シニア犬に訪れる体や行動の変化と、7つのアンチエイジング策|行動学専門の獣医師が解説

ペットの長寿化が進み、今や飼い犬の約6割が7歳以上のシニア犬。飼い主さんは、うちのコはまだまだ若いと思いがちですが、7歳を超えれば体にも心にもさまざまな変化が出てきます。今回は、加齢とともに訪れる変化と、老化の速度を遅らせるアンチエイジング策について考えてみましょう。

 

7歳は第一関門、10歳を超えるとさらなる変化が

小型犬だと7歳は40代、大型犬なら50歳ぐらい。人間で考えてもシニアに向かう第一関門です。さらに10歳になると、小型犬は50代、大型犬なら70歳ぐらいに相当しますから、体の内外にいろんな変化が出てきて当然です。

例えばシニアになると、腰と大腿部の肉が落ちて細くなってしまいます。皆さん、「うちのコ、痩せてきて」と言いますが、痩せているのとは違って、筋肉が落ちている。犬は前足のほうに重心がかかっていて、後ろ足をあまり使わないため、後ろ足から筋力が衰えてくるんです。その他、耳が遠くなったり、白内障になって目が見えなくなったり、人と同じです。内面的にも、頑固になったり、逆に甘えたになることもあります。

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今、私の教室には、10歳を超えて初めてトレーニングするコもいます。若いコと違って、「オスワリ」や「持って来い」ができるようになることが目的ではありません。いかに日々頭を使わせて、飼い主と楽しいコミュニケーションができるか。筋トレも、体を鍛えるというより、介護用品が必要にならないように、寝たきりにさせないためのトレーニングを行っているんです。

 

道具がなくてもできる「筋トレ」

筋トレは、歩行がおぼつかなくなる前から始めたいですね。最近は、ペット用のバランスボールなども登場していますが、特別な道具を使わなくてもトレーニングはできます。足が滑ると犬が恐がるので、ヨガマットを利用するといいでしょう。

●前足・後ろ足を上げる
犬を立たせて、対角の前足と後ろ足(前足が左なら後ろ足は右)を同時に持ち上げます。最初は5秒程度で、徐々に長くして15秒ぐらいキープ。もう一対の前足と後ろ足も同様に。ヨガのポーズと一緒で、バランスがすごく良くなってきます。難しければ、最初は足を1本ずつでもかまいません。

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●バック、8の字くぐり、スラローム
犬にバック(後退)させたり、飼い主さんの足の間を8の字くぐりさせたり、スラローム*の動きをさせるのもいいですね。

hybrid-662810_1920_572*スラロームとは、複数立てられたポールの間を縫うようにして進む競技のこと

●プレイバウの姿勢
プレイバウ(上半身はフセで、お尻を突き上げた遊びを誘うポーズ)の姿勢もおすすめです。老犬は背中が丸まってくるので、背中を伸ばす効果があります。まず立止りをさせ、次にフセに移る途中でクリッカーを鳴らして褒める。これで、お辞儀のポーズを教えます。

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●坂道トレーニング
緩やかな坂道を散歩するだけでも、シニアにはいい運動になります。わが家の場合は、近くにすごくいい公園があって、そこに芝生の生えた小山があるので、あちこちにおもちゃを隠して、山を下りたり上ったりさせています。4f29c157412d523755983944d79835c1_m_572

鼻を使わせると効果的な「脳トレ」

鼻は脳に直結しているので、脳を活性化させるためには、日々どんなふうに犬に鼻を使わせるかが大切になってきます。脳トレには、ノーズトレーニングがとても効果的です。

そのために、若い頃から心がけていただきたいのが、おもちゃで楽しく遊べるようにしておくこと。とくに「持って来い」ができるだけでも、そこからさまざまな頭脳トレーニング、ノーズトレーニングに入っていけます。

●おもちゃで「持って来い」遊び
複数のおもちゃに名前をつけて、その名前のものを取ってくるというトレーニングも、犬と楽しくコミュニケーションしながら、脳トレができます。350c5136c938d4bb69cc45f8e9cfb220_s_572

●ノーズトレーニング
これは私の教室で行っているものですが、紙をちぎって小さな巻物にしたものをいくつか作り、そのうちの1個だけに飼い主さんの手のにおいをつけてもらいます。それ以外は私がさわった紙です。そして、犬に飼い主さんの手のにおいを嗅がせて、「探せ」と指示すると、飼い主さんのにおいのついたものだけを取ってきます。

あるいは、「持って来い」で使ったおもちゃを今度は隠して、「探せ」と指示します。犬は、対象が見えているときは目を使いますが、見えないと鼻による探索へとスイッチします。フンフンと鼻を使って探すことで、ノーズトレーニングに。これなら普通のワンちゃんにも教えられるでしょう。031dc83d61289cf1cec4c3b456491dfe_s_572

●知育玩具
中におやつを入れて、どうすればおやつが出るかを犬に考えさせながら遊ばせる知育玩具。お留守番の時などに重宝しますが、使い方を教えてあげないと遊ばないコもいます。最初は飼い主さんが、こうすればおやつが出るんだよと教えてあげてください。また、おやつが出てきたら褒めて盛り上げないと、遊ばないコも(笑)。知育玩具は、常時、床に転がしっぱなしにしていると必ず飽きが来るので、いくつか用意してローテーションしましょう。

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シニア犬との暮らしはココに注意!

●年のせいだと決めつけない
年を取って行動パターンや感情に変化がみられても、年齢のせいではないことも多いんです。どこかが痛い可能性もあるし、甲状腺や副腎などのホルモンの問題で、心のあり方が変わって苛立っているのかもしれない。変化を安易に老化と片付けず、病院に行ってきちんと確認することが大切です。

●生活環境の見直しを
シニアになると、若い頃には平気だったことが負担になってきます。家の中の段差をなくすとか、階段に滑り止めをつけるなどの配慮も必要になってきます。

屋外飼育のコで、雷恐怖症になって外が恐くなってしまったケースもあります。年を取ると脳内の不安を和らげる神経伝達物質の量が減って、恐がりになる。室内に入れてあげることも考えなければいけません。

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寒暖差もこたえるようになります。冷気は下に行くので、エアコンを付けても温かいのは上だけで、犬のいる床付近は寒い。ならば床暖房がいいかというと、床暖だと犬の被毛まで乾燥してパサパサになるので、犬と暮らす上ではおすすめできません。

若い頃は弾力性のあるラテックスのボールが好きだったのに、年を取るとくわえやすい小さめの柔らかいおもちゃが好きになるなど、おもちゃの嗜好性も変わってきます。

愛犬が安全に快適に暮らせるように、生活環境を見直してみてください。

●無理をさせない
顔が幼いためつい若いと思いがちですが、犬は私たちの時間軸とは違って、5~6倍のスピードで年を取っていきます。私たちの1年とは大きく違うので、それを認めてあげて、無理をさせないことが大切です。まだまだ歩けるからと若い頃と同じだけ散歩をさせていると、犬には大きな負担になっていることがあります。

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ボーダーコリーのような犬種だと、死ぬ寸前までアジリティをしていることも。飼い主さんのほうでコントロールしてあげる必要があります。

シニアになれば、散歩も遊びも量ではなくて質を高めること。10分なら10分、20分なら20分の短い時間に、同じことがばかりさせるのではなくて、違う動き、散歩も違うコースを取るとなどの工夫をしましょう。

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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