犬の嘔吐。「危険な吐く」と「大丈夫な吐く」を見極めよう[獣医師コラム]

愛犬が吐くと、飼い主さんはとても心配になります。もちろん危険な嘔吐もありますが、そもそも犬は病気でなくてもよく吐く動物です。どんなときに吐くかを知っておくと、不用意に慌てず対処できるかもしれませんね。今回は、犬の「吐く」について。

 

犬の「吐く」は人とは違う

犬が吐くという相談をよく受けるのですが、まず前提として、犬の「吐く」は人とは違うということを理解しておいてください。野生で生活していれば、つねに安全なものが食べられるわけではないので、食べてみて硬いものや食べ慣れないものなど、生理的に自分の体に合わないものは反射的に吐きますし、お腹もよく下します。

ただし、よく吐く動物だからといっても、吐けば胃酸が口まで上がってのどや食道を荒らすので、吐かせ過ぎはよくありません。毎日吐くようなら、病院へ連れて行ったほうがいいでしょう。吐いたときには、何を吐いたのか、どんなタイミングで吐いたのか、吐く頻度はどれぐらいか、吐いた後の様子はどうかなど、よく観察してください。それによっては、あまり心配のいらないケースも少なくありません。

 

できるだけ吐かせないようにすることも大切

それでは、比較的よく見られる大丈夫な「吐く」を挙げてみましょう。

●吐いた後にまた食べる
吐いた後に食べて、ケロッとしていれば大丈夫。吐いたものをまた食べても問題ありません。

●胃酸を吐く
白い泡(胃酸)や黄色い液体(胆汁)を吐く場合はたいてい空腹性の胃酸過多で、空腹状態が長く続いて胃酸が増えるため、それを吐きます。対策としては、空腹の時間を短くしてあげること。
例えば朝吐いてしまうコは、夜寝る前に、おやつかフードをほんの少し与えることで抑えられることが多いです。それでも改善しない場合は、胃自体が荒れていると思われるため、胃酸を抑える薬を処方することもあります。

●ガツガツ食べて吐く
ガツガツ食べて吐くのは、食べさせ方の問題です。飼い主さんが横について少しずつ与えたり、早食い防止用の食器やフードが少しずつしか出ない知育玩具などを利用して、食べる速度をコントロールするといいでしょう。

●水を吐く
水を吐くのは、たいていガブ飲みした後。動いた後や緊張してストレスがかかった後、とくに手術後などは麻酔がかかっているため丸一日、水を飲まずに家に帰すこともあり、帰宅後、安心して一気飲みして吐くことがあります。一気飲みが原因とわかっていれば、心配はいりません。

●草を食べて吐く
猫は、胃の中にできたヘアボール(毛球)を吐き出すために草を食べることがあります。そのため、犬も草を食べて吐くのは、吐くために食べているのだろうと思われがちですが、犬の場合は、おそらく食べたいから食べている。野草は繊維質が多く十分に消化できないため、結果的に吐いてしまうのでしょう。

このように犬はいろんな理由でよく吐く動物で、心配のいらないケースも多いのですが、だからといって頻繁に吐かせるのはよくありません。胃酸で食道を傷つけたり体力を消耗したりするので、吐いた原因を突き止め、できるだけ吐かないようにしてあげることも大切です。

 

こんなときは油断しないで!

もちろん、油断してはいけない「吐く」もあります。

●血が混じる
例えば、何回も吐いていれば胃や食道が荒れて、吐いたものに血が混じることはよくありますが、1回目の嘔吐で血が混じっている場合は要注意。胃炎や腫瘍(胃がん)からの出血の可能性もあります。胃がんなどは一過性のものではないので、食欲がなくなったり、食べているけれどもくり返し吐くなど、継続して症状が出ているはずです。

嘔吐が続く場合は、胃に入ったものを全部吐いているのか、一部だけ吐いているのか、便秘になっていないかなど、細かくチェックしてください。検査は、レントゲンだけでは診断がつかないことも多く、積極的に調べるなら胃カメラになります。

●朝食べたものが夕方まで残っている
食べたものは通常、半日もあれば胃から腸へ移ります。朝食べたものが夕方、吐いたときにそのまま出るなら、胃腸の調子が良くないといえます。それほど切迫した状態でないなら、次の食事を抜いて様子を見てから病院へ行くかどうかの判断をするといいでしょう。半日様子を見ても吐くようなら、病院へ連れて行ったほうが安心です。

 

食生活での注意点

●吐きやすいコは消化しやすいものを
フードが原因で吐くケースもないとは言えません。例えばカリカリだけで吐くなら、少し水を足してみたらどうか、しっかりふやかしたらどうかなど、どの状態なら吐かないかをいろいろ試してみるといいでしょう。フードをふやかして与えることは、消化を助け胃の負担を減らします。とくに子犬はまだ体が成長しきれてないので、固い食べ物を与えると胃で消化できず吐いてしまうことがあります。おやつもボーロやクッキーなど胃の中ですぐに溶けそうなものがおすすめです。

●体調の悪いときに、食べ慣れないものを与えるのはNG
吐き気が続いているときは、水を与えると気持ちが悪くなって余計に吐いてしまうことがあるので、基本的に飲まず食わずにして胃を休めるのがベストです。脱水が心配な場合は、点滴で補います。最近は、ペット用のスポーツ飲料のようなものも登場していますが、普段から飲み慣れていないものを具合が悪いときに飲むと余計に吐くこともあるので、注意してください。

何年も同じフードしか与えていない飼い主さんに限って、胃が弱って体調が悪いからと、飲み慣れないものや食べ慣れない特別なものを与えて、下痢をさせたりします。人は普段からバリエーション豊かにいろんなものを食べているから、胃が弱ったときに「おかゆ」となりますが、犬の場合は具合が悪くなったときこそ、いつもの食事から外れないでください。特別なものを与えたいと思ったら、普段からいろいろなものを与えて慣らしておくことが必要です。

吐く・吐かないは、体質によるところが大きいです。嘔吐の相談は若いコに多いのですが、それは、飼い主さんが自分の愛犬がどういう場合に吐いてしまうのか、体のパターンを知らないためです。ある程度年をとってくると、飼い主さんも、愛犬が空腹になると吐くとか、季節の変わり目に吐きやすいとか、パターンがわかってきます。日常のベースが元気であれば問題はありません。

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箱崎加奈子

獣医師、トリマー、ドッグトレーナー、アニマルクリニックまりも 院長 麻布大学獣医学部卒。 気軽に立ち寄れるペットオーナーのためのコミュニティスペースを目指し、「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」を東京都世田谷区、杉並区に開業。病気はもちろん、予防を含めた日常の健康管理、ケア、トリミング、預かり、しつけなどを行う。2020年よりピリカメディカルグループの運営会社 株式会社notに参画。現在、ピリカメディカルグループ総院長を務める。 ▶アニマルクリニックまりも ▶女性獣医師ネットワーク

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