「猫との避難」「高齢者と猫」の問題に東大生たちが向き合った「東大生と藝大生が本気で猫について考えてみた!展」イベントリポート by猫ジャーナル

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去る10月22日と23日の2日間にわたり、台東区谷中の「猫町アートスペース」で「東大生と藝大生が本気で猫について考えてみた!展」が開催されました。

イベントでは東京大学教養学部の学生による「『猫』をブランドデザインする」をテーマとした、ワークショップのプレゼンテーション。さらに西日暮里の「動物・野澤クリニック」院長・ 野澤延行氏と東大生とのトークセッションが行われました。2日間でのべ100名以上が来場した、こちらのイベントへ猫ジャーナルも足を運びまして、いそいそと取材してきましたので、その模様を皆さまにお伝えする次第です。

今回のイベントのきっかけになったのは、東京大学教養学部と博報堂が共同運営する授業プログラム「ブランドデザインスタジオ」。「共創」をテーマに、リサーチやコンセプトメイク、アイデア発想を学ぶことを目的とした、年2回開講される講座です。

2016年春学期(4月~6月)は「『猫』をブランドデザインする」を題目として、社会人参加者、東京芸術大学の学生とともに6つのチームを作り、ワークショップを行ってきました。学生と社会人という立場や、猫に対するスタンスも異なるメンバー同士が、猫をテーマに勉強と議論を重ね、何を行えば、人と猫とのより良い関係が作られるのかを考えた結果を授業で発表。そのなかの2チームの成果である「ネコンテナ」「孫猫プロジェクト」の2案が、この日のイベントで発表されました。

 

猫の「癒やし」で、避難所に猫の居場所をつくる「ネコンテナ」

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最初のチームから発表されたのが「ネコンテナ」というアイデア。

このチームでは、人と猫との関係における問題点のなかで「災害時の猫の避難」に注目。犬には、NPO等の支援団体があるのに対し、猫の避難は飼い主任せになっている状況を打開するアイデアを考えました。

環境省では2013(平成25)年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を公開し、同行避難を推奨しているものの、他の避難者からの苦情が寄せられるなどの理由で、避難所ではペットの入室を禁止しているケースも少なくありません。

03_img_5408-572x429東京藝術大学の学生と共に制作した「ネコンテナ」模型

災害の避難発生時には、飼い主と猫がバラバラになってしまうとの問題を解決するアイデアとして、考え出されたのが「ネコンテナ」。ガラス張りのネコンテナ内部は、猫がくつろぎ、生活できるようキャットタワーや猫トイレを設置。同行避難先で猫を保護する場所になると同時に、猫の姿を避難者に見てもらえる、安らぎスポットにするというアイデアです。

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ネット上における猫動画の数や猫関連本の出版点数などから「猫は見るだけで癒やしを与えてくれる存在」と捉え、「災害によってのけ者にされてしまう現実を、そういった状況においても猫に対して居場所を与えることで、猫が備える癒やしを人に与えるのではないか」という仮説に基づいて、考え出されたものです。

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ネコンテナは車輪付きで牽引による移動が可能。運輸業の企業とコラボするなどして、災害発生地帯に運び、猫の避難所として活用するほか、平常時には、ネコンテナを使って「猫との同行避難訓練」を開催し、まだ認知が乏しい同行避難の啓発活動にもつなげられるのではないか、というものでした。

 

保護猫と高齢者とを結ぶ「孫猫プロジェクト」

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続いてのチームは「孫猫プロジェクト」を発表。

猫の殺処分数は平成26年の統計で年間7万9千頭以上、犬と比べると約4倍にものぼるといいます(筆者註:平成27年度では猫の年間殺処分数は67,091頭、犬の殺処分数に対する割合は約4.24倍になります)。この殺処分される猫が減る未来を思い、2つのアプローチを考えました。1つは保健所に来る猫を減らすこと、もう1つが引き取ってもらえる猫の数を増やすこと。その後者 に焦点を当てたのが「孫猫プロジェクト」です。

