野良猫の保護活動に、いつか力尽きないための方法 ~東京キャットガーディアンレポ~ by富田園子

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2016年は猫を計6匹、保護した。そのなかの子猫3匹は里親さんを見つけて飼ってもらった。残りの3匹は我が家の猫に。ほかに、2匹のおとな猫にTNR(保護して不妊手術をし、元の場所に返すこと)をした。

多くの野良猫を保護している方や団体から見ればたいしたことのない活動だが、これだけでも、結構多くの手間とお金がかかった。野良猫の不妊手術は区から助成金が出るが、それですべてはまかなえない。残り大半のお金は、“持ち出し”だ。

私の場合、家計に支障が出るほどの額ではなかったが、それでも、「こんな活動をすればするほど、いつか破綻するしかないじゃないか」という思いをぬぐえなかった。だって“持ち出し”でやるしかないんだもの。不幸な野良猫を救いたいという気持ちはあるけれど、それで自分が破綻してしまったら元も子もない。多くの保護団体も、寄付金で少しは助かるにしろ、きっと同じような内情なのだと思う。力尽きたら、そこで終わるしかない活動…?

そんなモヤモヤした気持ちを抱えていたとき、一筋の光明を見た。
この本である。

山本葉子さんといえば、日本最多数の譲渡数を誇る猫の保護団体、東京キャットガーディアンの代表である。「きっと、動物保護を情緒的に訴える内容なんだろう…」と思って手に取ったが、違った。いや、そういう話も載っていたが、それだけではなかった。ここには、多くの野良猫を救うシステムを作るための、冷静な目と大胆な発想があった。山本葉子さんに会ってみたい!

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《今回お話を伺った方》
山本葉子さん
NPO法人東京キャットガーディアン代表。猫カフェスペースを設けた開放型シェルターを東京・大塚と国分寺に展開。ほかに、日本初の「猫付きマンション」や「猫付きシェアハウス」など不動産業も展開している。総譲渡数は5400頭以上(2016年11月時点)。
東京キャットガーディアン

 

どうしてこんな大規模な保護活動が可能に?

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東京キャットガーディアンの大塚シェルター

―まずはじめにおうかがいしたいのですが、山本さんは今までどんなお仕事やご経験をされてきたのでしょうか? といいますのも、山本さんの発想は、企業の経営者目線がないと浮かばないものと感じまして。経営者のような広い視野や冷静な分析力がないとできないというか。

「実は、音楽イベントなどを運営する会社の代表をやっております。今は東京キャットガーディアンの運営にかかりきりで、会社の方は別の者にほぼ任せておりますが」

―やっぱり!野良猫保護の活動は、私のような個人や、個人が集まった団体でやっていることが多いですが、どこも「猫たちを救いたい!」という熱い想いしかエンジンがないというイメージで、内情は火の車のところが多いように思います。その人が倒れたらそこでお終いというような。ですが山本さんは「自分がいなくなっても続行できる体制作り」を考えていて、次元が違うなあと感じました。

東京キャットガーディアンでは企業と同じような運営体制をとっています。複数の常勤スタッフをもち、スタッフには人件費を支払っています。人間も霞を食べて生きるわけにはいきませんからね(笑)。もちろん、無償のボランティアさんの助けなしには難しいのですが」

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―HPに収支報告がありますが、ひと月に500~800万前後ものお金が動いているんですね。

「はい。毎月プラスマイナスゼロに近い収支ですが、なんとかやっています。こうやって収支を公開するのは、寄付していただいた方への義務と思っています」

―保護する猫の数が多すぎて、収支が大きくマイナスに傾いたりすることはないんでしょうか?

「これも、企業の経営に使う“バランスシート”のようなもので調整しています。例えば、これ以上保護猫を増やすとバランスが崩れそうなときは、新規の受け入れをストップします」

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―なるほど。全体のバランスを見る目線があるからこそ、常時300頭前後の猫の世話をしながら年間約700頭の譲渡数を実現できるんですね。

いわゆる『ソーシャルビジネス』ですね。企業経営と同じような手法で野良猫問題の解決に取り組んでいます。『猫付きマンション』や『猫付きシェアハウス』もそのひとつで、賃貸だけど猫を飼いたい方の希望を叶えるとともに、住人が一時的な預かりボランティアとなって保護猫を飼育してくれる外部シェルターという位置づけです」

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―「猫付きマンション」と最初聞いたときには驚きました。その部屋から住人が出ていくときはどうするのかとか。

「2010年に猫付きマンションを始めてから6年経ちましたが、部屋の更新はあっても卒業(その部屋から出ていくこと)はまだなく、入居者の定着率が高まるという効果があるのではと思っています。ちなみに卒業する際は、審査の上その猫を譲り受けることもできます。東京キャットガーディアンでは猫付きマンションを含め、飼育希望者が民間の保護団体から猫を譲り受ける新しい流通ルートを開拓していきたいと思っています

 

東京キャットガーディアンが始めた新たな試みとは?

gardian_4見学者の足元に無邪気にじゃれる子猫。こうした猫と、ペットショップで売られている猫に可愛さの違いがあるだろうか?

