょうか。
災害が起きたとき、愛するペットを守るために私たちはどうすればいいのでしょうか? そんな疑問を解決しに、お話を伺ってきました。

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<お話を伺った方>
NPO法人 ANICE 代表 平井潤子さん/理事・講師 髙木優治さん
ANICE(アナイス)とは―――明日の動物の防災を考える市民ネットワーク。緊急災害時に飼い主と動物が同行避難し、人と動物がともに調和して避難生活を送ることができるよう、知識と情報の提供を行っている。
NPO法人 ANICEホームページ

 

ペットと一緒に被災したとき、行政は何をしてくれる?

東日本大震災を受けて、平成25年、環境省の「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」ができました。その中には「避難をする際には、飼い主はペットと一緒に避難する同行避難が原則」と記されています。ですから、当然、災害が起きて避難することになったときは、行政のほうでも避難所でペットを受け入れる準備があるのだと思ったのですが・・・

「そもそも、これは法律でなくガイドラインで、これに沿って各自治体で動物救護方針を策定しなさいというものです。災害が起こったときに、自治体が動物を救護しなければいけないという法律はどこにもありません」(髙木さん)

ショック! ガイドラインだけで安心するのは早かったよう。
ガイドラインを受けて、対策を考える自治体も出てきましたが、あくまで各自治体の自主性にまかされている状況とのこと。

現時点では、ペットの同行避難について先進的に取り組んでいる自治体もあれば、まったく白紙の自治体もあるというのが現状です。
例えば東京都・新宿区は『学校避難所動物救護マニュアル』を作成していて、避難所での動物のトイレの設置のしかたや、飼い主不明動物の世話のしかたなどを取り決めています。ケージや鎖などグッズの備蓄もあるようです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA新宿区の動物救護マニュアル。日本語のほか、英語・中国語・韓国語版のパンフレットも作成されている。国際色ゆたかな新宿区ならでは。

「東京23区はまだ保健所があるため、動物担当職員がいますが、他の自治体になると動物専門の職員がいないこともあります。国がガイドラインを示したところで、現実問題、その対策を行う人材や担当部署もはっきりしていない市町村が多いんです。さらに、災害時には役所も被災したり、役人も被災者になることも考えてください。」

ちなみに取材後、私(ライター:富田)の地元の自治体に問い合わせてみたところ、ペットの同行避難について自治体が作成しているマニュアルやガイドラインは「特にない」との回答でした。ペット用品の備蓄も当然なし。「行政がなんとかしてくれる」というのは甘い考えだったのかも……と、徐々にリアリティが増してきます。

「当然ですが、災害の現場では人命が優先されます。また、職員も被災します。そんななかで、ペットを救うには、行政だけに頼っていてはいけません。行政の支援というのは規模が大きいですが、動き始めるまでには時間を要しますから、少なくとも災害が起きた直後から数日間は、自分たちがなんとかする必要があります」

 

避難所での生活はどんな感じ?

ペットと一緒に同行避難できたとして、その後のペットとの生活はどんなものになるのでしょうか? ペットと一緒の部屋で暮らせるのか、1人あたりのスペースはどれくらいなのか、そのあたりを聞いてみました。

「まず、実際の避難所は最初、大混乱です。動物を飼っている人も動物が嫌いな人もごちゃまぜで、命からがら助かった、という状況です」

2008年 宮城・岩手内陸地震避難所のペット飼育スぺースの様子

 

ここで、映画『インポッシブル』の話題が登場。スマトラ島沖地震で津波に巻き込まれ、離れ離れになってしまった家族のお話なのですが、避難所の描写がとてもリアリティがあるとのこと。同じ避難所にいる父親と息子が会えないほど、現場は大混乱を極め、廊下にも人があふれている状況などが描かれているそう。

ちなみに、「ペット可」の避難所でないと、ペットとの同行避難をしてはいけないのでしょうか?

「そんなことはありません。たとえペット不可の避難所であったとしても、そこに逃げてきた人を追い返すことはできませんから」

ここでまた疑問。ペット可とペット不可の避難所というのは、あらかじめ決まっているものなんでしょうか?