譲渡会に訪れた人へのインタビューでは、高齢者への譲渡は行われていませんでした。飼い猫の寿命が延びるなかで、里親になりたい高齢者と、譲渡側とのミスマッチがある現状に対して、”孫のように猫をかわいがってもらう”ことを目指した「孫猫プロジェクト」を提案。

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高齢者が保護猫の里親になったあと、亡くなったり、自身の病気で飼えなくなったりしても、猫を引き取り、飼育または新しい里親を探すサービスで、これにより高齢者へも安心して保健所等から猫を譲渡でき、譲渡数を増やすというアイデア加えて、飼育のサポートとして、1カ月に一度訪問して飼育相談を実施し、高齢者の話し相手になるといったサービス提供もセットにするというものです。

現在、すでに実施されている高齢者向け猫飼育サービスとしては、ペット信託と老人ホームでの飼育がありますが、これらの不足点を補えるものとして、「孫猫プロジェクト」によって需要を見込むとしています。

「高齢者が、猫を飼育する際の不安を解消する」「飼育が不可能になった場合に確実に猫を引き取る」ことで、今まで譲渡を受けられなかった高齢者も、充実した猫との生活を送れるようになり、殺処分されてしまう猫を減らし、猫とともに暮らしたい高齢者のニーズを満たすことを企図しています。

 

野澤クリニック院長の野澤氏の「父性」に東大生は…

08_img_5490-572x429写真左から、東京大学教養学部の中條さん、関口さん、動物・野澤クリニックの野澤氏

2チームのプレゼンテーションが終わり、自らが院長を務める動物病院で日々臨床医療に従事している野澤氏が登場。東京大学教養学部の中條さん、関口さん、会田さん、小山さんの4名とともにトークセッションが行われました。

「下調べをしたものを話すのでは、言葉が死んでしまうと思うので、失敗もあるかもしれないが、あえて下調べをせずに話をしにきました」と語った野澤氏と、東大生とのやりとりは以下にて。

野澤氏:まず「ネコンテナ」からいきましょうか。プレゼンの最初には「地域猫や被災地の猫が大変な状況になっている」との話がありましたが、「避難と猫」との題材はどうやって選んだのですか?

東大生:猫と人のより良い関係を探るなかで、いろいろな問題を調べました。ちょうど熊本の震災が発生したころで、ペットとの同行避難の問題が直面する課題としてクローズアップされていました。地域猫の問題もありますが、多くの取り組みが行われているため、比較的取り組み例の少ない同行避難問題に着目しました。

野澤氏:プレゼンでは「紀伊國屋書店で取り扱っているペット写真集の比率が、猫と犬とで3:1」という話がありました。私は書店が好きで、30年近く通っていますが、昔は犬のほうが多かったのです。猫のほうが多くなったのは、ここ5年くらいの話で、最近のことだと思いますが、不思議ですよね。動物写真家や猫にまつわる物語・海外の文芸など、受け入れられる風潮がでてきました。それで「猫は見るだけで癒やしを与えてくれる存在」と捉えられたわけですが、なぜ猫じゃないとダメなのかと思ったのです。

ドイツの(人間の)治療法で、森を見て癒やされる「森林セラピー」(参考:わが国における森林セラピーの展開/『農林水産技術研究ジャーナル』30巻7号 2007年)というものがあって、そこから類推すると、猫でなくてもいいのではないかと。猫を見て不快に思う人はいますが、森を見て不快に思う人はまずいません。なぜ猫なのかと。

 
東大生:のけ者にされている猫を、もっと互いにとっていい方向に使えないかということでした。森であればそのままでいいが、現状マイナスのものをプラスに転換できないか、という発想からでした。

野澤氏:その発想にあるのは、実は「母性」です。(弱いものを)助けたいとか、かわいらしい、良くしたいというのは、全部母性だと思うのです。猫に限ったことでもなく、また、心理学的には男性にもあるものです。