 

―2015年末から、「ねこのゆめ」という新たなシステムを始められましたね。

「はい。病気や高齢で猫を飼い続けられなくなった飼い主さんのために始めた制度です。毎月3,800円の積立金をお預かりし、6年で満期。飼い主さんが希望のときにその猫を引き取るというシステムです。飼い猫の年齢や健康状態は問いません。一般的な老猫ホームと違うのは、譲渡対象になれそうなら新たな飼い主探しをするということ。新たな飼い主が見つからない場合は東京キャットガーディアンが終生飼養をします」

―老猫ホームは今までにもありましたが、入会金が数百万と高額なところが多く、一般人にはとても無理という印象でした。「ねこのゆめ」だと、満額で273,600円と、これなら私にも払えると感じました。

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「そうですね。うちでは『再譲渡』も視野に入れているので、コストを抑えることができます。2009年から成猫のお引き取りと再譲渡事業をスタートしたのですが、現在、8割以上の猫に新しい飼い主さんを見つけられています。その経験も、「ねこのゆめ」事業を始める自信となりました。もちろん、うちの譲渡の際の審査の目は厳しいので、おかしな人に譲渡するリスクは少ないです」

―高齢になると、保護団体から猫を譲り受けるのは難しくなりますよね。でも私は、高齢になっても猫を飼っていたい。むしろ、高齢の人ほどペットの癒しが必要になると思うんです。でも、責任感の強い人ほど「自分が先に逝ってしまうと思うと飼えない」と思って、あきらめざるを得ません。でもこの制度があれば、自分が先に死んでしまっても飼い猫のことを心配せずに済むし、高齢でも猫との生活をあきらめずに済むのでは、と思いました。

garedian_5おばあさんになっても、猫を飼っていたい。精力的にあちこち出歩くことのできない高齢者にこそ、猫の癒しは必要なのでは。

「この制度は、猫を飼えなくなった方にギリギリまで愛猫と一緒にいることを可能にする制度とも考えています。実は、この制度を始めるきっかけになったのは、癌で余命数カ月となった男性でした。飼い猫8匹の終生飼養を依頼されたのです。

『ねこのゆめ』の制度は以前から考えていたのですが、あと一歩踏み出す勇気が出せず、躊躇していました。事業家であるその男性に構想を話したところ、考えを気に入ってくださいました。そして家と全財産をうちに託し、背中を押してくれたのです。『これは仕事の契約書だよ』といって遺言状を渡されました」

※この出来事は『猫を助ける仕事』あとがきと、下記のページで詳しく読むことができます。
~『ねこのゆめ』開始のきっかけになった出来事~

 

ペットの終生飼養は飼い主の責任。でも高齢になると、猫を飼うことは難しくなる。でも、猫を飼いたい高齢者はたくさんいるし、飼い主を待つ猫もたくさんいる。この制度を利用すれば、この問題が解決できるんじゃないか?そんな光を見た気がしました。

 

編集&ライター/日本動物科学研究所会員 富田園子ペットライブス,PetLIVES,猫,富田園子,日本動物科学研究所会員,うちの猫のキモチがわかる本,はじめての猫 飼い方・育て方,うちの猫の長生き大事典,猫と一緒に暮らす女の子のための飼い方ブック,幸せなハムスターの育て方,小鳥のキモチ

幼い頃から犬・猫・鳥など、つねにペットを飼っている家庭に育つ。編集の世界にて動物行動学に興味をもつ。猫雑誌『うちの猫のキモチがわかる本』の編集統括を8年務めたのち、独立。編集を担当した書籍・雑誌に『マンガでわかる猫のきもち』『決定版 猫語大辞典』『はじめての猫 飼い方・育て方』『うちの猫の長生き大事典』『猫と一緒に暮らす女の子のための飼い方ブック』『幸せなハムスターの育て方』『小鳥のキモチ』『幸せな文鳥の育て方』『フレブル式生活のオキテ』など。6匹の猫と暮らす愛猫家。

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