動物にやさしい国、オーストラリアの犬事情

筆者が犬の問題行動の矯正カウンセリングをオーストラリアで学び、滞在中にブリーダーさんから子犬を直接迎えたのは10年ほど前のこと。年始の休暇中に当時の写真を見つけ、なつかしく思い出しました。

そこで今回は、帰国後もオーストラリア人との交友を続けているなかで得た情報も含めて、ぜひ皆様にご紹介したいオーストラリアの犬事情をお伝えします。

 

オーストラリア生活で驚いたこと

シドニー市内にホームステイしながら、犬の出張カウンセリングのインターン研修生として、ドッグ・ビヘイビアリストとともに1日3~4件の家庭を訪問していた当時、まず純粋に驚いたのが保護犬(現地の呼び名:レスキュード・ドッグ)の多さでした。

1日1件は、必ずといっていいほどアニマルシェルター(愛護団体など)からレスキューされた犬のいる家庭へ。つまり全体の3割位でしょうか。残りのほとんどは、ブリーダーさんから好みの犬種を迎え入れた家庭、そして全体の1割位がペットショップから犬を購入した家庭です。A_572c愛護団体から旅立った元保護犬のグレイハウンドとその飼い主さん。

私がホームステイをしていた先も、RSPCA(Royal Societies for the Prevention of Cruelty to Animals)という、イギリスが発祥で世界各地に支部を構える大規模なアニマル・シェルターから、推定2歳のジャック・ラッセル・テリアMIXをアダプトしていました。ちなみに、このRSPCAですが、オーストラリアは独自の運営を行っていて、国内のシェルターは合計で30ヵ所を超えます。

B_572bRSPCAの“Millions of Paws Walk”というイベントにて。元保護犬がシドニーの公園内を行進。出店ブースも多数。

今でこそ日本でも「殺処分ゼロ」への取り組みが話題にのぼり、保護犬を迎えるご家庭も増えましたが、オーストラリアでは10年以上前から、保護犬の認知度や飼育頭数の高さは日本とは比較にならないほど多かったのです。たとえば、シドニーの住宅街にある小規模なアニマル・シェルターのチャリティーバザーなどの広告を、ポストに投函される地域情報紙でよく目にしたものです。

 

トレーニングはどうしている?

オーストラリアは、犬王国イギリスからの移民が多いこともあり、犬のしつけやトレーニングに対する意識が高い国です。平均的な所得でも、広いバックヤード(裏庭)付き一軒家での生活が一般的なオージーたちが好むのは大型犬。ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、オーストラリアン・ラブラドゥードルが人気犬種です。

出張カウンセリング先では、ロットワイラー、ドーベルマン、ジャーマン・シェパード、オーストラリアン・シェパード、グレイハウンドなどにも出会いました。休日になると、あちらこちらの公園で、パピークラスやトレーニングクラスに参加している家族連れの姿をよく目にします。C_572b休日の飼い主さん向けトレーニングセミナーの様子。犬連れのクラスが多いですが、この日はほかのイベントと同時開催だったため、トレーナーもタキシード姿での特別クラス。

動物病院のパピーパーティーは、スペースの都合もあり小型~中型犬がメインで、平日の夜でも参加者はどこも5~10組ほどはいます。子犬の社会化やトレーニングの必然性は、犬のサイズに関係なく皆さん感じているようです。

D_572d動物病院の平日夜のパピーパーティの様子。子ども連れで参加する家族も少なくありません。

私が学んだ出張カウンセリングで、毎日3~4組の枠が埋まることからも、オーストラリア人がどれだけ犬との関係づくりを大切にしているかがわかりますよね。出張カウンセリング先で前述の大型犬以外で多かった犬種は、ジャック・ラッセル・テリアと保護犬のスタッフォードシャー・ブル・テリアです。

ジャックはオーストラリアが改良原産国なので飼育頭数もかなりの数に上りますが、庭で穴を掘り続けて脱走する、庭にやってくるオポッサムを殺してしまうなど、テリアならではの行動が主な相談ごとでした。

E_572b私が学んだDog Techの出張トレーニングの様子。ちなみに平均的な郊外の住宅ですが、敷地が広いですよね。

トレーニングされた犬たちとオージーのお出かけ先は、主に公園。海沿いなどに、広くて気持ちの良い公園がシドニーには山ほどあり、車の利用が主流です。自動車内で犬をフリーにすることが禁止されているオーストラリアでは、シートベルトを通せるハーネスを着用する大型犬を多数見かけました。小型犬ならばクレートに入ってのドライブも少なくありません。

 

動物にやさしいから…

オーストラリアは動物愛護先進国として知られています。動物の負担を軽減するため、犬は断尾と断耳をしてはいけません。FCI(国際畜犬連盟)が断尾や断耳に否定的になり、近ごろは日本でも、尾の長いジャック・ラッセル・テリアや耳の垂れたドーベルマンを見るようになりましたが、オーストラリアでは10年以上も前から、犬たちの姿はナチュラルです。

F2_572bRSPCAイベントにて。断耳していないグレート・デン。

そんなオーストラリアで迎えた私の愛犬、ノーリッチ・テリアのリンリンも尾は切っていません。そのため日本では「ケアーン・テリア?」とよく聞かれたものです。

F1_293b断尾していない、オーストラリア時代の愛犬リンリン。

次回は引き続き、オーストラリアのブリーダーさんから愛犬を迎えたエピソードと遺伝性疾患への取り組みなどをご紹介します!

遺伝性疾患を繁殖現場で管理!オーストラリアの犬事情

臼井京音

ドッグライター、写真家、東京都中央区の動物との共生推進員 ドッグライター・写真家として、およそ20年にわたり日本各地や世界の犬事情を取材。毎日新聞の連載コラム(2009年終了)や、AllAbout「犬の健康」(2009年終了)、現在は『愛犬の友』、『AERA』、『BUHI』など、様々な媒体で執筆活動を行う。オーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、2007~2017年まで、東京都中央区「犬の幼稚園 Urban Paws」」の園長・家庭犬のしつけインストラクターとしても、飼い主さんに…

tags この記事のタグ