しかし「母性」だけでは成り立たないんですよね。コンプレックス(心理学用語で「感情複合」)といいますが”横やり”が入る。これが母性に対する「父性」です。母と子どもと仲良くしてうまくいっているが、そこに叱る人がいないとダメだという感覚。今日はそういう立場で話をしています(笑)。癒やしの元にも、人によっていろいろありますよね。料理とか、鉄道とか。

 

「ネコンテナ」が浮彫にした種類の異なる2つの「癒やし」

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野澤氏:このコンテナ(で保護する場所を作るという)アイデアは、タイムリーなもので、僕も勉強になりました。さらに勉強になったのは、「ネコンテナ」という作品を、言葉だけではなく図面を起こして模型まで作ったこと。ここまでやると、強迫観念ですよ。ここまでやるのかという。

実際に皆が避難しているときにそんなものはどうか、という意見の人もいると思いますが、「ネコンテナ」が実現できれば素晴らしいことです。特に(災害時ではなく)普段の使い方もありましたよね、啓蒙という。あれが、すごくいいです。形になった模型があると、デモンストレーションになり、みんなが注目して認識が高まります。

今の「ネコンテナ」ですと、実際に猫をあのコンテナに入れたなら、けんかしますよね。いろいろな猫を合流させるのは難しいですから。また、どこかを壊して脱走してしまうのが怖いんです。解決するには、部屋を区切るとか、同じ家の猫だけにするとか、方法はあると思います。ぜひ改良型の模型を作ったり、企業とコラボして運搬できるアイデアを実現に近づけられたらいいと思います。

猫の写真集が売れているのは、猫を見て癒やされるとか、猫に癒やしを求めているからかもしれません。ただ、日常に求められる癒やしと、災害避難時に求められる癒やしとは、少し違うかなとも感じます。その2つの癒やしの関連性を、うまくつなげられたらいいですね。

 

高齢者がペットと暮らす精神的な効果と、「闇の部分」と

10_img_5506-572x429写真左から、野澤氏、東京大学教養学部の会田さん、小山さん

野澤氏「孫猫プロジェクト」のほうは、殺処分を減らす方法はないか、というのが出発点ですね。猫の殺処分数のほとんどは子猫なんです(筆者註:平成27年度の数値では、殺処分数のうち約65%が幼齢個体)。そして、どんどん持ち込まれて、蛇口の「元」が犬に比べて減っていません。犬と同じ地点(数値)までいかないのは、要するに飼い主がいないから持ち込んでいるのだと思います。返還率が低く、引き取り手がいないという話がありましたが、(引き取り手がいないことが分かっているので)殺処分という選択肢を最初から採らざるを得ない。

高齢者に譲渡して、孫のように扱ってもらうというアイデアで、タイムリーな話があります。高齢者がペットを飼うと、いろいろと精神的な効果があるという話です。これは僕もそうだと思います。猫と暮らすと、体に触れるつながりができて、情緒的、身体交流が生まれます。そういった移行ができる(愛着の対象となる)と、自分の子どものように思えるのです。

子猫ですとすぐ懐くでしょうが、もし成猫なら懐かない、凶暴なものもいるかもしれません。ここが「孫猫」にする場合の問題でしょう。また、もらったはいいが適切に飼えないケースもあります。「かわいそう」といって兄弟ごと5匹くらいを引き取って、適切に飼えずに家庭崩壊に至る例もあるんです。これではまずいですよね。

子どもが誰もいないとか、1人暮らしをされている身寄りのない老人に、先ほどのプレゼンのようなサービスができればいいですが、すごい経費がかかると思います。そこは発表された皆さんも「事業として行うのは難しい」と気づいていましたよね。授業として勉強するうえでは、そこは詰め切れていなくていいかもしれません。

