猫の腫瘍は悪性が多い。乳腺腫瘍以外にも、危険なしこりに注意しよう[獣医師コラム]

愛猫の体をなでていて、しこりを見つけたら、すごく不安になりますよね。もちろん良性のものもありますが、厄介なのは、猫の腫瘍は悪性のものが非常に多いこと。今回は、乳腺腫瘍をはじめ、猫に見られる危険なしこりについて取り上げます。

 

猫の乳腺腫瘍

●不妊手術をしていないシニア猫は要注意
乳腺腫瘍は、エストロゲンという女性ホルモンに関連した乳腺の腫瘍です。7歳以上の不妊手術をしていないメス猫がなりやすく、出産経験の有無は関係ありません。

犬の場合は、良性と悪性が半々とされてきましたが、最近、日本は小型犬が多いので、もう少し良性のほうが多そうだと言われています。対して、猫の場合は、乳腺腫瘍に限らず、腫瘍は悪性のものが多く、犬と比べて悪性が少ないと言えるのは肥満細胞腫ぐらい。腫瘍ができたら、悪性だと考えたほうがいいでしょう。

●乳腺に1〜複数個のしこりができる
症状としては、乳腺がある場所にぼこぼことしたしこりができます。1つのこともあれば複数のこともあります。しこりが硬いか柔らかいかで、乳腺腫瘍かどうかの判断はできません。大きくなってくると、しばしば弾けてジュクジュクした状態になります。

●治療は切除のみ
治療法は切除しかありません。乳腺は左右両側にありますが、乳腺腫瘍が1つでもできたら、片側の乳腺を上から下まですべて切除します。そして、その病理結果によって、もう一方の乳腺を取るかどうかを判断します。

以前は一度に両側を切除していましたが、体への負担が大きく呼吸不全を起こしたりするので、最近は、片側ずつ取るのが常道になっています。



●生後1年以内の不妊手術で、ほぼ予防が可能
猫の乳腺腫瘍は、犬に比べてきわめてまれです。猫は発情すると、夜も眠れないほどうるさいので、ほとんどの飼い主さんは、早々に不妊手術をされます。乳腺腫瘍は早期に不妊手術をすることで発生を抑えられる病気で、生後1年以内に行えば、ほぼ予防できるというデータが出ています。犬より不妊手術の実施率が高いことが、猫に乳腺腫瘍が少ない原因でしょう。

ですから、ベストの予防法は、生後1年以内に不妊手術を受けること。ブリーディングのために不妊手術をしていない猫は、例えば子育てが終わった後など、定期的におっぱいにしこりがないかチェックすることが大切ですね。

 

乳腺腫瘍以外にも、気になるしこりはいろいろ

●リンパ腫
猫に多い腫瘍として、まず挙げられるのがリンパ腫、いわゆる血液のがんです。いろんな部位にできますが、消化管や胸腺などにできた場合は、外からしこりを確認するというより、体重減少や呼吸困難など、体の具合が悪くなって気づきます。しかしリンパ腫のなかには、体表にあるリンパ節が腫れるタイプもあるので、あごの下や首の付け根、脇の下、内股などにしこりがないか、気をつけてください。

●扁平上皮がん
皮膚や粘膜を構成する扁平上皮にできるがんで、猫に比較的よく見られます。皮膚にできるものは日光が誘因とされ、外に出る白猫がかかりやすいのが特徴です。耳や鼻、まぶたなどにできやすく、しこりというより擦り傷のように見えます。また口内にできることもあり、舌や歯茎などにしこりやただれなどが見られたら要注意です。

●肥満細胞腫
肥満細胞は、かゆみや炎症を引き起こすヒスタミンを放出する細胞で、体のどこにでもあります。それが腫瘍化したのが肥満細胞腫で、犬では悪性腫瘍として知られていますが、猫の場合は、内臓型はほぼ悪性ですが、皮膚型は比較的良性のものが多いです。数ミリ程度の小さな出来物で、頭部や首の周りなどにできやすいです。

●耳、鼻、指先の腫瘍
耳道内に腫瘍ができることもあります。外耳炎が治らないなぁと思っていると、耳垢腺腫や悪性の耳垢腺がんだったりすることも。アポクリン腺が腫瘍化したもので、形や色、数はまちまちで、プツプツと複数できることもあります。
その他、鼻全体が盛り上がってくる鼻の腫瘍もありますし、指先の腫瘍も危険です。猫の場合、指の腫瘍は、肺がんからの転移性のものであることが多いのです。

 

急激に大きくなるしこりは危険信号!すぐに動物病院へ

●全身を触ってしこりをチェック
腫瘍に早く気づくには、全身を触って、しこりがないかチェックするしかありません。腫れや化膿というケースもありますが、その場合には熱を持っているし、化膿だったらどんどん悪化して痛そうにするので、しこりとの区別はつくでしょう。

また、しこりの触り方にも何通りかあります。何かかたまりを感じたら、それが体の表面なのか中なのか、また表面でも、皮膚にあるのか皮膚の下にあるのかを確認します。ただし、しつこく触りすぎないことも大切。もし肥満細胞腫だったら、肥満細胞がもつヒスタミンを含む顆粒が飛び散って、真っ赤に炎症を起こしたり、ショック症状をきたすこともあるからです。

●気になるしこりは病院で細胞診を
気になるしこりを見つけたら、小さくても病院で診てもらいましょう。猫の腫瘍は悪性のものが多いので、勝手にイボだと自己判断するのは危険です。うちの病院の患者さんは、米粒程度の大きさでも連れて来られます。

しこりが悪性かどうかは外から見ているだけではわからないので、病院では必ず細胞診を行います。複数個できていたら、全部調べる。1個が良性だったからといって、全部が良性とは限らないからです。細胞診をして、その時点で良性であっても、1~2カ月様子を見ていき、急激に大きくなるようなことがあれば、再度細胞診を行います。

●すぐに病院に行けないときは、よく観察して
もし小さなイボを見つけたけれど、すぐに病院へ行くのがためらわれるときは、良く観察してください。それが1ヵ月経って何センチになったか、自壊してジクジクしたりしていないか。急に大きくなっているようだったら、すぐに病院へ連れて行ってください。

 

「獣医師コラム」をもっと読む

シニア猫のケア介護、どこまで自分で?「動物看護師」に頼める在宅ケアサポートに同行。

内田恵子

千葉県 獣医師、JAHA認定獣医内科医、JAHA認定パピーケアスタッフ、日本小動物血液療法研究会会長 内科・神経科・行動学を中心に、脳と心の治療の研究がライフワーク。

tags この記事のタグ