犬にとって「名前」とは?名前を呼んでやっていいこと悪いこと|ドッグトレーナー連載

 愛犬はトレーニングの師でもあるラブラドール・レトリーバーのクッパ、11歳。

こんにちは、ドッグトレーナーの三井翔平です。これからしつけやドッグスポーツなどについて連載をさせていただくことになりました。よろしくお願いします!

僕は長らく大学で犬のトレーニングや人とのコミュニケーションついて研究を行っており、連載では研究の側面も含めてご紹介できればと思っています。また、日頃飼い主さんから質問を受けることが多い日常生活の「何でだろう?」や「今更聞けない基本的なこと」などについても取り上げていきたいと思います。

さて連載第1回目は、自己紹介では必ず名乗る「名前」について考えてみましょう。少し堅苦しい言い方をすると、「名前」とは物に与えられた言葉で、特定の物を他と識別するために欠かせない概念です。では、犬にとって名前とはどんな意味を持っているのでしょうか?

 

愛犬を名前で怒ってはいけない?!

犬にとっても人間の場合と同じく、名前は、他の犬ではなく自分が飼い主に呼ばれていることを認識するために欠かせないものです。つまり、飼い主とコミュニケーションをとるきっかけとなる大事なものなのです。

当然、人が犬に何かしてほしければ、名前に反応してもらう必要があります。例えばカメラ目線のカワイイ写真が撮りたければ、名前に反応してこちらに振り向いてもらう必要があります。では、名前を呼んで怒られてばかりいたら、犬は自分の名前をどう思うでしょうか?

ペットライブス

愛犬クッパはボール遊びが大好き。
遊んでいるときに名前を呼ぶと期待感たっぷりでこっちを見てくれます。

ちょっと極端な例ですが、悪いことをした犬に向かって名前を呼んで叩いたとします。そうすると犬は「名前を呼ばれると叩かれる」、つまり名前を呼ばれるといやなことが起こると認識していきます。これをくり返せば、「名前を呼ばれたら逃げる犬」の完成です。

名前を呼ばれたら何かいいことがあるかも?と期待感を持つようにしていかなければ、必要なときに反応もしてくれなければ指示も聞いてくれないでしょう。どうやって名前に反応させ、期待感を持ってもらうかは今後ご紹介できればと思っています。

 

犬に「あだ名」は通じるか?

ご自身のワンちゃんを、愛着を込めていろいろなあだ名で呼んでしまう方も多いのではないでしょうか? 何を隠そう、僕もその一人。愛犬の名前はクッパですが、他に「クー」や「おじいちゃん」など、気分で変えて呼んでいます。でもこれがあまりいいこととはいえない場合があります。

写真を撮る場面で考えてみましょう。カメラ目線がほしいから名前を呼びます。できればいい笑顔がほしいからちょっと甘えた感じで「ク~」なんて呼んでみる。でも滅多に呼ばれない名前なので自分が呼ばれていると思わずにクッパは反応しない。僕はだんだんとイライラしてきて怒り口調で「クッパ!」と呼ぶ。もうこれは最悪。仮に日々名前で怒ることを繰り返していれば笑顔なんかくれるはずがありません。

愛犬があまり あだ名で呼ばれたことがなければ、犬は自分が呼ばれていることを理解できません。ですから、家族内でも呼び方を統一し、きちんとその呼び名に反応してもらうことが、ワンちゃんとのコミュニケーションの第一歩なのです。あだ名で呼ぶのは、しっかりと一つの呼ばれ方を覚えてからのお話。

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キメの写真はやっぱり目線が欲しい!
いつでもどんなところでも、こっちを向いてくれたらいいですよね。

 

名前を呼び続けると逆効果?

これまた写真を撮る場面で考えてみましょう。渋谷のハチ公と一緒に記念撮影すべく、何とかハチ公前でオスワリをさせました。僕はカメラ目線のために「クッパ~」と名前を呼びます。さてさて、クッパはというと普段の生活では遭遇しないたくさんの人や様々な騒音、初めて来た場所に落ち着かずソワソワしています。

右見て左見て、耳を前後に動かし、においをかいで現場確認に忙しいクッパ、カメラ目線どころじゃありません。僕は何度も何度もクッパの名前を呼びます。このときクッパはどう思っているかというと「呼ばれているのはわかるけど、情報収集でいま忙しいの!無視無視」。

こんなやりとりをくり返すと、ある問題が起こります。「名前は無視していい。自分とは関係のないものだ!」。こんな勘違いをしてしまうのです(「無関係性の学習」と言います。鈴木さんに向かって「田中さん」と声をかけても無視されるのと同じです)。写真撮影に限らず日常生活でもついつい名前を連呼してしまうことありませんか? 実は飼い主の意図とは逆に、どんどん名前への反応を弱めてしまっているのです。

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 名前を呼ばれても、どこ吹く風という状態になってしまっていたら、気をつけて。

 

みなさんいかがでしたか? 心当たりのある方も多いのではないでしょうか?
日常生活のちょっとしたことを意識するだけで、もっとスムーズにワンちゃんとの意思疎通がはかれ、絆も深まっていくと思います。

さて次回は、実践編。
これができれば、カメラ目線のカワイイ写真も簡単♪「今からでも遅くない!楽しく名前を覚えてもらうコツ」をお送りします。

 

三井翔平

ドッグトレーナー(スタディ・ドッグ・スクール所属)、学術博士、国際資格 CPDT-KA(Certified Professional Dog Trainer - Knowledge Assessed) 麻布大学大学院獣医学研究科博士後期課程にて犬と人のコミュニケーションに関する研究を行い博士号を取得。その後 ドッグリゾートWoof 専属チーフドッグトレーナーを務め、日本テレビ系「ザ!鉄腕!DASH!!」のダメ犬・デブ犬克服大作戦をはじめとしたTV番組にも出演。現在はスタディ・ドッグ・スクールを拠…

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