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ただ、ペットショップでも、こういった「孫のような存在に」というセールストークで、とにかく抱かせて売ってしまうところもあります。先ほどのような、懐かずに飼えなくなってしまう例や適切に飼えない例といった「闇の部分」については、誰かが指摘しないといけないのかもしれませんね。解決方法として、親族で責任を持つように事前に確認し、万が一飼い主が亡くなった際には親族のところへ再譲渡するとかといったやり方も、ちょっとした工夫で表現を変えられて、受け入れやすいものになるんじゃないかなと感じましたね。

東大生:核家族化が進む中で、家族間の距離も遠くなっている現状を受けて、お子さんがいない高齢の方だったり、親族と離れて暮らす方だったり、親族で保証ができない環境にいる方もいると思います。その親族の代行としての役割を「孫猫プロジェクト」では受け持てるんじゃないかと思っています。

野澤氏:これからの時代は、変わっていくんだと思うんです。「孫猫プロジェクト」で、猫をきっかけに高齢の方をお世話していった結果、「私があとの面倒を見ます」と申し出るようなことも起きてくるんじゃないかと思うんです。このプロジェクトの考えているような精神的な母性を生かす話をやっていくことで、どんどん変わっていくんじゃないかと。その変化のためには、本日開催されたようなアピールが必要なんですよ。それで変わっていく。

 

いざ被災したとき、取るべき行動について考えておく

12_img_5511-572x382最後に、野澤氏からは「被災と避難」に関して次のような話がありました。

野澤氏: 昭和20年の東京大空襲のときの話を聞いたことがあります。その当時、犬を飼っていた人が戦火に遭い、火の手が来たときには、犬を解き放して逃がしていたのだそうです。もちろん、今と時代が違うから比較する必要はないでしょうし、あとで探すのが大変だとか、「同行避難が推奨されているのに逃がすとは何事だ」という意見があるのは分かります。

でも、本当にいざとなったら、その方法も考慮しないと、飼い主自身の命も危うくなってしまうのではないかと思うのです。もしかしたら、犬や猫のほうが逃げるのがうまいかもしれません。解き放しという選択肢も、少し考えておいたほうが(緊急時には)より具体的なのかもと思います。

当然、解き放つよりは同行避難のほうがいいでしょう。熊本では動物専門学校のスペースを充てて、避難してそのまま住まわせた例がありましたが、東京で震災が起きたときには、果たして同行避難できるスペースがあるかどうか。スペースがあったとしてもできないかもしれません。犬猫を伴った避難訓練を、私もやりますが1人では限界がありますし、いざとなったら訓練も役に立つのかどうか、という不安もあります。

そういった問題に対して、いろいろなアイデアを皆で出し合って、皆で対策を立てることと、「ネコンテナ」そして「孫猫プロジェクト」で皆さんが力を合わせて考えたことが結びついたら、すごく良いことだと思います。次にまた、猫をテーマにした課題があれば、お話しさせてもらえたらと思います。今日はありがとうございました。

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今回、東大生を中心とするチームが取り組んだ「猫」についての問題は、一筋縄ではいかぬものです。プレゼンされたアイデアがすぐさまブレークスルーになるかといえば、それは難しいですが、この2つの問題に限らずたった1つのアイデアで「一点突破」で解決できるものは、ほとんどないといっても過言ではありません。小さな結び目を1つ1つ丹念に解き続けるような、小さな解決を積み重ねる類のものであると思われます。今回のプレゼンテーションが解いた1つの小さな結び目が、多くの人に広がり、いつの日か解決の端緒をつかむきっかけになれば幸いです。

猫ジャーナルとしては、願わくは、今回の授業をきっかけとして、学生さんのなかから1人だけでも、今後も猫と人間との暮らしについて考え続ける人が生まれればと願う次第であります。

 

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すべての猫と、猫を愛するすべての人のために、猫情報をお届けするブログ「猫ジャーナル」。管理人である猫ジャーナリストによる書き下ろし記事です。

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