成犬を迎える。そのメリットとリスクとは?|行動学の専門獣医師が解説

犬を飼う場合、以前は、ペットショップで子犬を入手するのが一般的でしたが、最近は、成犬の保護犬を譲り受けるという選択肢も浸透してきています。成犬を迎えることには多くのメリットもありますが、リスクもあります。一生、責任をもって飼うためにも、十分に納得したうえで迎えてください。

成犬を迎えるメリット

●不幸な犬を助けられる
ペットショップでお金を出して買うのではなく、助けられる子がいるならそこから譲り受けたいという純粋な愛情。それは不幸な犬を減らすことにもなり、いいことだと思います。

●しつけの手間が省ける
子犬なら、1から10まで教えなければなりませんが、成犬なら、そのしつけの手間が省けるメリットがあるかもしれません。もっとも、迎える成犬がすでにきちんとしつけが入ったいい子であることが前提です。

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●年配の人でも迎えやすい
愛犬を亡くした年配の方が、次の犬を飼いたいけれど、自分の年齢を考えると、子犬だとこれから20年も面倒を見きれる自信がない。そんなときも成犬がいいですよね。

 

成犬を迎えるリスク

●保護犬はいろんな事情を抱えている
一方、すべての成犬が社会性の高い、しつけの入った子ばかりではありません。保護された子は、飼育放棄や繁殖業者の廃業など、何かしら事情を抱えているケースが多く、病気を持っていることもあれば、心の問題を抱えていることもあります。そうしたリスクがあることも知ったうえで、迎えてください。

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●日本の保護団体は徹底したチェックができない
海外ですと、犬をペットショップで買うことはまずなく、たいていシェルターから保護犬を譲り受けます。シェルターには専門家がいて、必ず犬の性格判断テストを行います。猫や他の犬、他の人に対してどんなリアクションをするか、散歩のときの反応はどうか、食事中に食器に手を入れても咬まないか…等々、細かくチェックし、いいことも悪いこともすべて洗い出します。

そして、スタッフができる限り課題を修正して、最終的に、例えばこの子は子どもを咬む可能性があるから、子どものいる家は不適格等のマッチングをします。日本の保護団体はそこまで行っていません。もちろん専門知識のある方がいて、優れたレベルの修正をして、適切な飼い主さんに譲渡しておられるところもありますが、まだまだ数は少ないです。

●問題はトライアルだけではわからない
もちろん多くの保護団体でトライアル期間を設けていますが、それだけで100%、その子をチェックすることはできません。最初の1カ月は本性を出さない子も多く、トライアル後に問題が出てくることもしばしば。とはいっても、トライアルは絶対にしたほうがいいです。とくに先住犬がいる場合は、相性もあるのでなおさらです。

 

成犬を迎えるときの心構えと注意点とは?

●仲良くなろうと、焦りすぎない
犬も、急に「今日から私が飼い主よ」と言われたら戸惑うかもしれません。ここが本当に自分のずっといられる場所だと認識できるまでに時間が必要で、時間をかけて接し方を深めていきましょう。

最初は、あまりベタベタ構うより、静かに見守る時間を設けて、少しずつ距離を縮めていくのが優しさです。皆さん、早く仲良くなりたいと焦りすぎなんですね。あと、注意が必要なのが脱走です。当初は自分の家という感覚がないので、ちょっと隙間があれば逃げ出してしまいます。

●予想外のこともあると、覚悟しておく
短いトライアル期間では見えなかった部分、予想外の部分が見えてくることがあるので、覚悟が必要です。私のところにカウンセリングに来られるケースで多いのは「分離不安」ですね。ひとりにすると、破壊する、吠える、排泄する。

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環境や家族が変わるのは、犬にとって大きなショックなので、それが引き金になったのか、もともとそういう性質を持っていたから手放されたのか、その判断は難しいですが。他に、家を破壊し尽くしかねないような雷恐怖症の子も。雷恐怖症なんて、雷の季節にならないとわかりませんから。

●心に関わる問題行動は、直すのに時間がかかる
犬という動物を家に迎えることはどういうことで、何を教えなければいけないのか、どんな覚悟が必要なのか。それは犬の年齢を問わず必要なことで、成犬でもできていなければ、一から教えないといけません。

ただし、分離不安などのトラウマに関わるもの、パニックを起こす雷恐怖症などは、単純なムダ吠えや遊びがみと違って、直すのに非常に時間がかかり、飼い主さん側にも努力を要します。「1年で1時間お留守番ができるようになる」というぐらいの長い目標になります。

●その子について、可能な限りの情報を得る
「この子を迎えよう」と思ったら、その子についてできるだけ細かく保護団体に聞きましょう。いいことも悪いことも、わかっていることは全部教えてもらう。事前に飼われていた環境や接し方、しつけの仕方などがある程度わかっていれば、ギャップがなくて犬も不安を感じずにすみます。

あとは、保護団体の中にトレーナーさんがおられるところであれば、迎えた後も定期的にトレーニングを受けるといいと思います。一緒にレッスンを受けることで、飼い主さんとのきずなも深まります。

 

2頭目として成犬を迎えるなら…

●「先住犬ファースト」で考えること
2頭目を迎えるのは、「慎重に」とお願いしたいです。先住犬が6〜7歳以上のシニア犬の場合、急に新しい犬が来ると、それが成犬であれ子犬であれ、飼い主さんの愛情分散が始まることに非常にショックを受けます。年をとるほど、メンタル・キャパシティは狭まっていくので、2頭目を迎えるのであれば、先住犬が2〜3歳頃までに。年をとってからだと、環境のストレスから病気になることがあり、実際、てんかんを発症してしまった子もいます。

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若い新入り犬を迎えると、シニア犬が元気になったという話を聞くこともありますが、それは、先住犬がお世話好きタイプの子の場合。子犬が来たらお世話したいという子は、若返ります。

●迎えるなら、年齢・性別・犬種にも配慮しよう
もし2頭目を迎えるなら、落ち着きのない子犬より、しつけが入っている子であれば成犬のほうがいいかもしれません。年齢が離れるとテンションが違いすぎて先住犬が疲れるので、年は近いほうがいい。サイズは、先住犬より小さいか同等が望ましいです。

性別は、一般に異性のほうが相性がいいと言われますが、個体差があるので、日常生活のなかで他の犬に接する様子から判断してください。

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また犬種の好き嫌いがみられることもあります。柴犬は嫌いだけどチワワは好きとか、先住犬の好みがわかっていれば、それに準じて選んであげたほうがいい。一般に同犬種のほうが仲良くなりやすいようです。動きのパターンが似ていて、コミュニケーションをとりやすいのかもしれませんね。

 

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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