「決まっているところもありますが、現状では決まっていないところが多いようです。災害や被災者の状況によって、避難所の責任者が判断することが多いと思います。

ですから、避難所でペットと暮らすためには、ペットの飼い主さんたちが協力しあい、代表を立てて、責任者とうまく交渉する必要があります。
大切なのは、飼い主側の主張ばかりせず、常識的に話し合うことです。避難所には、動物が苦手な方も、アレルギーの方も、家族を亡くされた方もいるかもしれません。そんななかで、周りの人々に迷惑をかけずに、ペットと暮らせる方法を冷静に話し合えるかが大切です」

なるほど…。でも、その代表者ってどうやって決めればいいんでしょうか? 犬の飼い主なら、散歩仲間など地域のコミュニティーがあるかもしれませんが、猫の飼い主の地域コミュニティーって、ないことが多いと思うのですが・・・。

「なにも、ペットの飼い主でないといけないというわけではありません。たとえば、その地域に住んでいる獣医さんがいたら、そういう方にお願いしてもよいですし、町内会の役員さんでペットに理解のある人がいれば、そういう方でもいいと思います。ANICEでは、そういったときに交渉ができるノウハウも広めていきたいと考えています」

やはり、地域の人どうしのコミュニティーが大事なんですね。そのために町内会の行事に参加するなど、日頃からの飼い主さんの努力が大切だそう。

飼い主さん一人ひとりの常識的なマナーも大切です。過去にあった事例で、避難所内で飼い主さんが小型犬を放して避難所内を走り回らせたことで、その避難所内のすべての動物が退出を命じられたという残念なケースもあります」

自分たちやペットだけでなく、多くの人々が一緒に暮らす避難所だからこそ、飼い主の常識を疑われない行動をしたいものです。

 

「同行避難」という言葉がひとり歩きしている?

以前よりも「同行避難」という言葉が浸透してきたのはよい傾向である反面、「同行避難」=「災害が起きたら、とにかく住民全員がペットとともに避難所に行き、そこで同居して避難生活を送ること」と勘違いしている人も多いそう。

ペットとともに避難所で避難生活を送ることだけが選択肢ではありません。
たとえば、災害が発生しても、自宅に被害がない場合、また類焼火災や土砂崩れなど、継時的な被害の心配がない場合には、安全を確認して自宅に戻り、人も動物も自宅避難(自宅にいて物資や情報は避難所で得る)するという選択肢もあります。

また、避難者が溢れていて動物飼育スペースが確保できない避難所で、猫をキャリーバッグに入れたまま何日も生活させなければいけない、などという状況なら、自宅が安全であれば、動物は自宅飼育し、飼い主は避難所で寝起きし、避難所から動物のお世話に通う、という方法もありえます。
自宅が使えなくても、ほかに壊れていない家があって、その家の方が協力してくれる場合は、そこにペットを集めて、飼い主さんたちが協力してお世話に通う、という方法もあります

「災害=避難所での生活」、とぼんやり思い描いていましたが、さまざまな方法が考えられるということなのですね。

「災害が起きた際、飼い主の安全を確保しつつ、ペットと一緒に同行避難することはやはり大切なことです。福島では、すぐに戻れるだろうとペットを自宅に残して避難した結果、立ち入り禁止区域に指定されてしまい、ペットが取り残されることになった、というケースもありますから。ですが、その後の選択肢は1つではありません」

flow01_l(resize)ANICEが作成した、災害が起きた際のフローチャート。同行避難できなかったケースも含めて考えられている。
※「共助システム」とは、飼い主どうしの助け合いの仕組みのこと。
(クリックで拡大します)

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富田園子

編集&ライター、日本動物科学研究所会員 幼い頃から犬・猫・鳥など、つねにペットを飼っている家庭に育つ。編集の世界にて動物行動学に興味をもつ。猫雑誌の編集統括を8年務めたのち、独立。編集・執筆を担当した書籍に『マンガでわかる猫のきもち』『マンガでわかる犬のきもち』『野良猫の拾い方』(大泉書店)、『ねこ色、ねこ模様』(ナツメ社)、『ねこ語会話帖』『猫専門医が教える 猫を飼う前に読む本』(誠文堂新光社)など。7匹の猫と暮らす愛猫家。 ▶HP:富田園子ホームページ ▶執筆&編集した本: 『マンガでわかる…

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